第32話 他人の恋バナは・・・
他人の恋バナは蜜の味。聞いたことの無い造語。でも、他人の不幸は蜜の味って他人が不幸になることを悪いこととは知りながらついつい喜んでしまうことだけど。
「実は拙者恋に落ちたでござる」
「ほぉ。それで、それで」
それはお昼休憩にある一人の発言により、談笑に花が咲いた。それは眼鏡をかけたオタクの相田君の発言だった。
私こと、東雲亜里沙は聞き耳を立て、昼食を取っていた。凛花さんはその話をサンドイッチを頬張り聞いている。植田さんは黙々と昼食を食べていた。
「相手は男子ですか?」
そして、私の彼氏(仮)の芳賀康太君は私の予想の斜め上の質問をして、ご飯を吹き出しそうになる。それ絶対違うから。
「ち、違うでござるよ。女子でござる」
相田君は変な勘違いをされたら困ると思ったのか慌てて答えた。
「そうなんですか?」
「そうでござる。拙者を勝手にホモにしないで欲しいでござる」
私は何となく、聞いてみた。
「で。どんな子なの」
「この子でござる」
相田君はスマホの画面を見せてきて、一枚の画像を見せてきた。そこには黒毛のロングヘァの女の子がピースしている姿が写っていた。
「可愛いわね。でも、ダメよ。ストーカー行為は犯罪」
「ちょっと待って下され。カメラにピースしてるのにでござるか?同意を貰ってるでござるよ」
私は女の子の画像を見て正直な感想を言ってしまった。相田君は慌てふためき、自分の行動は同意の上でござると私を説得してきた。
しかし、この画像はアウトでしょ。
「こんな可愛い子がこんな事許してくれるわけ無いでしょ」
「事実は小説より奇なりですぞ。学校帰りにたまたま、男性に言い寄られており、それを助けたでござるよ。そのお礼でござる」
「そんなことがあるんですね」
芳賀君は相田君の話に感心していた。
「あるわけ無いでしょ‼」
「本当なのでござるよ。信じて下され」
「へぇ。この子、可愛いわね」
凛花さんがサンドイッチを咥えながら、相田君のスマホを取り上げ画像を見ていた。
「亜里沙ちゃんも信じてあげればいいじゃん」
「でも・・・」
「信じたくないのもわかるけど、相田君の言う事を信じてあげなよ。この子はそんな大それた嘘つく事なんて出来ないよ」
凛花さんはその言葉を言うとサンドイッチを頬張る。「うん、美味しい」と椅子に座り直していた。
「ま。まぁ、そうよね。信じてあげましょう」
「ヒドイ」
相田君はネットでよく使われるorzのマークの様に挫折のポーズを取っていた。やはり、人間は挫折した時はこのポーズを取るのねと私は感心した。
「で、どうしたいの」
「じ、実は今度デートすることになったでござる」
「はぁ?」
私は相田君のまたも突拍子のない言葉に今度は顎が外れるかと思うくらい口をあんぐり開けてしまった。
私は即座に「どうしてそうなった!」と聞き逃したエピソードがあった?と相田君にツッコミを入れてしまった。
「まぁ、助けたお礼に一日付き合って下さいってお願いしたらイイですよって言ってくれたでござる」
「はぇ~、そんな奇特な女の子もいるのねぇ」
「それは凄い。漫画みたいな話ですね」
聞いていた私たちは感心した。だけど、助けたからと言っていきなりデートに誘うか?と疑問。
「デートなんて初めてなので、東雲殿と芳賀殿にご教授願いたいでござる」
相田君はorzの姿勢から土下座にポーズは変えていた。
「はーん、なるほど・・・・・・えっ?」
私は相田君の言葉で動きが止まる。
「そうなんですか、どうします?東雲さん」
「何で、私たち?」
相田君は私たちの方を見て、首を縦に振る。
「仮にも東雲殿達は彼氏彼女の関係。デートの一つや二つやったでござろう。だから、一つご指南を」
「まぁ、・・・確かに」
相田君の言っていることは間違っていないのだけど。私たちはデートをしたことが無いわけでは無いのだけど。
