第40話 精霊との戦い
「グウオオオオオオオオオオオ」
大きな精霊が咆哮する。
腹の底に響くような、低く圧を感じる鳴き声だ。
そして、圧倒されるような強大な気配を感じる。
この強大な気配の正体はきっと魔力だ。
「ひっ」「ぁぅ」
リルもフェリルもその精霊の発する魔力に気圧されている。
「じゅ」
だが、ジュジュは怯えることなく、精霊をじっと見つめていた。
その精霊は、やはりジュジュに似ている。
先ほど襲いかかってきた小さな精霊を、そのまま大きくした感じである。
「お前が、ヴィリの言っていた『倒すべき敵』だな」
どうやら、これまで襲ってきたのは本体では無かったらしい。
眷属なのか、身体の一部なのか、それはわからない。
それに今はそのどちらでも良いことだ。
大事なことは、その眷属か身体の一部らしきものを同時に何体出せるのかである。
「俺は突っ込む! 他は任せる」
「え? はい!」
リルもフェリルも強い。
自分の身は自分で守れるだろう。
眷属みたいなものを沢山出されたら厄介だ。
そうなれば、近づくことが難しくなり、剣がそもそも届かない。
それに大きな精霊は圧倒的な魔力を持っている。
遠距離からの魔法戦に持ち込まれたら勝ち目はない。
だから俺は大きな精霊に向けて走る。
戦闘中で興奮しているからか、足の痛みは気にならない。
身体が動く。はっきりと敵の姿が見えた。
どうやら調子がいいらしい。
「グゥルオオオオオオ」
大きな精霊は大きく咆哮すると、走る俺を見た。
そのとき大きな精霊の身体がきらりと光ったように感じた。
見えたわけではない。感じたのだ。
「はぁ!」
俺は咄嗟に剣を振るっていた。
超高速で放たれた魔法を、反射的に斬っていた。
やはり調子がいい。
魔法を斬りながら、接近する俺を目がけて、四方から魔法が放たれる。
どうやら眷属らしき者たちが潜んでいたようだ。
「あぶない!」「ガウ!」
後方からリルとフェリルが、敵の魔法の大半を防いでくれる。
リルたちが漏らした奴は剣で斬り落した。
ヴィリは、俺なら魔法を斬れると言っていた。
契約前の魔導師の魔法ならともかく、契約後の魔導師の魔法を斬れるとは思えなかった。
契約後の魔導師より強力な精霊の魔法を斬ることなどあり得ないと思った。
だが、斬れた。
魔法が発動される前の気配を感じることができるようになったからだろう。
オンディーヌとサラマンディルが魔力をくれて、魔力の流れというものを知ったおかげだ。
いや、そもそも全てジュジュのおかげだ。
ジュジュを保護しなければ、オンディーヌたちから魔力を貰うことも無かったのだから。
「はああああ!」
大きな精霊に接近した俺は剣を振るう。
だが、キンという高い音とともに剣が止められた。
先ほど、小さな精霊に剣を止められたときと全く同じである。
強力な障壁を展開し、精霊は自分の身を守っているようだ。
障壁を斬ることができなければ、精霊を倒すことはできない。
「ぐぉぉぉぉおおおおぉぉ」
大きな精霊は咆哮しながら魔法を放ち、手を振るう。
その手には鋭く大きな爪が生えており、一撃でも食らえば命はないだろう。
それに俺の前にはジュジュがいる。
絶対に防御を失敗することはできない。
俺は魔法を斬り落し、爪を弾き返し続ける。
余りに速い。深く思考する間がない。
じっくり観察することも難しい。ただ攻撃を凌ぎながら、ぼんやりと精霊を眺めるだけだ。
一回も失敗することができないというプレッシャーに、冷や汗が流れる。
「ジュジュジュジュジュジュ」
そしてジュジュは怯えることなく、敵をしっかりと見据えながら、鳴いていた。
「…………」
ものすごく長く感じる十秒がたったころ、思考がはっきりしていく感覚があった。
大きな精霊の動きがよく見える。姿もよく見れた。
(あ、なるほど?)
大きな精霊が展開する障壁が拍動していることに気づいた。
拍動に伴って、障壁の密度も揺れ動いている。
しかも、大きな精霊の周囲に、今まで見たことのない鎖のような物が見えた。
その鎖は、今まで感じたことのある魔力の流れに似てはいた。
似てはいるが、絶対に違う物だと確信した。そして、良くないものだ。
なぜ確信できたのかはわからない。理屈はない。そう感じたのだ。
そのとき、大きな精霊が強烈な咆哮をあげた。
「グオオォォォギュゥオオオ」
腹の底に響く大音量とともに、魔力の衝撃波が発生する。
その瞬間、障壁が大きく揺れ、密度も揺れた。
「はぁぁぁああ!」
障壁が薄くなったところに、剣を走らせる。
ほとんど抵抗なく、剣は障壁を斬り裂いていく。
「グガッ!?」
精霊は目を見開き一瞬固まる。
「まだだ!」
障壁を斬り裂き、そのまま間合いをつめると、精霊の周囲にある謎の鎖を斬り落とした。
「ギアアアアアアアァアァァゥアァアァ」
大きな精霊はまるで断末魔のような叫び声を上げた。
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