魔鳥に乗った盗賊
「やっと着いた」
フェルサは故郷のボレダンにいた。
細い道の脇に小さな石の墓が立っていた。
亡骸のない墓にはロンデゴのように遺族が訪れて花を供えていた。墓前の花は枯れていた。
村や湖があった場所は黒く焦げて周辺の砂が薄く荒れ地を覆っていた。
生暖かい風が時折吹く度に例えようのない焦げ臭さが漂った。
「うん?」
長老の家があった跡に黒い鎧を着た女が立っていた。
フェルサはとっさに剣を抜いた。
「誰だ、お前は!」
フェルサの声に鎧を着た人物が振り向いた。短い黒髪の女だった。
「あなた、ここの人?」
女が気だるい声で答えた。
「赤い目と鎧……お前もゼロラ人か!」
「そうよ。この鎧を着ているのは限られているけどね」
「お前もカリュスって奴の仲間か!」
「ああ、そういう事。まあ仲間と言えばそうなるわね」
女は不敵に笑うと、剣を抜いてフェルサの横を一瞬で過ぎた。
「……!」
言葉を失ったフェルサが振り向くと女は髪の毛を持って小型の機械でかざしていた。
「ふ~ん……ここの子みたいね」
「何をしたんだ」
「いきなりでごめんなさい。ここの住民か髪の毛で調べたの。間違いないわ。ここにあった青く光る機械について教えて欲しいのだけど」
女は長老の家を指差した。
「お前、何者だ!」
「私はゼラミアよ」
女はすんなり名乗った。フェルサは拍子抜けて「お、俺はフェルサだ!」と答えた。
「あんたの名前なんかいいわ。知らないかしら。人間より大きくて青く光る機械なんだけど」
「知らねえよ。何だよ」
「子供だから知らなくて仕方ないか。焼いた後で調べても何も出ないしやっぱり無駄だったわね」
「焼いただと!」
フェルサは目を大きく開いてゼラミアを睨んだ。
「村をこんな風にしたのはお前か!」
フェルサの手が震えた。
「私がやった訳じゃないけど門を潰す為にね」
ゼラミアの答えを全て聞かずフェルサは「お前!」と切りかかった。ゼラミアは軽く剣を受けた。
「お前らのせいでみんな死んだんだぞ」
フェルサは剣を振りながら叫んだ。
「そう。それはごめんなさいね。こっちも色々あるのよ」
ゼラミアは軽く微笑みながらフェルサの剣を受けた。
「父ちゃんも母ちゃんもシャルマも! みんなお前らが殺したんだな!」
「悲しくなる気持ちはわかるけどね」
ゼラミアがシュッと剣を振り上げた。フェルサの剣が宙に浮いて地面に刺さった。
「だけどね。あんた達がゼロラ人にした事は何なのよ。人工の骨や皮膚に培養した人間の脳を移植して生物兵器として作ったあんた達人間が偉そうに私達に文句を言えるのかしら? 身勝手な人間のせいで死んだゼロラ人の数なんてこんな小さな村の人間の数の比じゃないのよ」
ゼラミアの口調に力が入った。
剣を取ったフェルサは歯ぎしりをした。
「それがどうした! 昔の人間がやった事を恨んで俺の家族を殺したお前らが偉そうに言ってんじぇねえよ!」
フェルサは再びゼラミアに突進した。
「所詮は子供ね。もういいわ。あんたも家族の所に送ってあげる」
ゼラミアは剣を構えて向かった。
上から黒い球が降って来た。
「何だ!」
フェルサとゼラミアが叫ぶと球が破裂してまぶしい光を放った。
「光弾か!」
フェルサは目をつぶった。大きな影が覆って強い風と共に誰かに腕を引っ張られた。
「うわあああ!」
フェルサの足が宙に浮いた。
「ちゃんと背中につかまれ! 落ちるぞ」
同じ年頃の男の声にフェルサは目を閉じたまま必死にしがみついた。
「悪いな。こいつは俺がもらっていくぜ!」
男は叫んだ。
「ふん、コソ泥が!」
ゼラミアは目を開けて飛んでいく大きな鳥の影を睨んだ。
「なんだこれは。鳥?」
フェルサは目を開けて手元を見た。背中が赤くザラザラした生き物に乗っていた。
「危なかったぜ。あんな強者と戦うなんて無茶しやがって」
手綱を持った男が振り向いた。
「俺はラック、こいつは相棒のトトだ」