大体、ファミレスに行ってお互いの小説の読み、批評して時間を過ごしている。だからデートといったデートは2回ぐらいしかしたこと無い。だから、他人に教えてあげるほどのデートの教養は無い。
「それでは、教えてあげましょう」
「はぁ?何言いだしてるの、芳賀君」
「相田君たってのお願いじゃないですか。やらないわけいかないでしょう」
私は芳賀君の言葉に何とも言い難い苦虫を噛んだような顔になっていた。
そこへ意外な人物な助け船が出てくる。
「私が教えてあげようか?」
「本当でござるか!」
凛花さんの言葉に相田君は目をキラキラさせていた。
「良いんですか?凛花さん」
「いいよ」
凛花さんの返事は軽く、すんなりOKしてくれた。これは頼もしい味方が。期待せざろうえない。
「まぁ、アイドルとしてファンから言い寄られる事が日常茶飯事だから、大体こんなことすれば女の子が喜ぶってのが分かるのよ。後、デート実践しながら助言をしてく感じで行くわね」
「何か、ギャルゲーの実写版みたいでござるな」
相田君の言葉に何故か納得をしてしまった自分がいた。
「面白そうでしょ」
「大丈夫ですか?凛花さん」
「大丈夫よ。私のファンなんか逞しいわよ。ストーキングは当たり前で警察にお縄になっても何度でも挑戦してくるし。私の出したゴミを収集したりとかね」
「それって・・・・・・愛ですか?どんどん内容が怖くなってるんですが」
「まぁ、人の愛ってそれぞれだし」
凛花さんはあっけらかんと答える。
「イヤ、それぞれで片付けるのは・・・」
「まぁ、可愛い子と仲良くなりたいなら、私に任せなさい。大船に乗ったつもりでいればいいのよ」
と凛花さんは胸を張る。
「東雲殿より説得力あるでござる」
「何で?」
私は気になり相田君に理由を聞いてみる。相田君は指をピンとたて、答える。
「それは凛花殿の方がむ・・・」
私はその言葉の先が予想でき、相田君を睨みつけ。
「それより先を言ったら・・・関節技きめるよ。私、素人だから手加減できないけど」
私は視線で相田君に圧をかけた事で口ごもる。
「む・・・無難に男子との付き合いが多く経験豊富だから説得力が・・・」
相田君もそれに気づき咄嗟に喋ろうとした事を変更した。恐らく、胸の張り方の事だろうと推測した。凛花さんは胸が大きく、私は胸が小さい。恐らく胸の大きさで頼りになると考えているのだろう。
なんか、ムカつく。ってか、腹立たしいわ。
「私だって、伊達に男性同士の恋愛小説(BL小説)を書いていないわ。相手がどんなものを好むかなんて見極めるのはお茶の子さいさいよ」
「おぉ~。頼もしいですね、東雲さん」
「東雲殿、ありがとうございます」
芳賀君は私の言葉に感心していた。相田君が私の言葉に涙を流し、嬉しさの余り土下座していた。「凄いわね」と凛花さんは相田君の行動に感心。そこまでするかと私も若干、ビビる。
「あなたも一緒に考えるのよ。相田君のデート成功させるの」
こういった事をするのは初めてなので少し不安はあるがやるしかない。
私はそう自分に言い聞かせるのであった。
そして、時は過ぎ件のデートの日の日曜日がやってきた。
相田君はカフェテリアの屋外テラスでデートの相手をいつ来るのかとソワソワして待っていた。
私たち四名も少し離れたところに位置取り相田君の動きが分かるところでデートの相手が来るのを待つことにした。芳賀君はコーヒーを飲みながら文庫本を読んでいる。植田さんも何かわからないが本を読んでいた。この二人はぶれないわね。
そして私たちは相田君の元に来るであろう人物を待った。
「お待たせ。相田君」
「おぉ、来たでござるか」
相田君を呼ぶ女性の声が聞こえた。
相田君の声は軽く、相手に向かって手を振っていた。ウキウキしているのが手に取るように分かった。そして、手の降っている方向を私たちは凝視する。そこには黒髪ロングヘァの女の子。それは相田君の見せてくれたスマホの女の子が立っていた。黒のフレアスカートをはき、黒のTシャツを着てスレンダーな綺麗な人だった。制服姿の感じとは少し違う雰囲気だ。
