戦いの後

 戦いから一ヶ月後、ギランクスでフェルサと仲間達と法王のカロク、そしてカリュスとの間で今後についての話し合いが行われた。

「なるほど、空に磁力を撒き散らせというのか。それでいいのか」

 文書を見ながらカリュスが訊いた。

「今の人間は未熟だ。このまま空を飛べるようになればまた戦いを起こすだろう。そうなるのは避けたい。磁力を消す時期はカリュスが決めてくれて構わない」

 フェルサは穏やかな口調で話した。

「わかった。こちらに攻められたら迷惑だからな。取りあえず五百年後に磁力を止めるように設定しておこう」

 カリュスはギランクスでギラド人やゼロラ人達と暮らし、フェルサは戦いを好まないゼロラ人達と町を作って暮らす事にした。

「フェルサ、またモスランダで暮らしてもいいんだぞ」

 レンディが悲しげな表情で言った。

「ありがとう。でも俺は人間じゃないからな。俺を嫌う奴も利用したがる奴もいるだろうし、人間が作り出したゼロラ人だってそういう目で見られながら暮らしてきたんだ。俺は彼らと一緒にのんびり暮らすよ」

「わかった。たまには遊びに来るからな。その時はしっかりもてなせよ」

 レンディが言うとフェルサは、

「町のみんなによろしくな。ロンデゴおじさんにボレダンの墓はいつも綺麗にしておくからと言っておいてくれ」

 と微笑んで答えた。

 金色の粒が輝く瞳、薄い金色の肌に金色の血管が浮かんだフェルサはもはや人の姿ではなかった。

「しかし今は仲間がいるが、お前は不老不死の体だ。いつかは仲間と死に別れる時が来る。それでも一人で生きていけるのか」

 カリュスが厳しい目つきで睨んだ。

「俺が決めた事だ。悲しい時もあるだろう。だが決めたからな」

 フェルサが一瞬目を伏せた。

「こいつは頑固だからな。ずっとこの調子だ。でもいいじゃないか」

 ラックが笑って言うとフェルサは微笑んだ。

 カリュスは小さくため息をついた。

「ちゃんと言えよ《寂しい》と。全く、竜の力を持っても中身はクソガキだな。これは邪悪な魔人と化したカミラガロルを倒した礼だ」

 カリュスが「あれを」とマイクで言うと奥からギラド人が台車にドーナツ型の機体を運んで来てテーブルに乗せた。

「ワックルか」

 フェルサが訊くと、

「そうだ。墜落したシュア様の空の門から回収した。奇跡的に無事だった。これにはお前の妹の情報が入っている。空の門を一つくれてやるからその中で復元するといい」

 と面倒くさそうにカリュスが言った。フェルサや仲間は驚いた。

「出来るのか、本当に! いたたたた」

 ベリフは思わず叫んだが傷を負った腹を押さえた。

「ああ、可能だ。どの時点の記録が残っているかわからんがな。そんな体で来なくてもよかったんだぞ」

 カリュスが呆れて言うとベリフは「うるさい」と答えて傷口をさすった。

「へえ、あの時は怖い顔で私達をボコボコにしたくせにやる時にはやるのですね」

 頭に包帯を巻いたチャミがベリフを撫でながら言った。

「お前……まあいい。もう二度と会う事はないからな。じゃあな。フェルサ、ゼロラ人の面倒を見てやってくれ」

 カリュスが席を立つとフェルサも立ち上がって「ありがとう」と言った。カリュスは右手を上げて部屋を出て行った。

 こうして話し合いは終わった。


 数日後、ギランクスから放たれた光線が空の門を介して世界中に広がり空に磁力が戻った。

 人々にはギランクスとの停戦交渉の結果だと知らされた。

 不満に思う者もいたが戦いが長引く事を恐れて誰もが渋々納得した。飛べなくなったスレイサや使えなくなった武器は各地で封印された。

 その後、カリュスは各地のゼロラ人がギランクスに住む事を許し、同じ時期にホルベックのカロク法王がボレダンに新しいゼロラ人の町を作る事を発表した。

 大陸を渡りギランクスやボレダンに行くゼロラ人もいれば各地に残る者もいた。


 それから時が過ぎて──

「フフフ、ミンゼはいつ見ても可愛いですね」

 レンディとコンファ、そして二人の子のミンゼを見送ったシャルマが微笑んだ。

「ああ、本当に可愛いな。でもどちらに似ても気が強そうだな」

 椅子に座ったフェルサが微笑んだ。

 ボレダンに着陸した空の門がフェルサとシャルマの家となり、そこには仲間達がよく遊びに訪れていた。

 磁力に覆われた空では飛べない代わりに地上スレスレに浮いて走る《スレイバル》がランマンに代わる移動手段になり各地を高速で移動できるようになった。

「みんな年を取っていくな。ロンデゴおじさんが死んでからますますみんなが老け込んで見えてきたよ」

「それが人間ですから」

 透けた体で歩き回るシャルマが答えるとフェルサはフッと微笑んだ。

「お互い永遠に生きていこう」

「はい」

 空から磁力が消えた日、フェルサとシャルマは改造した空の門でこの星を回る衛星ムナ―へ旅立った。

「行ってしまったか」

 ギランクスの王の部屋でカリュスはモニターを見ながら呟きボタンを押した。

 各地の空に浮かんだ空の門と雷の門が一斉に自爆した。

 それ以来二人はボレダンに帰って来なかった。

 この星で再び人類が空を飛ぶ時代が訪れた。

(了)

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フェルサの旅 久徒をん @kutowon

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