第19話 フツー
「ふふん、ふっふっふ~ん」
どこかで聞いたことがあるメロディだな、と思いながら、鼻歌まじりに制服を脱ごうとしている誠人に、はなえは声を掛ける。
「長谷川くん」
「んー?」
「なんで着替えてるの?」
「部室混むやん。どうせジャージやし」
「じゃなくて、今日、部活休みだよ?」
ベルトに手を掛けていた誠人と、鞄を肩に掛けたはなえと、両手で顔を雑に覆っている杏奈が目配せしている。そこに『あべのの人』が口を挟んでくる。
「はせやん、これから2週間、テスト休みやで?」
「嘘やん!!!」
勉強したくないと吠える誠人に対して、はなえが杏奈を見てニヤッとする。いいことを思いついてしまったと。
「じゃあさ、長谷川くん。一緒にテスト勉強しない?」
「え、助かる」
「杏ちゃんも」
杏奈はハッとしながら頷き、後ろから『あべのの人』が「僕もついていってええ?」と聞いている。
「じゃあ、駅前のマックとかどうかな?」
――ちょっとした間があって、誠人が「マクドか!」となぜか嬉しそうに言った。
・・・
駅前のファーストフード店に入り、二階の四人席に座る。誠人はハンバーガーとポテトとコーラ、『あべのの人』はナゲットとコーラ、杏奈はミルクティー、はなえはオレンジジュースが、それぞれの前に置かれている。
誠人はハンバーガーに食らいつきながら、手を挙げる。
「得意科目を募集しますー」
「僕、数学」
「うちは、国語かなあ」
「……」
はなえがストローをくわえたまま沈黙している。
「はしもっさん?」
「……ない」
「なにが?」
「得意科目ないの。全部フツーなの」
「それはそれですごいやん」
誠人の言葉に、はなえは疑わしそうに見る。突出したところがないことで中学の時の担任にはいろいろと言われてきたのだ。
「じゃあ俺の苦手な英語教えてや」
「……うん」
「僕も英語が苦手やねん」
「うちも……」
誠人に続く杏奈と『あべのの人』の言葉に、はなえは笑う。
「いや、私も得意! ってわけじゃないから」
「ほな、まず範囲から確認しよかー」
ハンバーガーを食べきって、もう半分になったポテトをつまみながら、誠人がプリントを広げる。
「お、自分ら、お疲れ~」
食べるの早いなと感心しながら誠人を見ていた、はなえの心臓が高鳴る。
「勉強しとるんか、えらいえらい」
「部長! 部長も勉強ですか?」
「ちゃうちゃう。ミーティング」
「え、今部活やったらダメなんでしょ?」
「部活ちがいますー。ミーティングですー。ほななー」
そう言って野球部部長の渡瀬が、はなえと杏奈にも手を振る。その後を3年女子マネージャーの三好が「お疲れさん~」と言ってついて行った。
「絶対、デートやし」
「え?」
はなえと杏奈が誠人を見る。誠人は、コーラをズズッと飲みながら言う。
「あれ、知らんかった? 部長、マネージャーの三好さんと付き合うてるねんて」
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