第93話 ファミトレとタルル
俺の説明が終わると、ヴィリはファトミレに優しく微笑む。
「苦労させましたね、申し訳ない」
「滅相もなきことでござる」
「どのような経緯で誘拐されたのか、聞かせてくれませんか?」
「はい」
ファトミレとタルルは故郷から歩いて王都に来たのだという。
道中、路銀を稼ぐため、護衛依頼や魔物討伐依頼をこなしつつやってきた。
二日前、王都までの護衛任務をうけ、これ幸いと引き受けたところ、それが罠だったのだ。
「商人にみえたのでござるが……夕食に眠り薬を盛られ……」
「それでどうなったのですか?」
ヴィリは優しく続きを促す。
「気付いたら、あの家の中にいたのでござった」
「そのとき、呪われていましたか?」
「どの状態を呪いと言うのか、正確にはわからぬのでござるが……恐らく」
「意識は、どうでしたか?」
「視覚聴覚を含めた五感はあり、意識もあったのでござるが……、身体を動かすことはできませなんだ」
「ぁぅぅ」
タルルもファトミレに同意している。
タルルとファトミレは、ほとんど同時に呪われたのだろう。
「自分の意志に反して動くことは?」
「ありもうした。命令されたら、拙の意志に反して、その通りに動くのでござる」
「ぁーぅ」
呪いによって、完全に支配下に置かれていたのだろう。
「融合体になったときは?」
「身体の中に強烈な嫌な力が流れ込んできたのでござる。タルルの苦しみと五感が流れ込み、それでいて拙の意識は拙の意識でしっかりとあったのでござる」
「ぁぁぅ」
感情と五感を共有しつつも、自我と意識はしっかり残っていたということらしい。
「時間が経てば、自我と意識も融合していたかもしれないね」
そうぼそりとつぶやいた後、ヴィリは笑顔で尋ねる。
「敵の呪いについてわかったことがあれば、何でも教えて欲しい。使っていた道具、人数、術式や印、祝詞でもなんでもいい」
「ええと……」「ぁぁぅ……」
ファトミレとタルルは、思い出しながら、語っていく。
そして、俺はよくわからないので、ジュジュとネコ、シェイドと一緒にお菓子を食べた。
「うまいな」
「じゅっじゅ!」「にぃあ」
ネコはいつもより甘えているらしく、食べさせろと要求してくる。
仕方ないので、口までお菓子を運んでやった。
「これもうまいのである! グレンさまも食べるとよいのだ」
「……ぁぅ」
タルルがよだれをたらしてこっちを見ていた。お菓子を食べたいらしい。
俺はファミトレに一言ことわって、タルルを抱っこして、俺の隣に座らせる。
「にあ~」
「タルルが怯えるからやめなさい」
何か思うところがあったのか、ネコがタルルを威嚇するので止めておく。
「タルルも、お菓子を食べなさい」
「ぁぅ!」
「ダメージは少なかったとはいえ、呪われていたからな。たくさん食べた方がいいぞ」
そのころには、ヴィリに勧められてファミトレもお菓子をバクバク食べていた。
「拙、こんなにおいしいお菓子を食べたことござらぬ!」
「いっぱい食べなさい」
ヴィリも嬉しそうにほほ笑んでいる。
「ぁ~ぅ」
「ん? 喉が乾いたのか? お茶で良ければのむか? やっぱり水の方がいいか?」
「水ならまかせて」
オンディーヌが水を出してお皿にいれてくれる。
それをタルルは嬉しそうに飲んでいく。
「タルル。やっぱり喉が渇いていたんだな」
「ぁぅ!」
「…………」
オンディーヌが無言でタルルのことを撫でる。
その表情は真剣だ。
「うん。もう呪いは大丈夫。タルルもジュジュの保護下に入ってる」
「いつ?」
「この建物に入った後。ゴーレムに怯えたタルルをグレンが抱き上げたとき」
「……あのときか」
確かにあのとき、ジュジュがタルルを優しく撫でていた。
「そういえば、あのころからタルルの言っていることがなんとなくわかるようになったんだよな」
「それはタルルがジュジュの保護下に入ったから。そのおかげ」
精霊の上王というのは、やはりすごいらしい。
「そうか、タルルよかったなぁ」
「ゎぁぅ」
さっきからタルルが小さな声で鳴くのは、周囲の迷惑にならないようにするためだろう。
きっとファミトレたちの故郷でしつけられたに違いない。
「タルルはファミトレとはどこで知り合ったんだ?」
「ゎぅぁぅ」
「ふむ。物心ついたころから? 精霊は親から生まれるわけじゃないんだよな」
「そ。ファミトレは狼の獣人族。そしてタルルは狼」
「狼の獣人族だから、ファミトレの近くで生まれたのか?」
「獣人は、精霊と相性がいいものが多い。魔力回路が似ているおかげ」
「ふーん、つまり狼の獣人の魔力回路は、狼の精霊の魔力回路に元々似ていると?」
