第18話 ぴっかーん

 1年2組のクラス担任に頼まれて、はなえと誠人は次のHRで配る冊子の準備中だ。杏奈も手伝いたいと言ったので、机をくっつけて3人で座っている。


 はなえは、健康診断の時に杏奈の気持ちを聞いてからどこかソワソワしていた。誠人と杏奈を交互にチラ見しながら冊子を作っているふりをしている。杏奈は、はなえの視線に気づいて笑顔を見せるが、誠人は1冊ずつ指で数えている。


「いち、にい、さんまのしっぽ、ごりらのむすこ……」

「何の歌?」

「え? はしもっさん、知らんの?」


 知らない、とはなえが首を振ると、誠人がニヤッとする。


「そうか。東京は数え歌すらシャレとるんやな?」

「数え歌……あ、数え歌だったの?」

「せやで」

「東京だけかは知らないけど、私が知ってるのは、いちじく、にんじん、さんしょに、しいたけ、ごぼうに、むかご、ななくさ、はつたけ、きゅうりに、とうがん」

「えー! 全然ちゃうやん」


 そう言って、誠人が冊子を置いて指を折りながら、さきほどの数え歌を歌う。


「いーち、にー、さんまのしっぽ、ごりらのむすこ、なっぱ、はっぱ、くさったとうふ」


 全然違うものなのだなと、はなえが変に感動していると誠人が続ける。


「とうふはしろい、しろいはうさぎ、うさぎははねる、はねるはかえる」

「え?」

「かえるはあおい、あおいはきゅうり、きゅうりはながい、ながいはへび」

「なになに?」

「へびはこわい、こわいはゆうれい、ゆうれいきえる、きえるはでんき」

「……」

「でんきはひかる、ひかるはおやじのはげあたま!」


 誠人と杏奈が示しあわせたように、「「ぴっかーん!」」と言って笑う。


「それもう数えてないじゃん」


 共通の事柄で楽しそうにしている誠人と杏奈を見て、はなえは微笑みながら、「……まあいいか」と言って冊子を数えることに集中した。


「いち、にい、さん、しい、ご――」


 いちじく、にんじん、と歌う気にはなれなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る