夜勤明けで疲れた体を引きずり、葛城命は電車に乗ったのだが……寝過ごして乗り過ごし、着いた先はなんと奥多摩。そこで彼女は子狐と出会い、導かれるまま進み進み進んだ果てに倒れ伏す狐耳の美男子と行き会ったのだ。彼はもらった握り飯の恩に報いるため彼女の夢であるカフェで働くと言い出し、果たして命は夢を叶えることとなるのだった。
奥多摩に開業した『古民家カフェあやかしや』店主の命さんがお客さんのお茶にまつわる問題や謎を解決していくお話――なのですが。
人情系探偵ものかと思って読み始めると違うのですよ。狐妖怪の永久さんとの噛み合わないコメディ。あやかしたちとのほのぼの交流劇、神隠しにあった命さんの父親を探すシリアス。それぞれがちゃんと確立していますから。
ただ、読み進めていくとわかるのです。様々な要素が絶妙な配合によって妙なるフレーバーを匂い立たせていること――まさにこの物語ならではの味わいを確立している点、そのすばらしさが。
すっきりした飲み口がいつしか鮮やかな深みを成す物語、どうぞお召し上がりください。
(「“今”に潜むあやかしども」4選/文=髙橋剛)