「綺麗ですねぇ」
「そうね。あの人、高校生なんだ」
芳賀君は素直に驚き、感嘆の声を開けていた。私も芳賀君と同じく素直に驚く。
でも私は何か引っかかっていた。
「凄いね。でも相田君があんなかわいい子とデートできるなんて、凄い確率よね」
凛花さんはメロンソーダをストローでゆっくり飲んでいる。
「そう、それだ」
私は凛花さんの言葉にピンときた。あの相田君にこんなシチュエーションありえない。天と地がひっくり返ってもあり得ないのだ。今日のデートの服装だってアニメキャラのプリントしてあるTシャツにジーンズ。Tシャツの上にチェック柄のシャツ。まさにオタクの洋装。だから、こんな綺麗な人とデート何て奇跡よ。
凛花さんがデート当日の服を前日に相田君のコーディネートした。ブラウンを使ったマウンテンパーカー着て、デニムを穿いてカジュアルに仕上げた。相田君は身長も高く、服さえ違えばオタクっぽくなくなるからこれでいいよと凛花さんは言っていた。
「あれ、意外ね。もっとオタクっぽい服装かと思ったのにちょっと意外」
女性は相田君の服装を見て驚いていた。私もそれを聞いていて何故かガッツポーズ。凛花さんはメロンソーダの上にのっているアイスを食べ、メロンソーダを満喫していた。ホントにマイペースだなぁ。
しかし、相手が何か企み騙そうとしてる可能性があるかもしれない。美人局やねずみ講、宗教の勧誘等々、世の中恐ろしい事がいっぱいあるとネットの掲示板には書いてあったし。デートの主役の会話が始まる。
「そういえば、名前まだだったね。ただ、連絡先交換しただけだったもんね。私、荒井里穂って言うの。よろしく」
「我は相田優作と申します。よろしくお願い申します」
綺麗な彼女は荒井さんと名乗り、相田君に握手を求めた。相田君も女性に握手を求められたことが無かったのか、焦っていた。だが、相田君は焦りを見せたが自分を落ち着かせ二人は握手をして、カフェテリアから移動した。私たちも二人に気付かれないように尾行した。
「あら、またも意外や意外ね」
荒井さんは相田君の連れてこられた場所を観察していた。
そこは市で運営されている水族館。ここの水族館は昔は流行っていなかったが最近、運営方針が代わり、TVでも注目されて流行り出した。今では家族連れやカップルで賑わい水族館のチケット売り場は行列が出来ていた。子供の時は列も無く水族館に直ぐ入れたのを思い出す。
「流行ってますね」
植田さんは建物を見ながら「これ、誰の意見ですか?」と聞いてきた。
「これは私」
私は鼻息を荒くし答える。
「あぁ、東雲さんのですか」
「何で、そんな残念そうなのよ」
植田さんは何故かがっかりしていた。ちょっとその反応、失礼ですよね。
「そういえばみんなの提案場所はどこだったの?」
私は気になり聞いてみた。
「図書館ですね」(1.芳賀君)
「メイド喫茶かな」(2.凛花さん)
「バッティングセンターです」(3.植田さん)
私は三人の意見を聞いた。まぁ、当の本人の相田君の案はゲームセンターだったので流石にその選択はないと即却下。今の所、私たちの選択は間違っていなさそうだった。当然でしょ。
「じゃぁ、入ろうか。相田君」
「そうでござるな」
荒井さんは喜び、相田君の手を引っ張り館内へ入っていた。私たちのそれに続き入場券を買って入って行くことに。
中を進むと館内は薄暗く、魚のいる水槽はいろいろな色の照明で照らされ鮮やかだった。こういった雰囲気がカップルにも受けているのが分かる。魚の説明はスタッフと思われる可愛いイラストと共に読みやすく書かれていた。こういったところが子供たちに受けがいいのだろうと私は考察した。ちょっとしたお客さんへの配慮よね。
「わぁ、綺麗ね」
荒井さんは照明で色鮮やかな魚たちを見て、喜んでいた。
相田君もその言葉に続こうと考えているみたいだった。しかし、急にスマフォを操作し出した。ここで、そんなことしたら荒井さん怒っちゃうわよと私が見ていると芳 賀君のポケットに入っていたスマフォが鳴る。
