第91話 天才児

 子供と精霊を抱っこしたオンディーヌが廃屋の外に出ようしたときサラマンディルが入って来た。


「む。サラマンディル。外の後始末は終わったの?」

「……終わりましたよ。……グレンさま。お疲れさまです。あとの些事はすべて我らにお任せください」

「うん、ありがとう。助かるよ」


 サラマンディルの後ろには騎士たちが五人ほど付き従っていた。

 それも騎士の中でも上位の近衛騎士だ。

 どうやら、サラマンディルが騎士たちを指揮しているらしい。


「…………相変わらず、見事な手際でございますね。今朝、我が主の依頼を受けたばかりというのに、さっそく解決なされるとは」

「運が良かっただけかな」

「……グレンさまに依頼なされた我が主も鼻が高いことでございましょう」

「役に立てて良かったよ」


 サラマンディルは真面目な顔で言う。


「……怪しい場所を見つけるコツとかあるのでしょうか?」

「そんなもんないよ。幸運だっただけだ」

「…………」


 じっとサラマンディルは俺を見つめている。

 謙遜せずに本当のことを話せと言う圧を感じる。

 謙遜しているわけではないのだが、仕方ないので少し考えて考えていたことを話すことにした。


「謙遜ではなく運が大きいのは間違いない。何の確証もなかったからな。ただ俺に依頼する前にシルヴェストルが探しているはずだろう?」

「……左様でございますね」

「そして、敵もそれを知っているはずだ。馬鹿じゃないならな」


 馬鹿なら簡単に足を出すだろう。それを見逃すシルヴェストルではない。


「なら、王都の外縁部が怪しいと思うだろう? ヴィリが言っていた通りな」


 王都の貴族の屋敷があるエリアには、学院があり、ヴィリとシルヴェストルがいるのだ。

 悪い奴は、できるだけ遠くで、悪事をなしたいはずだ。


「……ですが、我が主はここが怪しいとまでは思っておりませんでした」

「この辺りには外壁が壊れている場所もある。外から物資を運び込むの楽だろうし。人を集めるのも他よりは楽だろうさ」

「…………そうでありましたか。我が主に穴をふさぐように言っておきます」

「それよりも、廃屋を整理し方がいいかもな。チンピラの巣窟にもなっているし」

「……たしかに。それも報告しておきます」


 俺とサラマンディルの様子を、近衛騎士たちは見ないようにしつつも気にしているようだった。

 一般剣士が、サラマンディルにため口で話しているのが不思議なのだろう。


「じゃあ。サラマンディル後は任せた」


 そういって、オンディーヌは帰ろうとする。

 子供と精霊を学院に連れ帰ってベッドに寝かせてやりたいのだろう。


「……お任せください」

「馬車使う」

「……はい。ご随意に」


 オンディーヌは子供を横抱きにしていた。

 子供のお腹の上に乗った子犬は、キュンキュン鳴きながら子供の顔をべろべろ舐めている。


「気をつけてな」

「うん」


 オンディーヌが歩き出したら、子犬が「きゅーんきゅーんきゅーん」と大きな声で鳴き始める。

 そして、子供のお腹の上から飛び降り、オンディーヌに水で受け止められて床に優しく着地する。

 床に降りた子犬は俺の足目掛けて懸命にかけてきた。


「きゅうんきゅん」

「子犬、どうした?」


 子犬は俺の靴に足をかけズボンに噛んで引っ張って、何かを懸命に訴えている。


「きゅーんきゅーん」


 なんとなく、ついて来て欲しいと言っているような気がしなくもない。


「じゅじゅう」

「ふむ。そうなのか」


 子犬は俺と、そしてジュジュに一緒にいて欲しいらしい。

 そうジュジュが教えてくれた。


(ジュジュが精霊の上王だから保護を求めているのか?)


 俺は念話でシェイドに尋ねる。


(そうであろうな。自分をと言うより、意識のない相方を保護してほしいのだろう)

(なるほど。子犬は本当にその子供が好きなんだな)

(じゅう)


 俺は子犬を抱き上げる。


「オンディーヌ、俺も一緒に行こう」

「ん、わかった」

「私はフェリルとゆっくり戻りますね」

「すまない。頼む」


 フェリルは馬車に乗れないので仕方がない。



 現場の後始末はサラマンディルに任せて、俺はオンディーヌと一緒に馬車に乗り学院へと戻る。

 子供を馬車の座席に寝かせて、その向かいに俺とオンディーヌが座る。

 シェイドは俺たちの足元にいて、ジュジュは俺に抱っこされた状態だ。


「ふんふん」


 そして、子犬は子供の上に乗って、俺を見て尻尾を振っていた。


「人懐こいな。それにしても重くないのか?」

 子犬とはいえ、中型犬ぐらいの大きさがあるのだ。


「重いと思う」

「やっぱり」

 俺は子犬を抱っこしてひざの上に乗せる。


「きゅーん」

 子犬は子供がいじめられないか心配しているようだ。


「悪いようにはしないよ。安心しなさい」

 そういって子犬の頭を撫でる。ジュジュも一緒に撫でている。


「ところで、呪われたのはいつ頃だ?」

「きゅーん」

「……今朝」


 オンディーヌが通訳して教えてくれた。


「どういう経緯で?」

「きゅーんきゅうう」

「……学院の入試のためにやってきて、誘拐された」

「それは大変だったな」


 俺がそういうと子犬が甘えるので、撫でまくる。


「オンディーヌ」

「わかってる。この子たちは被害者」

「ありがとう」

「きゅーん」


 子犬も安心したようだ。

 お腹を見せて「はぁはぁ」言っている。

 そのお腹を撫でておく。


「入試って難しいのか?」

「一般的に難しい。でも、精霊と契約済みなら大丈夫」

「こんな小さいのに、よく契約の許可が降りたな」


 子供も子犬も幼い。

 幼い魔導師の契約に許可が降りることが一般的とは思えなかった。


「…………」

「どうした?」

「契約したのはいつ?」

「きゅうん」

「そ」

「なんだって?」

「子犬は契約を知らない」

「ふむ?」


 そのようなことがあるのだろうか。

 いや、俺はジュジュとシェイドと知らずに契約していたからあり得るのだろう。


「王都に来たことは?」

「ぁぅ」

「初めて」


 オンディーヌが通訳してくれた言葉を聞いて、疑問が浮かぶ。


「ん? 王都でしか契約できないようにしたっていっていただろう?」

「した」

「なんで、この子たちは契約してるんだ?」

「…………」


 オンディーヌは真剣な表情で沈黙した。


「なにごとにも例外はある。この子は天才」

「ん?」

「グレンと同じ」

「この子と子犬の相性がいいってことか?」

「そう」

「我とグレンさまと同じなのだ」

「お前は違う」


 シェイドが嬉しそうに言うが、オンディーヌに否定された。

 とはいえ、俺がシェイドと契約したのも王都の外だった。


「ヴィリの契約術式を使わないなら、王都外でも契約できるってことか」

「簡単に言えば」

「なるほどなあ。やっぱり珍しいのか?」

「珍しい。知っている限りグレンとこの子だけ」


 将来有望な魔導師のようだ。


「学院で、しっかり育ててやってくれ」

「わかってる。そのための学院」


 魔導師の育成はヴィリに任せればいいだろう。

 悪いようにはしないはずだ。


 そろそろ学院に到着するという時、子供ががばっと勢いよく起きた。

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