14 ready

protagonist:


明穂「おかえりなさい」

 ホテルのエントランスで僕はホテルのロビーにいる明穂さんへカードを差し出す。すると彼女は受け取り、なにかカードリーダーにかざし、結果を確認する。やがてカードケースのなかにしまって、僕に手渡す。僕は首からそのカードケースをかけた。それを見た彼女は頷き、

明穂「では、こちらへ」

 僕たちはStaff Onlyと書かれた扉の中に、カードをかざして入っていく。二つ目の扉を開けた時、そこには地下へと降りるための階段がある。階段を降りて辿り着いたところは、いままで過ごしていたスイートルームに引けを取らない豪奢さだった。その中へ案内されていくと、そこには壁にたてつけて飾られた幾つもの銃が並んでいて、すでに衛理と真依先輩が装備を整えていた。呆然としている僕に、明穂さんは微笑む。

明穂「いまのあなたには過剰すぎるかもしれませんが」

 僕は素直に頷き、

主人公「僕でも使える武器で頼みたいけど。この世界の案内人コンシェルジュさん」

明穂「いいものがありますよ」

 案内人コンシェルジュは特に重さを感じさせることのない取り回しで拳銃を置く。

明穂「M1911。通称コルトガバメント。アメリカの軍で長い間採用されてきた拳銃です」

主人公「未冷先生も使っていたっけか……」

 そうして手に持ってみると、改めて感じる。

主人公「重い……」

明穂「一般的な重量ですよ?」

主人公「でもなあ……」

 案内人コンシェルジュはその言葉を待っていたかのように少し楽しげに、こう言った。

明穂「じゃあ、こちらはどうでしょう」

 そうして武器が並べられている机の引き出しから銀色の何かを取り出し、そして置かれる。僕は呆然とつぶやいた。

主人公「MacBook Pro?」

明穂「軽量。かつ低消費電力を実現し、大容量のバッテリーを最大限活用可能にしつつ性能を最大限まで引き出した、Appleのコンピュータの集大成です。当然Unixコマンドも全面的に利用できます」

 僕はそのノートを開く。見慣れた林檎のロゴマークが映るのをみながら顔をあげた。

主人公「その、これよりもっと軽い武器は……」

 さらに彼女は手で持てるほどのものを差し出してくる。

明穂「iPhone Proです。アプリを書くまではやや扱いづらいですが、あなたになら問題はないでしょう」

 僕は苦笑いする。

主人公「まあ銃よりは勝手はわかるけど……」

 そのとき衛理は銃のメンテナンスをしながら言ってくる。

衛理「あんたの役目はシンジケートの脚本スクリプトの破壊。つまり相手の夢が叶わないように暗号通貨市場を支配すること。そのとき必要なのは、自分の力ではなく、全員が動くための情報。あんたの得意分野ね」

 ある映画を思い出しながら、僕は言った。

主人公「さながら全員で見る夢の設計者か……でもそういうのは真依先輩のほうが得意なんじゃないの」

 同じように銃のメンテをする真依先輩はこちらに向くことなく告げる。

真依先輩「私は観測者オブザーバー。壊したり分解したり解析するのは得意。でも一連のイメージをつくるのは苦手。それよりもこの銃とかのほうが性に合う」

主人公「おっかないタイプだね……」

真依先輩「あなたのようなタイプのほうが恐ろしい」

 意外な言葉に、僕は訊ねてしまう。

主人公「どうして?」

真依先輩「その気になれば相手に夢を見続けさせることもできる。それはもはや、人の世界を書き換える行為に等しい」

 僕は首を傾げる。

主人公「幻想でも?」

真依先輩「それでいまの金融経済は成立している」

 沈黙の中、僕は答えた。

主人公「幕引きの時だ」

 起動しhelloと返してくるMacbookとiPhoneを見つめながら、僕はそう言った。

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