そこには、相田君からのメール送信が入っていた。メールの内容は
『こういう時はどうすればいいでござるか?助けて下され』
と書かれていた。
とりあえず、私たちはここで相田君の喋るセリフを緊急会議で考えた。
「こんなのありきたりでいいんじゃないですか?」
相田君はそう言うと自分のスマフォに言葉を打ち込む。
「そうですね」(1.芳賀君)
「そうかなぁ、君の方がカワイイし綺麗ですよ」(2.凛花さん)
「僕たちも魚になりましょう」(3.植田さん)
芳賀君の答えはまぁ、どこかのタ〇リさんの番組の観客の合いの手か。とツッコミを入れたくなる言葉を発していた。まぁ、相槌は相手との距離を縮めるのにはいい。
凛花さんの考えた言葉はもう落としに来てる。まだ早い、早いよ凛花さん。
植田さんは何言ってるか分からないし。
私は考える。ピンク色の脳細胞で。
「これよ!」
私は閃き、芳賀君の持っていたスマフォを貸してもらい、メッセージを打ち込んだ。私はパソコンのキーボードを押すのは得意だけど、スマフォの文字を打つのは苦手。私はヨシ出来たと思い、そのメッセージをメールで送る。
「何て送ったですか?」と言わんばかりの顔で植田さん以外が画面を覗いてくる。そこには『そうですね。あなたも負けず劣らず可愛いですよ』と表示。
「なるほどね。芳賀君と私の意見のいいとこ取りって事ね」
凛花さんは文章を見て感心していた。
直ぐに、相田君から返信が返ってきた。
『助かったでござる。荒井さんもいい反応だったでござるよ』
私は、ひとまず安心した。でもここで疑問が生まれる。こんなところでも考えるの
?と思い、『そこは自分で考えてみなよ。どんな内容だったの?』と送ってみた。
そう送ると直ぐに相田君から返信が返ってくる。
『女性の友達いないから、そんな気の利いた返し出来ないでござる(泣)ただでさえ、男子の友達も少ないのに』
「あぁ・・・」
その文面からは相田君の切実な問題が書かれていた。
相田君と荒井さんのデートはつつがなく進行していた。二人はいろいろな魚の水槽を眺めながら楽しそうに喋っているように見える。
「とりあえず、いい感じね」
私は一安心する。他の3名もスマホの着信が鳴らないので水族館を楽しんでいた。
「この真鯛泳いでますけど泳いでいるところ初めて見ました」
芳賀君は鯛の泳ぎを見て楽しでいる。凛花さんは友達同士で来ている女の子を見て「可愛いし、美味しそう」と言って涎を垂らして野獣のごとく物色していた。
見るとこ違いますよ凛花さん。まぁ、いつもの事か。
「この鰯、美味しそうですね。今夜は鰯のかば焼き食べたいですね」
植田さんはと言うと水槽の中の鰯の群れを今夜の夕食のおかずを決めていた。
「植田さんはぶれないわね」
水槽を眺めながら進んでいるといつの間にか出口に出ていた。相田ペアは見終わり、二人はどこかに歩いて行く。
私たちも二人を見失わないように追いかける。入った時は日は上だったのに外に出たら日も落ち夕焼けに変わっていた。街を歩いている人も夕食の買い物でもしてたのかスーパーの袋をたくさん持って歩いているのを見かけた。
「室内に入ってて時間経過が分からなかったけど、もう夕方なのね」
「お二人はそろそろ解散ですかね」
芳賀君は二人の後ろ姿見て発言していた。
そして、二人は近くの公園に入って行くのが見え、私たちも後を追うように入って行った。
二人は空いていたブランコに隣同士座るのが見え、私たちは見つからないように後ろの茂みに隠れた。茂みの隙間は小さく4人で一杯一杯。
「ちょっと、押さないでよ」
「狭いですよ」
芳賀君は愚痴る。
「きゃっ、誰ですか。私のお尻触ったの」
「あっ。それ、わたし」
私のお尻を触ったのは凛花さんがあっさり認める。
「しっ。静かにして下さい。二人が何か話しだしました」