「そ、猫の獣人なら猫の精霊と似ている」
伝承では人と動物の精霊との間に生まれたのが獣人族と言われている。
人と動物の精霊の間に子供は生まれないので、伝承は真実ではない。
だが、子作りが暗喩する魔法的な何かがあったのかもしれないとも思った。
「ぁぅゎぅ」
「そうか、タルルは一緒に育ったのか」
「深い信頼関係で結ばれていたから、自然と契約がなされた。そういうもの」
オンディーヌはうんうんと頷いている。
水の精霊が人間の男と結婚したという伝承がある。
それも、自然の契約だったのかもしれない。
「ぁぁぅ!」
「なるほど。ファミトレの魔法の才能が凄いとわかって学院に入学することになったのか」
契約したことで、ファミトレの魔法の威力は格段に上がったはずだ。
そして、周囲の人間は契約したことを知らなかったのだ。
ならば、故郷の人たちはファミトレを魔法の天才だと思うだろう。
故郷の人たちが思っていた形とは違っていたが、実際、ファミトレは天才だったのだ。
「ぁぅ!」
タルルが言うには、ファミトレは故郷に仕送りをしたいらしい。
奨学金の制度とかもあるし、卒業したら高給取りだ。
学院の生徒でいる間も、精霊と契約しているならば魔物退治などの仕事もできる。
仕送りぐらいできるだろう。
「ぁぅぁぅ!」
タルルは、そんなファミトレを手伝いたいらしい。
「ファミトレもタルルも立派だなあ」
タルルは自慢げに尻尾を振っている。
ファミトレのことが誇らしいようだ。
そんなタルルが可愛かったので、俺は頭を撫でた。
「いいこいいこ」
「じゅっじゅ」
俺とジュジュでタルルの頭を撫でていると、突然ヴィリに話しかけられた。
「いいかい? グレン」
「ん? いいぞ」
よくわからなかったが、つい「いい」と返事をしてしまった。
「よかった。そう言ってくれると思ったよ」
「ああ。で、何がだ?」
「また、ろくに話を聞かずに承諾したね?」
「すまない。で、なんだ?」
「えっと、ファミトレのことなんだけど、学院に入学することになったんだ」
「ああ、おめでとう」
ファミトレは、オンディーヌが天才と認めた子供だ。
学院への入学は当然認められるだろう。
「それで、ファミトレは故郷に仕送りがしたいらしくて」
「それはタルルに聞いた」
どうやら、俺がタルルから話を聞いている間、ヴィリも似たようなことを話していたらしい。
「それなら話が早い。魔物退治の仕事なんかをやってもいいけど、入学したばかりの生徒、それもこんなに小さい子供に危険な仕事さえるのはちょっと抵抗があるよね」
「それはそうだな」
「だから、安全な仕事を斡旋したくて」
「それはいいことだと思うぞ」
「それで、僕は尋ねたんだ。グレンの助手として使ってあげてくれないかって」
「いや、仕送りできるほどの給金が出せないぞ?」
「それは国が出すよ」
「国?」
「ほら、精霊保護官の助手だから」
リルと立場的には同じになるのだろうか。
リルはものすごく優秀な魔導師だ。そしてフェリルも強力な精霊だ。
だが、ファトミレも、タルルもまだ子供だ。
「うーん。だがなぁ」
精霊保護官の仕事には、危険な業務もあるのだ。
子供にさせていいとは思えない。
俺がためらっていると、ファミトレが床におりて土下座した。
「グレンさまは拙の命の恩人ゆえ! 従者としてつかえることをお許し下され!」
「わゎぅ!」
タルルまでファミトレの隣で伏せの姿勢をとっている。
一緒に土下座しているつもりなのだろう。
「いや、土下座はしないでくれ」
「いえ! 認めていただけるまで、この頭を上げることはいたしませぬ」
「わわう!」
「わかった。いいよ」
「ありがとうございます!」
「わうわう!」
ヴィリは笑顔で言う。
「あっさり認めたね」
「いや、助手の業務は別に戦闘だけじゃないからな」
そういって俺がネコをみると、ヴィリも何をさせたいのか理解したようだ。
俺は、留守にしている間のネコの世話係を任せたかった。
いつもヴィリが世話をしてくれるとは限らないのだ。
「しゃー」
だが、伏せをしているタルルをみて、ネコがなぜか威嚇していた。
「まあ、きっと仲良くなれるだろうさ」
もし、ネコとタルルの相性が悪いなら、世話係以外の仕事を考えればいい。
そんなことにならないことを、俺は心の中で祈った。
みにくいトカゲの子と落ちぶれた元剣聖 ~虐められていたところを助けた変なトカゲは聖竜の赤ちゃんだったので精霊の守護者になる~ えぞぎんぎつね @ezogingitune
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