第18話 ウブドの日々

ウブドに来てからというもの、時間の流れがとてもゆっくりだ。


昼間は特に出かけるでもなく、トマさん、リンさん、ジュンくんとブラブラ街を歩き、飯を食べる。


宿に帰れば優しい従業員の人たちと拙い会話ながらもコミュニケーションをとり、一つの単語で意思疎通を図り合い、「へー」とか、「なるほど!」とか、自分なりに解釈をしながら、会話を楽しむ。


そして、夜になれば連れ立って夕飯に出かけ、軽くお酒も挟みながら、昼間より濃い話に花を咲かせる。


何もないが新鮮。


とても居心地がいいのだ。


ふとある日の夜、宿に帰ると従業員の眉毛(名前忘れたがやたらと眉毛が太かったのを覚えている)に、自宅で飲もうぜと誘われた。


せっかくの機会なので、ジュンくんと2人でお邪魔することに。


向かった家は、江戸時代でいう土間みたいなところで地面は土のまま。普段私達が泊まっている宿と比べると、お世辞にも「いい家だねー!」とは言えるような所ではない。


しかし、バリ人の素の生活が垣間見れて、文化の違いを知る事ができた。


彼らは時折ひつこくて、時間にはとてもルーズだが、何よりフレンドリーだ。


自分の働いてる場所に泊まってるからというだけで、自宅に招くような事など、私には考えつくだろうか?


私はそんなホスピタリティは持ち合わせていない。

ましてや、こんな汚いところに誰が人を呼ぼうと思うだろうか。

私とは大きく違った眉毛の心の広さが身に染みる。 


そこらへんにある適当な石に腰かけて、出してくれたバリ産の焼酎のようなものを頂く。


泡盛のような感じだが、比べようのない味である。アルコール度は間違いなく高い。


酒の力で楽しい場になるかと思ったが、眉毛はアクセントが強く、何言ってるのかわからない。


ジュンくんと 

「なんてゆーてんの?」

「いや、わからないです」

のやり取りを繰り返しながら、愛想笑いでごまかす。


眉毛も酔っているのだろう、話が長い。 


さらには近所の友達まで集まってくる始末。

終始賑やかな雰囲気ではあったし、こういう場に連れてきてもらった事は非常にありがたかった。


だが、正直早く帰りたかった。


そんな感じでウブドの日々は過ぎていった。


マーケットはすごい熱気でバリの人達の生活を肌で感じることができた。


ふと、横道にそれると、田園が広がる素朴な風景が広がっていて、言葉ではなかなか表現できない楽しさや感動がそこら中に散らばっていた。


時折立ち寄るカフェでは、バリ特有のコーヒー。

下にコンデンスミルクがたまっている、かなり甘い飲み物だが、それもこのジトっとした暑さの下ではちょうどいい。


土産物では店員をひやかしながら、どこにでも売っているバリ産の布や彫り物を何度も見て回る。


こんな毎日がいいのだ。何もないことにとてもワクワクする。


ある日にはみんなでバイクを借り、猿がたくさん住んでいるモンキーフォレストへにも出かけた。


外国では国際運転免許証があれば、その国の法律に準じて運転することができる。

ここウブドではそんなもんはなくても、簡単に貸してくれるだろうが。


100ccほどの原付に乗り、ジュンくん、トマさん、リンさんと一緒に出かける。舗装もされていない、ルールもないような公道だが、それなりに伴うスリルの中、バイクで走るだけでも楽しい。

外国で運転している!そんな小さな光悦感も味わいながら。


向かったモンキーフォレストは、その名の通り猿ばかりだった。


とにかく猿がたくさん。


木の上から隙あらば荷物を盗もうというような視線が恐ろしい。


緑の中の散歩は気持ち良かったが、動物たちが主権を握っているこの場所では、私のようなビビりは落ち着かない。


ひとときの時間をみんなで過ごして、安心の宿に戻るのであった。



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