2-4


 


「あ、そうだ。圭君、連絡先交換しよ」


 宴もたけなわ。探り探りの会話をそれなりに楽しく続けていたところで、清良がはい、と手を挙げた。

 友人関係を始めるには不可欠なイベントだが、教室でやるには人の目が気になりすぎるやりとりだ。今この場で済ませてしまったほうがいい。 


「連絡先。SNS?」

「ラインとか」

「ライン!」


 圭は表情を輝かせると、持ち込んでいたリュックの中から黄色いカバーのついたスマートフォンを取り出した。

 それを見て、清良も「おお」と声を出し、自分のそれを表に出す。

 黄色と、赤。色違い同デザインのそれが机に並んだ。


「まさかのおそろいだった」


 まさかの被り。機種はおそらく一番世間に普及しているメーカーのそれで、カバーデザインも一番豊富なはずのに、どうしてこの場で被るのか。


「マジかよお前ら運命的すぎない?」


 運命的といえないこともいえない一致に、ヒュー、と哉汰がへたくそな口笛を鳴らす。


「これ選んで買ってきたのお父さんだから、運命っていうならそっちと繋がってることになるね」

「いやあほんと、すごい偶然」

 

 即座に嫌なかわしかたをした圭に、清良もくい気味に偶然を主張した。

 お父さんと、運命。

 なんとなく嫌。この一言に尽きる。


「嬉しいな。ライン、アキ専用だったから。スタンプ買っちゃおうかな」

「アキ?」

「あ、えっと。一緒に住んでる叔父さん。こっちでの保護者。家族とは別のアプリ使ってるから用途がほんとに限られてて」

「そうか、アメリカ育ち。……って、一人でこっち来たってこと?」

「うん。ワケあって日本に戻りたくて、我侭言っちゃった。家族はみんなあっちに残ってるよ。お父さんも今はこっちにいるけど、明日帰っちゃう」


 それぞれスマートフォンを操作しながら、圭が自己紹介では語られなかった裏事情を語り始めた。


「すごい行動力だな」


 素直に関心したらしい紘昭が、指を止めてポツリと零す。

 親元と住み慣れた環境から離れ、単身日本に戻ってくる。確かに、すごい行動力だ。この年齢では中々できたことではない。


「子供にも、どうしても譲れないことはあるでしょ」


 だが圭は手も止めず、「たいしたこと無い」とでもいいたげにふふ、と小さく笑った。


「えーっと、これで交換出来た? の?」

「出来た出来た。トークルームも作っとこうか。俺ら三人のとか無かったし」

「そういやなかったね……? 特に不便も違和感もなかったけど」

「不便じゃないってことは必要でも無かったっていう……。でもまあせっかくだし。圭君、学校のこととかこっちの生活のことでわかんないことがあったらトークルームに投げたらいいよ」

「成程、そういう使い方」

「頭いいじゃん清良」

「おおー……サポートが手厚い……ありがとう、本当に助かる」


 出来たばかりのトークルームに、ポンポンとスタンプが放り込まれる。


「お、お、おお」


 一つ増えるたびに本当に嬉しそうな反応をする圭に、三人はちょっと照れくさそうに口元を緩めた。

 多分みな同じことを考えている。

 反応が、可愛い。


「……さっそく質問があるんだけど、目の前にいるから直接聞いていい?」

「ん? 何」

「コレ、どこで買える?」


 これ、と圭が指し示したのは清良の弁当箱だった。


「オベントー。いいなって。今日はお昼ご飯のことすっかりわすれてて、朝慌ててパン買っちゃったんだけどさ。なるほどそういう手があったなと」

「弁当箱……え、どこだろ。キッチン雑貨売ってる店?」

「だろうけど、キッチン雑貨の店ってどこにあるんだろね」


 聞いていい、といったからにはすっきりと答えてあげたいところだが、全員男子中学生である。

 キッチン雑貨を買ったこともなければ、意識して生きたことすら一度としてない。


「……無難に、大きめの駅ビルとか行けばいいんじゃないか」


 難しい顔をしたまま、紘昭が代表して答える。


「それだ。絶対ある。ナイス久賀君」

「使い捨てのプラスチックのやつならスーパーで見たことあるよ。週末とか時間あるときにちゃんとしたの買いに行って、それまでそれでやり過ごせば?」

「哉汰君もナイスアイディアだねそれは」

「お前はすっごい役立たずだよ今。大丈夫?」

 

 この場で出せる一番現実味のある(勝率の高い)提案をした紘昭と、とりあえずすぐに使えるアイディアを出した哉汰。

 それに対し、何のひらめきもなかった清良はかなり分が悪い。


「駅ビル、スーパー……ありがとう。そうしてみる。清良もありがとね」

「……いや……役立たずでごめん」

「考えてくれてるのは顔でわかったよ」


 そんな清良にも圭は二人に対するそれと同じ笑顔を向ける。

 それが余計に心苦しく、清良はそっと下唇を噛んだ。

 どうしてか今日は、二人に対して分が悪いような気がする。


 そんな清良の手元で、赤いカバーを着たスマートフォンが震えた。

 ラインの着信通知だが、他三人の手は動いていない。

 こんなときに何、と少し尖った気持ちで画面を覗き込むと、そこには見慣れた女の子の名前が出ていた。


「旭ちゃんだ」

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