植田さんが私たちのやり取りを制止させた。そして私たちは直ぐに黙り、二人の会話に耳を立てる。
「今日はどうだったでござるか?」
「うーん。楽しかったよ。ありがとう」
相田君の質問に荒井さんは笑顔で答えていた。いい雰囲気じゃない。
「こ、今度もデート・・・」
と相田君が言おうとした時の事だった。
「あれ?この前のオタクじゃん。それに前の可愛い女の子じゃん」
「あ・・・あの時の」
相田君がおろおろして、足がぶるぶる震えている。恐らく、ビビっているのだろう。
「おぉ、この前はありがとな。楽しかったよ」
金髪の男は相田君の顔に顔面を近付けて煽っていた。相田君の顔は顔面蒼白だ。
「これは唐突なBL案件ですね」
芳賀君は何だか嬉しそうだった。
「喜ぶな、ただ顔が近いだけじゃない。・・・でもこの状況、まずいでしょ」
「わたし、行こうか?」
凛花さんが茂みから出て行こうとしたが「待ってください」と植田さんがそれを止める。
「あれを見て下さい」
植田さんはある方向を指さす。私たちは植田さんの指さす方向に目を向ける。
「また、来たんですか?懲りないですね」
荒井さんがブランコから立ち上がる。
「この前は油断したが今度はぼこぼこにしてやるよ。矢田さんお願いします」
金髪の男がそう言うと後ろに下がり、後ろから筋肉隆々の男が登場していた。これは凄い筋肉。
「何か、あの人、筋肉ダルマ。気持ち悪い」
凛花さんが軽蔑の眼差しで言った。矢田(筋肉ダルマ)は指の骨を鳴らしながら、荒井さんを品定めをしていた。
「お前、こんなかわいい子に負けたのかよ」
「そいつ、めちゃ強いんですよ。矢田さん」
金髪は矢田の後ろに隠れながら言う姿。かっこ悪い。
「へぇ~。筋肉ダルマが何か言ってる」
「煽らないで下さい、荒井殿」
荒井さんが矢田を煽る様な口調で話す姿を見ていた相田君の顔は青ざめさせている。
「言うね。かわいい子ちゃん」
矢田は恐ろしく早いパンチを繰り出して荒井さんに殴りかかる。荒井さんは矢田のパンチ見切り避けるとその手を上から掴み、ひっくり返す。矢田の身体は宙を舞い背中から地面に叩きつけられていた。
「な、何だ?」
矢田も自分に起こった事が把握出来ず、目が点になっていた。
「こ、これです。こいつに手を掴まれたと思ったら宙に浮いて倒れてるんですよ。矢田さん」
「隅落とし・・・合気道か」
「良く知ってるわね、正解。かかってきなさい、筋肉ダルマさん。何度でも転がしてあげる」
荒井さんは矢田を煽る。
「煽って、俺の判断を鈍らせ隙を作る気か?最初は素人かと思って手加減したが、次はそうはいかないぜ」
「そうです。やっちゃってください」
金髪が矢田を熱心に応援していた。
「これまずくないですか?」
植田さんが心配して私に言ってくる。確かに。
私たち4人は茂みの中から相田君たちの様子を覗っていた。
「そ、そうよね」
私もそれには同意した。でも私たちが出て行ったところで状況が変わるわけでは無い。むしろ悪化しそうな未来しか見えない。
「僕が行きましょう」
「あなたが行っても状況をややこしくするだけだからダメよ」
芳賀君は率先して手を挙げたが、私の言った事にちょっとしょげていた。
「じゃぁ、わたしが行くよ」
「凛花さんが⁉」と私が驚く。
「大丈夫よ。亜里沙ちゃん」
凛花さんは私に投げキッスをすると茂みから出て行き、相田君の所に行く。
「相田君、何やってるの?」
「凛花殿、どうして此処に?」
凛花さんは相田君の肩を叩くと驚く。凛花さんは相田君に耳打ちをして、何かを話していた。
恐らく助けに来たよとでもいったのだろう。相田君は泣いていた。
「また、かわいい子がきた。俺と遊びたいの?」
矢田は凛花さんにも下種な言葉で煽ってくる。
「誰ですか?」
矢田に対峙していた荒井さんも凛花さんの登場に驚いていた。
「凛花殿・・・助けになるでござるか」
「当たり前だの何とかだよ。お二人さん」
凛花さんは二人に向けてピースをしていた。本当に大丈夫ですか、凛花さん?
