第72話 念話のやり方

「なるほど、よくわからんが、ネコはジュジュの眷属みたいなものということだな」

「そ」

「だから、俺もネコの言いたいことがわかると」

「普通は契約精霊の眷属と意思の疎通はできない。でもジュジュもグレンも特別。才能がある」

「そっか」

「そもそも、普通の魔導師は、非言語での意思の疎通は難しい」


 そういわれたら、リルとフェリルも言葉で意思の疎通をしていた。

 そんなことを話している間に、みんながご飯を食べ終わった。


 夜ご飯の後片付けを終えたあと、オンディーヌが言う。


「で、本題。シェイドたちとの念話の仕方を教える」

「おお、教えてくれ」


 戦闘の際に声に出さずに会話ができれば、大きな有利になる。

 ネコを助けた戦いでは、シェイドが臨機応変に立ち回ってくれたおかげで被害を防げた。

 念話がきちんと使えたら、シェイドがうっかりしてても、被害を防げただろう。

 それに、細かな連携も容易になる。


「声じゃなく魔力を通じて会話をする。そのためには魔力の流れを感じて、そこに言葉を流すつもりでやるといい」

「聞き取りは?」

「シェイドが言葉を伝えることができれば、自然と聞こえるようになる」

「なるほど。送り手側次第ということだな」

「そ」


 ならば、赤ちゃんのジュジュやネコは念話で語りかけるのは難しいかもしれない。

 ジュジュもネコも意思を持っているが、意思を明確な言語化することはできていないのだ。

 俺が日常的にジュジュとネコの鳴き声から読み取っているのは、感情に近いものである。

 別に言語化されたものではない。


「じゅ!」「にぁ!」


 ジュジュとネコはベッドの上でじゃれ付き合って遊んでいる。

 いまの鳴き声は「楽しい」とかそのぐらいの意味だ。


「じゃあ、シェイド、俺に念話を送ってくれ」

「ん?」

「ん? じゃなくて、シェイドからの念話を受け取れば、俺も念話が何かわかるかもしれないし」

「そういうことであるか……。わかったのである」

 そう言うとシェイドは目をつぶった。

 俺も心を穏やかにして、念話が届くのを待った。


 ………………

 …………


 そのまま一分が過ぎた。


「シェイド?」

「聞こえたであるか?」

「何も聞こえないが」

「あれ、おかしいのである。我は確かに念話を送ったのだが……」

「全く聞こえてこないな。俺の受け取り方がまずかったか」

「かもしれないのであるなー」


 深刻そうな顔で頷くシェイドに、オンディーヌが冷たく言い放つ。


「なわけあるか。ちゃんと送れたら、相手が素人でも聞こえる。それが念話」

「だが、シェイドは精霊王だぞ? 念話を送れないなんて」


 俺がそういうと、シェイドは顔というか、頭部全体を闇で覆っていた。

 人間で言うところの、穴があったら入りたいという心境なのかもしれない。


「…………す、すまぬのだ。我は今まで念話とか送ったことかったのである」

「シェイドは契約をしたことも無ければ、そもそも念話するような友達がいないから仕方ない」

「……すまぬ」

「そういうことなら、仕方ないよ。一緒に練習しよう」

「グレンさま!」


 闇が晴れて、感動した様子シェイドの顔を見えた。


「シェイドは後回し。グレン。さっそくやってみて」

「わかった。シェイド。念話を送ってみよう」

「楽しみなのである!」


 へこんでいたシェイドだが、あっという間に元気になった。

 尻尾を揺らしてこちらを期待のこもった目で見つめている。


 俺はシェイドとの間の魔力の流れ、つながり。そう言ったものを意識する。

 それ自体は感じられるようになったのだが、それに意思をのせるというのが難しい。


「うーん」

「むむ! グレンさま、何も伝わってこないのだ」

「精霊王でもできない奴がいるのに、いくら天才でも人間がすぐできるようになるわけない」

「たしかに」

「まさに、まさに、そうであるなぁ」


 得心したらしいシェイドがてうんうんと頷いている。


「グレン。私がジュジュに魔力を与える」

「ん? それはありがたいが……」


 呪いの解けたばかりのジュジュは、まだ魔力が充分ではない。

 魔力をもらえるのはとてもありがたい。

 だが、念話の練習中の今、オンディーヌがジュジュに魔力を与える意味がよくわからなかった。


「ジュジュに魔力を与えたら、魔力の流れがはっきりと感じられるはず。イメージするのも楽になる」

「なるほど、そういうものなのかもしれない」

「なるほどぉ」


 俺は魔法に関することには詳しくない。

 だからこそ、専門家の言うことは、とりあえず聞いておけばよい。

 うまくいかなければ、そのとき考えればいいだけだ。

 専門家であるはずのシェイドまで感心しているのは少しだけ違和感があるが気にしないことにした。


「ジュジュ。おいで」

「じゅっじゅ!」

「にぃ~い?」


 オンディーヌはベッドの上からジュジュを抱き上げる。

 寂しがると思ったのか、ついでにネコも抱き上げた。


「グレン。抱っこしてて」

「わかった。ジュジュ、ネコ眠くないか?」

「じゅ」「にー」


 眠くはないとは言っているが、赤ちゃんだからいつ寝てもおかしくない。

 そんな気がした。


「……ごろごろごろ」

「お、ネコがゴロゴロ言ってる。可愛いなぁ」


 俺はジュジュとネコを優しく撫でた。

 ジュジュも俺に抱きついて甘えはじめる。

 そんなジュジュに、オンディーヌはそっと手を触れる。


「ジュジュ。魔力をあげる」

「じゅ~」

「ん」


 お礼を言うジュジュに、オンディーヌは笑顔で魔力を与え始めた。

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