「俺はフェルサ。こいつはお前の鳥か。ゴルベンダルのようだが色が違うな」
「ああ、こいつは俺と血の絆を結んだから赤くなったんだ。大丈夫、襲わないから」
ラックは左手でトトの背中を軽く撫でた。
「血の絆? それはいいとしてお前は何者だ。何でボレダンにいたんだ」
「おい、助けてやったのに礼は言わないのか」
フェルサは先程の戦いを思い出し「あっ……ありがとう」と答えた。
「まあいいや。俺は盗賊さ。その辺の野蛮な連中と違うけどな。あのゼロラ人がお宝を探していたらしいから見張っていたんだ」
「お宝? 青い鍵の事か」
「ほお、青い鍵……」
ラックは正面を向いたまま呟いた。フェルサはツデッパスの襲撃の事を話した。
「魔物を操る笛を持った盗賊達が青い鍵を探していたのか……何だろうな」
「ラックはあのゼロラ人の事は知らないのか?」
フェルサが訊いた時、トトが「キューン」と鳴いた。
「ああ、ごめんなトト。重たいんだな。もう少し我慢してくれ。フェルサ、こいつ二人は乗せられないんだ。もうすぐ村があるから一旦降りるぜ」
ラックはトトの首を撫でながら言った。
「なついているんだな」
「ああ、俺の大事な相棒だ」
しばらくして二人は小さな村に降りた。
ラックは村のそばの池でトトに水を飲ませた。
「さてと、さっきの答えだけどよ。あのゼラミアって奴は他のゼロラ人とは違うようだ」
「へえ、そうなんだ。他のゼロラ人はカリュスって同じ鎧を着た奴しか見た事がないから知らないんだ。目が赤くて肌が灰色なのがゼロラ人って程度」
「ゼロラ人は喋らないし肌の色は人間と同じだ。あんな灰色じゃない。お前が見たカリュスって奴はゼラミアの仲間なんだろ。ゼロラ人でも違う種族がいるんだな」
ラックはトトの頭を撫でながら言った。
「それでお前は何であそこにいたんだ」
ラックが訊くと、
「俺はあの村で生まれた。目の前で村を焼かれた。さっきゼラミアが言っていた。あいつらが村を焼いたんだ」
フェルサは拳を握りしめて話を続けた。
「青い鍵が何かわからないけど父ちゃんが長老の家に行く時に着ていた服を思い出したんだ。青い鍵の模様が入った服」
「それで調べに来たって訳か」
「ゼラミアは門を潰す為に焼いたと言った。何だろう、門って……」
フェルサは深刻な表情で呟いた。
「なあフェルサ。急に色々あってお前は疲れているんだよ。今日は村で休もう」
ラックはフェルサの肩を叩いた。フェルサは黙って頷いた。
二人は村に入ってラックは泊まれる場所を探した。
「えっと、これは……」
住民達がトトを指差しフェルサに訊いた。
「ああ。こいつは大人しくて大丈夫だから。ハハハ……」
(何で俺が説明しなきゃいけないんだよ)
何度も同じ答えをしてフェルサは少し嫌になった。その隣でトトが黙って辺りを見渡した。
村の住民に宿屋を紹介してもらってその晩、二人はそこで休んだ。
「それでお前はモスランダに帰るのか?」
ベッドで横になったラックが訊いた。
フェルサは隣のベッドで眠ろうとした時に「えっ」と振り向いた。
「まだ決めていないんだ。何だか俺が帰るとゼラミアも追ってきそうな気がして……」
少し考えてフェルサはベッドで横になって答えた。
「あの女しつこそうだからな。その方がいいだろう。あんなのが襲ってきたら町はひとたまりもないからな。それなら一緒にお宝探しでもやるか」
「お宝? どっかの家に盗みに入るのか?」
フェルサが嫌な顔をした。
「いや、そういうのじゃなくて頼まれた物があってな。洞窟の奥にあるらしいが強い魔物がいるらしい」
「そのお宝か。いいぞ、助けてもらったからな」
「良かった。そう言ってくれると思った。じゃあ細かい話は明日するから」
ラックはそう言うとフェルサに背を向けて眠った。
(何かこいつに振り回されているな……まあいいか)
フェルサも眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます