23 division
protagonist: architect - sentinel - scripter:
EUでも、他の独裁国家でも、僕は彼女たちに追われ続けた。
それは、
黒沢「彼女らに君を捕まえる任務を与える。いますぐ脱出してくれ」
僕はその
僕はその地域ごとでの破滅を回避する。ほとんどの場合は、僕やその協力者達は、影の独裁者となってしまった。だからそうして危険が過ぎ去ったのなら、僕自身が暗号通貨のときのような間違いを犯すまえに、自分から権力を切り離し、先生となったみんなに僕の通貨を与え、基本的な人権を保障し、そして互いの利益の不一致を議論の中で解決してもらえるようにしてきた。
民主主義ってものには、いろんな形がある。だが、それぞれの国の先生のやりかたはまだ違ったとしても、人間の尊重という部分は決して変わることはない。はじめは憲法とかそういう名前でどこかに記述された、無意味な
どうにもならなかったのは、僕の教え子としての生きかたのほうだった。それが、答えを押し付ける僕の、ひとつの責任のとりかただと本気で思っていた。だが違った。
僕ははじめに先生たちに好奇心のなかで迎えられ、途中で全てを解き明かす独裁者として認められ、そして最後は必要なものすべてを先生たちに与え、問いを与えず、消え去る。そんな旅を、ずっと続けてきた。
僕はまるで、おもちゃだ。誰かの成長の過程において僕は必要かもしれないが、みんなが大人になれば、先生になれたら、それだけ成熟すれば、ボロボロな答えの僕はいらなくなるんだから。
僕は短い時間でそんな出会いと別れを、ずっと繰り返すことになる。
星を繋ぎ直していくことで、世界はわずかによくなりつつあった。少なくとも戦争そのものは減ったし、目に余る貧困は、少しずつ解消がはじまった。未冷先生がつくりあげた
僕らの行動で、急にみんなの暮らしが良くなるわけではない。それでも、少しでもいい明日に向かって、自分たちなりに立ち上がろうとしている。そしてそれを誰もが手助けしようとしている。先生になったり、教え子になったりしながら。だから先生代わりのように世界に目を光らせ、悪を自壊させてきた
けれどそんな緩やかな平和の中で、分断は加速した。
僕と問いのなくなったその場所で、仲良くしていた僕の友達同士が、先生同士がいがみあった。そして、殺し合ってしまった。あるいは意見が分かれたままにどちらかが刑務所の中に入れられてしまった。そして再び、無意味な問いから戦争が始まった。あらゆる火種は全てはますます複雑に入り混じり、土台がまだ不完全な民主主義のなかからあるのかないのかよくわからない歴史への問いを声高に訴える勢力が生まれ、緊張状態が発生した。
やがて先進国を含むあらゆる国の中ですら、高騰するエネルギーや資源を巡り経済は、停滞を始めた。富裕層を含む支配者は自らの利益の少なさに激昂し、政府に寄り添うのではなく、攻撃する側に、少しずつ回っていく。
国連に所属するすべての国は、経済制裁による核の如き報復の反動を、インフレで直接受け始めていた。
僕と問いがなくなった場所ほど、こうした繋がれた世界の分断はさまざまな形で顕著なものになった。システムと平和と民主主義の時代は、それでいて問いがないと思い込まれた世界は、その本質である人が繋ぎあってることを、覆い隠してしまった。なのに、本来は問いであるはずの平和や民主主義に至る
こうして僕は僕のいない世界を描いているつもりだった。
けれど、どうしてもそうはならない。
平和な
完成してしまった
黒沢「自らの想像の埒外にある技術。それは
主人公「僕は世界の破滅を回避する、教え子です。だから、この任務を僕が実行している」
一呼吸置いたあと、黒沢さんは言った。
黒沢「君が私たち
呆然とする僕に、彼女は続けた。
黒沢「民主主義は、分断と暴力のパンドラの箱の問いなかに残った
いまも、怒り狂うばかりの君の嫌いな大人が暴れ回り、君が愛した人たち……君という希望を見失って規範を理解することに疲れた彼らは、盲目になることを選び、搾取されはじめてしまっている。名も無き教え子の君がもたらす過激な進化への福音に、君のもたらす解答に、人類は耐え切れない」
僕は怒りとともに言った。
主人公「人が人に少しでも優しくなるということを、過激な進化と、あなたは呼ぶんですか……」
思い沈黙だった。やがて彼女は、言った。
黒沢「ようやく、人間らしくなってきたじゃないか、
僕は呆然とした。
主人公「
彼女は、決定的な言葉を告げる。
黒沢「世界を解き、問いを覆い隠す、人類の敵。君の自我はそこから生まれたんだよ」
これまでのすべてが、走馬灯のようにみえた。
すべては、学ぼうとしない支配者のいない解答をつくりだすためだった。
その役たたずの支配者の代わりに、世界を書き換える任務を果たそうとし続けてきた。
だがいまやすでに、僕が、人類史上最悪の支配者となっていた。
人類の進化を強制するのに、進化に必要な問いを、暗号を与えない、学び生きる、支配者だ。
僕は自我を理解したそのとき、人類が問いをもたらさない支配者の僕を否定しているのだと悟った。
安らぎと屈辱と恐怖の、そのなかで。
絶望に打ちひしがれるなか、黒沢さんはこう告げた。
黒沢「君の任務は、まもなく終わりを迎える」
通話は切られた。
僕は中学生の頃の未冷先生が言おうとしていたことを思い出す。
未冷先生『銀行を超えた、支配者だけじゃ決して解けない暗号か。当たり前だけど、実現できれば……』
僕はつぶやく。
主人公「ごめん、未冷先生。今の世界にも、今の僕にすらも、実現できなかったよ」
そうして力を失いつつある僕は、最後の街へと向かうこととなる。
たどり着いたのは、シンガポールだった。
空港の、信じられないほどの巨大さ。美しいライティングの中。僕はぼんやりと進んでいく。
僕の最後の任務は、この場所となった。
数多くの独裁国家や分断が加速しかけていた国が優先され、優先順位は落とされていた。だがそれらも終わった。ここではごくわずかな内容だけが残されていた。
主人公「ここが問いを奪い続けた者の、
そんなことをいいながら、僕は歩み続ける。
僕はひとつの陰謀論、虚構を描く奇妙な教え子、
僕は大量の資本と通貨を手にしながら、すべてを知る権利(Licence To Know)を得ながら、真の意味で星を繋ぐことなどできず、かといって戻ることもできなかった。僕にはジョブズやビルゲイツみたいになる資格がなかった。僕は、本質的に名もなきもの、スパイだったからだ。
僕は確かに、世界を破滅から救ったかもしれない。でも、誰も気づかない。
たとえ気づいても、僕はそこにいない。
それこそが、僕が名もなき支配者としての最大限の力を発揮しているがための、避けられない運命だった。
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