第14話 三文字

「なあなあ、昼休み、入部届もらいに行くけど」


 朝の挨拶の後、誠人が野球部の入部届の話をしてきた。


「はしもっさんと片岡、ほんまに入部するんやったら、自分らの分ももらって来ようもうてこうか?」

「入部届って渡瀬部長にもらいに行くの?」

「いや、顧問の先生ちゃうかな」

「……そっか。じゃあお願いしようかな」

「ほな、とこ行ってくるわ」

「兄さん?」

「ん? 先生やで」


 そう言われて、はなえは野球部の部活見学でずっとベンチに座っていたおじいちゃん先生のことを思い出した。どう考えてもお兄さんという年齢ではなさそうな。


「枚方の遊園地、知らん?」

「ひらかた?」

「ひーらっぱーって」


 節つきで言われた言葉に、はなえは不思議そうな顔をする。誠人はその反応にも慣れてきたのか、あるいはある程度予想していたのか大げさに頷いた。


「そうかーどうせ、全国にはユニバしか知られてへんねやろな」

「ユニバ?」

「ほんまに言うてる?」

「遊園地の名前?」

「ほんまに?」


 話が進まない二人に、杏奈が声を掛けてきた。

「なんの話してるん?」


「聞いてくれ、片岡。東京にはユニバが知られてへん。大阪の心ユニバが!」

「えー? ……あ、自分、ユニバちゃうで」


 杏奈がそう言って鞄についたキーホルダーを持ち上げる。黄色い体に大きな目、青いデニムが特徴のアニメキャラクターだ。はなえがそれをじっと見つめる。

「ユニバーサル……ああ! USJ」


 それを聞いて誠人は衝撃を受けたように両手で顔を覆って天井を仰いだ。

「出た! 東京はなにかとオシャレに言うんや」

「オシャレなの?」

「千葉にある東京の遊園地もそうなんやろ」

「TDR?」

「出た!!」


 はなえが苦笑する中、杏奈が思い出したように言う。


「そういえば、さっき廊下で野球部の顧問の先生にうてんけど。入部届欲しかったら部長のとこに行って欲しいねんて。3年5組。お昼休み、一緒に行く?」

「行く!」


 はなえは手を挙げて元気に返事した。

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