Act2: train
1 seaside
protagonist:
学校の地下道で、幼馴染の先生に銃を突きつけられたあと。
波の音が聞こえる。
自分がどこかに座礁したように横たわっていることにようやく気がつく。
体はとてもだるく、重い。
ならば僕は海の向こうを超えて、座礁してしまったのだろうか。
そう、あの世へと。
さらに太陽の光を感じ、僕はゆっくりと目を開けていく。
そして自分が寝転がっていたのは砂浜ではなかったことに気がつく。
横たわっていたのは、丁寧に整えられていたであろうベッドの上だ。
自分の服装をまじまじとみつめるが、スポーツ系のTシャツに、伸縮するスラックス。
ふと波の音が聞こえてきた。その方角へ向くと、大きなテラスへと向かう窓が開いている。
そしてさらに周囲を見渡す。僕が寝ていたのは、二人どころか三人眠れそうなほどに大きなベッド。さらに品数少なくて信じられないほど広く整えられた室内。それで自分がホテルのスイートルームにいたことにようやく気がついた。
それでここに来るまでのいくばくかを思い出し、つぶやく。
主人公「もう、朝か」
そして、どこか甘く優しい石鹸の香りが漂う。
ある人が、僕の眠っていたベッドの横に、椅子を置いて、そこに腰がけていた。少し大きなナイロンのジャケットを羽織っていた彼女はこう言った。
未冷先生「ようこそ、虚構の世界へ」
僕は未冷先生の冗談に返す。
主人公「じゃあ僕は、夢の住人だっていうの?せんせ……」
未冷先生は答える。
未冷先生「ええ。ここは嘘ばっかりの、金融の世界だから」
僕はどうにか掲げた右手をみつめる。よく覚えている、キータイプ以外まともにこなせない人間の手だ。
主人公「体が本当に重たい。先生の撃った非殺傷弾のせいかな」
彼女は首を振る。
未冷先生「ワクチンの副反応だよ。本当に運が悪い」
僕は訊ねる。
主人公「まだ普及していないはず。なぜ僕をここまで」
未冷先生は不敵に笑う。
未冷先生「知りすぎたからだよ、教え子くん」
それで僕は思い出した。
主人公「それで学校は、どうなったの」
彼女はゆっくり顔を近づけて、ささやくように答える。
未冷先生「無事。でも、当面の間は休校。その間は私が君の、先生になる」
主人公「君は、前から、ずっと……」
僕は副反応の倦怠感で目を閉じていく。
夕方になって、僕はゼリー飲料を飲みながら未冷先生のいるベランダへと向かう。
そこには、アンテナが置いてある。僕は言った。
主人公「レゾナンス、ここにも……」
彼女は振り返ってくる。
未冷先生「もう平気?」
僕は頷く。
主人公「どうにかね。いい夕焼けだ。夜着いたから気づかなかった」
僕がベランダの手すりにもたれかかったのを未冷先生は見ながら、
未冷先生「最上階のスイートだから。気に入った?」
僕は頷く。
主人公「ああ、お嬢様はすごいね」
彼女は海を見つめながら答える。
未冷先生「これはあなたへの投資だから」
主人公「投資……」
そうおうむ返しする僕に彼女は「そう」と答える。
未冷先生「荒れ果てた雪国でみんなを助けたくても、世界の冷たさに触れたら、みんな凍りつく」
未冷先生は僕をじっとみて、言った。
未冷先生「君は違う」
僕は沈黙し、どうにか答える。
主人公「僕はそんな優しくないよ、先生」
彼女は遠くを見つめながら、全てを否定するように笑って言った。
未冷先生「暗号通貨を奪い返して、学校を救った
沈黙する僕へと、彼女は言う。
未冷先生「それでも警察が知れば、あなたは刑務所か、海の中。私たちはそうした各国の行政や、経済活動を超えた任務を行う」
主人公「人類のため、とでも」
彼女は頷く。
未冷先生「これは冷戦。凍るほどの過激さの」
彼女は続けた。
未冷先生「犯罪者たちが、
主人公「みんながまだそこで生きてるから、か。
彼女はうつむきながら、答える。
未冷先生「
主人公「
彼女は答えた。
未冷先生「この世界では名前だけじゃ追えない。時には遂行者すら変わる」
たくさんの人々が総理や大統領になっていくのを思い出しながら、僕は言った。
主人公「役職みたいなものか。じゃあ先生にも
彼女は微笑んだ。
未冷先生「最後の作戦を終えたら、教えてあげる」
彼女は僕を見つめる。
未冷先生「君と、搾取なき世界を実現したとき」
中学生の時のことを思い出しながら、僕は言った。
主人公「国の仕事でしょ?」
未冷先生は首を振った。
未冷先生「彼らだけで務まるなら、私たちと銀行は不要だった」
自分の雇われた理由を、僕は思い出す。
主人公「暗号通貨か」
未冷先生「そう、国は法で規制しても、犯罪者達は
僕は訊ねた。
主人公「令状なしで口座と、暗号通貨を追うと」
未冷先生は微笑む。
未冷先生「契約者の金でプライベートジェットを買う同業者よりはマシでしょ?」
そうはいってもさ、と僕は言って、
主人公「知りすぎたら殺す、でしょ?先生」
未冷先生は笑う。
未冷先生「この世界に関わらないほうが、よかったでしょ?」
僕は海を見つめながら言った。
主人公「今更だよ」
そうだね、と未冷先生は頷き、スイートルームの中を見つめながら言った。
未冷先生「中学生の時。私たちは罪を知った。決して失うことのできない知識として」
そして、彼女はアンテナを見つめる。
未冷先生「私たちに呼応するように、この衛星通信システム、レゾナンスと暗号通貨システムは完成してしまった」
僕は空を見上げて、言った。
主人公「なんでその衛星通信システムを?」
彼女は笑う。
未冷先生「この星で唯一、どんな人でも利用できる通信環境だから」
主人公「スパイには重要な環境、だね……」
見上げた空には、金星は見えた。けれど、五百キロメートル先にあるはずの人工衛星はみつけることはできそうになかった。
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