失意
氷の竜に運ばれたフェルサ達一行はテスジェペで訓練していた。
テスジェペもギランクスからの攻撃を受けたが予め張った強力な光の壁により町は無傷で更に上空に撒いた磁力を持った粒子のおかげで魔物達は近づけないでいた。
「フェルサはまた竜と特訓か」
「ああ、仕方ないさ。シャルマが死んだからな。気が済むまでそっとしておいてやろうぜ」
ラックがパンを食べながらコンファに言った。
その頃、洞窟ではフェルサと竜が戦いを繰り広げていた。
「くそっ! ギラド人の能力だと歯が立たないのか」
ゼロラ人を強化した設定で竜に頼んで戦っていたフェルサは息を切らしながら呟いた。
「シュルアズラが送って来た映像から推測する限りこの位の力だろう。しかしモスランダでゼラミアとブリュバルが死んだのは知っているだろう?」
「ああ、しかしカリュスがいる。あいつは他の奴らより強い。そしてカミラガロルだ。俺の力ではかなわない。だがみんなも同じだろう。少しでも鍛えて隙を見て討つしかないんだ」
「その覚悟で挑むなら私も竜としての力で挑ませてもらうぞ。相手は島を浮かばせていた奴だ。どんな攻撃をしてくるか予測できないからな」
「ありがとう。頼むぜ」
フェルサと竜の戦いが始まった。
しかしすぐに竜の攻撃の前にフェルサが倒れてしまった。
「まだだ、いくぞ!」
何度も竜に立ち向かってはすぐに倒されてしまう結果にフェルサは悔し涙を流した。
「妹の死がお前を変えたのか。毎日殺気が強くなっている」
「あんな体になっても俺の妹だったのに。もっと話したかったのに。くそっ!」
フェルサは竜と戦いながら泣いた。しかしすぐに長い爪で吹っ飛ばされて転んだ。
「隙を見つける前にお前が隙だらけだ。その程度で怒っていたらすぐに死ぬぞ。時間の無駄だ。私は帰る」
竜は湖に沈んでいった。フェルサは息を荒くしてひざまずいた。
「その程度だと! お前にとってはその程度でも俺にとってシャルマは大事な妹なんだ! お前に説教されなくてもわかっているよ!」
フェルサは叫んで泣いた。
「その程度で泣いてどうする!」
背後から叫ぶ女の声にフェルサはハッと振り向いた。
「レンディ……どうしてここに」
レンディが驚くフェルサを睨みつけて立っていた。
「あれが竜か。お前には無理だ」
そういうと湖に向かって「竜よ、私の相手になってくれ」と叫んだ。
竜が姿を現してレンディを見た。
「何だ今度は。その剣はリュゼッタの物だな」
「わけあって私の物だ。リュゼッタ殿は無事だ」
「細かい話は良い。お前が私の相手になればいいのだな」
「ああ、頼む」
レンディは剣を抜いて竜に向かった。
何度か竜に打ちのめされながらもレンディは立ち上がった。口から血が混じった唾を吐いた。
「ふん、やるな。さすがゼラミアを倒した女だ。その鎧はゼラミアの物か」
「知っていたか。お褒めの言葉は後でいいぞ」
レンディは竜に向かって突進した。
竜が大きな手を振り下ろした時、レンディは軽くよけて竜の手を辿った。
竜の顔がレンディを向いて口から火球を連射した。
レンディは火球をよけて竜の背中に飛び乗った。
竜の背中からの砲撃をよけながらレンディは竜の頭に立って剣を軽く突いた。
「普通の人間相手だとこの程度か。フェルサを相手にした時と戦術が違う」
「よく見切った。利口な女だ。フェルサにとっていい師になるだろう」
竜の言葉にレンディは、
「断る!」
ときつい表情で言った。
フェルサは「えっ」と驚いた。
レンディは竜の頭でひざまずいた。
「あなたの相手をするにはフェルサは未熟すぎる。私の相手をして欲しい。私は多くの民を抱えるモスランダを守らなければいけない。その為に私は家族を苦しめたこの汚らわしいギラド人の鎧を着けて戦いギランクスの連中を殲滅する覚悟だ。頼む」
「良い覚悟だ。だが疲れた。明日また来ると良い」
竜は頭の上に乗ったレンディを軽く振り払った。レンディは体をひねって着地した。
「ありがとう」
レンディの言葉に返事をせずに竜は背中を向けて湖に沈んでいった。
レンディは静かにため息をついた。
「おい、レンディ。どういう事だ」
レンディの背後からフェルサが叫んだ。
「今言った通りだ。何だ、私に勝てる自信でもあるのか」
「そんなのないさ。だが俺も頑張れば……」
「頑張ればカミラガロルを倒せるのか。シャルマを死なせたお前が」
「それは……」
「フェルサ、はっきり言おう。お前は剣で戦うのは無理だ。お前はお前の戦い方を探せ。それが見つからなければお前も死ぬぞ」
「わかっている。わかっているさ。けど……」
うつむくフェルサにレンディはシュッと音を立てて剣をフェルサの顔の前に向けた。
フェルサは「えっ」とレンディを見た。
「今の戦いがお前に見えたか? お前に出来るか。無理だろう。機械いじりが好きなお前には無理なんだよ。お互い無駄な時間は取りたくない。さっさと戦いの準備をするんだ。弱いお前と一緒に死ぬなんて嫌だからな」
レンディは淡々と話しながら剣を鞘に納めて洞窟を出ていった。
「何だよ……何様だよ!」
一人残された洞窟でフェルサは叫んだ。
翌日、フェルサはグノンバルへ旅立った。
「おい、いいのかよ本当に」
空を飛ぶ小型機を見ながらラックはレンディに訊いた。
「……」
レンディは黙ったまま空に伸びる飛行機雲を見ていた。
「レンディの判断は正しかったよ」
「俺もそう思う。今のあいつには頭を冷やす時間が必要だからな」
「何だよ、お前ら。仲間なのに冷たいな」
淡々と話すベリフとコンファにラックは戸惑った。隣でトトが寂しそうに鳴いた。
「仲間だよ。死なせたくないからね」
チャミの言葉にレンディはフッと微笑んで黙ったまま地下都市に戻った。
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