第34話 ダンジョン前の準備
ずっと走ってきたフェリルの息は荒い。
「はっはっはっはっ」
「水飲んで」
オンディーヌは木の器に水を入れてフェリルの前に置く。
水の精霊王だけなことはある。
オンディーヌは何も無いようにみえたところから水を取りだして見せた。
木の器自体は、ウインドロードの鞍に取り付けられていた鞄から取りだしたものだ。
「皆も水を飲むといい」
そう言ってオンディーヌは俺たちのためにコップに入れた水を用意してくれた。
ウインドロードにもたらいに入れた水を飲ませている。
「ありがとう……うまいなこれ」
「これほど美味しい水を飲んだのは初めてですわ」
「じゅっじゅ!」
「がお」
水の精霊王の水は、この上なく美味しかった。
気のせいだろうが、水を飲むと疲れも取れる気がした。
俺とリルは鞍の上に乗っていただけだ。
だが、飛竜の背の上はそれなりに疲れるのだ。馬に乗って
もちろん、俺たちより、三人乗せて飛行したウイングロードと、走ってきたフェリルの方が疲れている。
「がぉ」
「はっはっ」
水を飲んだウイングロードとフェリルも元気になったようにみえる。
もしかしたら、本当に水の精霊王の水には疲労回復効果もあるのかも知れない。
水を飲んで一息ついたフェリルに、オンディーヌが優しく声を掛ける。
「フェリル。こっちおいで」
「がぅ」
フェリルは大人しくオンディーヌの前に行って、お座りをする。
「リル。フェリルに魔力あげる。いい?」
「もちろんです。ありがとうございます」
「ん」
「あの、オンディーヌさま。他の精霊の方からフェリルが魔力をもらうのは初めてなのですが……、私が気をつけることなどあるのでしょうか?」
「リルはなにもしなくていい。フェリルが緊張するなら側にいて撫でてあげればいい」
「わかりました。ありがとうございます」
リルはフェリルの横に立つと、背中を撫でる。
「ん。フェリルいい?」
「ぁぅ」
フェリルはお行儀良く座っているが、尻尾をぶんぶん振っている。
リルに撫でられて嬉しいだけではなさそうだ。
まるで、おやつを期待している子犬のようにみえる。
きっと、オンディーヌから魔力をもらえるのが嬉しいのだろう。
オンディーヌはフェリルの頭に手を置くと、ゆっくりと魔力を流す。
「ぁぁぅ」
フェリルはとても心地よさそうだ。目がとろんとしている。
そして、不思議なことに、ぼんやりと魔力の流れが俺にも見えた。
ジュジュを通して何度かオンディーヌの魔力をもらったおかげかも知れない。
「はぅ」
リルが変な声を上げた。
フェリルの背中を撫でていたリルへも魔力が流れているのが見える。
そして、それはどうやら、リルにとっても、心地の良いものらしい。
俺はそんな感覚になったことがないので、少しうらやましく思った。
リルは魔導師だから、魔力の感受性みたいなものが高いのかも知れない。
「これでフェリルは大丈夫」
「がう」
見るからにフェリルは元気になっている。
むしろ出発前より、活力にあふれ元気になっているようにすらみえるほどだ。
全力に近い速度で、道なき道を一時間半走ったにもかかわらずである。
それほど、精霊にとって魔力というのは重要なのだろう。
「ありがとうございます。オンディーヌさま」
「ん。気にしなくていい」
「フェリルを通じて私にもオンディーヌさまの魔力が流れてきましたわ」
「調子はどう?」
「はい。今までになく力にあふれていますわ!」
「それはよかった。……ジュジュにも魔力をあげる」
「じゅ~」
オンディーヌは俺に抱っこされたジュジュの頭を撫でる。
ジュジュもオンディーヌに撫でられて嬉しそうだ。
「ありがたいが、いいのか? 今朝も魔力を貰ったばかりだが」
「ダンジョン攻略が長引くかもしれない。その間、魔力をあげられないから、食いだめ」
そういって、オンディーヌはジュジュにも魔力を与えてくれた。
それが終わると、出発である。
「これ以上、私は近づけない。グレンとジュジュ、リルとフェリルだけで」
精霊王が近づいてくる気配を感じると、倒すべき獲物が逃げると言う話だった。
「まだ結構距離はあるが、もう近づけないのか?」
「無理。あいつは気配察知が得意」
「そうか」
「グレン。気をつけて。相手は強い」
「わかった。死なないように全力を尽くそう」
「リルとフェリル。グレンとジュジュをお願い」
「任されましたわ!」「がう!」
それを聞いてオンディーヌは深く頷いた。
「あと、呪いを解くためには、必ずしも魔物を殺す必要は無い」
「そうなのか?」
「そう。でも殺した方が簡単だし安全。安全第一」
「わかった。一応覚えておくよ」
「うん。気をつけて」
「じゅぅ!」
オンディーヌは、最後にもう一度気をつけてと言ってくれた。
そして、俺とジュジュ、リルとフェリルはダンジョンに向けて歩き始めた。
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