凛花さんが喧嘩が強いとか聞いたこと無いし、茂みから見ている私もドキドキしてしまう。
「君みたいな、かわいい子が来てもこの状況は変わんないよ」
「それはどうかしらね」
矢田はほくそ笑むとボクシングのファイティングポーズを構えた。凛花さんはというとただ立っているだけだった。私は只見ているだけだけど鼓動が速くなる。
「いい、あんたを右ストレートでぶっ飛ばすわ」
「おおぉ。怖い怖い。てか戦法教えちゃっていいのかよ?」
凛花さんはいつも笑顔ではなく、矢田ににらみを利かせていた。しかし、矢田は凛花さんの言葉で上半身を腕でガードするような態勢を取る。まぁ、誰だってあんな事言われたらそうしますよね。
「ちょっと待っててね。荒井ちゃん」
「はぁ、はい」
荒井さんはあっけらかんとした表情で答えていた。
「じゃぁ。行くよ」
矢田が「来い・・・・」と言おうとしたその時だった。
ドゴッ‼
私は茂みの中で見ていて、目の前で起こったことに目を疑った。
束の間の事だった。凛花さんの拳が矢田の顔にめり込んでいたのだ。
「は?」(私の反応)
「やりますねぇ」(植田さんの反応)
「ほ、ほう」(芳賀君の反応)
ちょっと芳賀君、植田さんの反応おかしくない。あなた達、普通の人ですよね。私の反応が非常識なの?と頭が混乱してしまう。
矢田がガードに徹していた腕があらぬ方向に曲がっているのが見えた。恐らく折れているのだろう。痛ましい。
「ひぇっ」
相田君は私より近くで衝撃の瞬間を見ていたから、顔は青ざめていた。矢田は後ろへ倒れ込むと「痛ぇ、痛ぇよぉ。母さん」と叫びながら泣きわめいていた。金髪はびっくりして倒れ込む矢田に近づく。
「大丈夫ですか。矢田さん」
「大丈夫じゃないだろ。これを見ろよ。イてーよぉ」
矢田のいかつい顔が台無しだ。
その姿を見ていた凛花さんが矢田を見下ろす。
「筋肉ダルマさん。今度、私の彼女に手を出したら、これだけじゃ済まないからね」
凛花さんはこの世の言葉では表したくない表情で矢田と金髪を脅していた。凛花さんの顔に恐怖し、二人はその場から逃げて行った。
だが、私は凛花さんのあるワードに?が浮かんだ。その言葉に疑問を発したのは私だけじゃ無かった。
「彼女?」
相田君も私と同じ疑問が浮かんだようだった。
「荒井ちゃん。久しぶり」
「?」
荒井さんは凛花さんに声をかけられ、またもあなた誰?みたいな反応する。
「わたしよ。わたし」
何か見てて、オレオレ詐欺かなと思ってしまうやり取りに見える。
「メイド喫茶”天使の微笑み”の凛よ」
「えっ。あの凜さんですか?容姿が前の凜さんと全然違うから解りませんでした」
荒井さんは凜さんの上から下を品定めをするように見ていた。
「本当よ。ほら」と言った凜さんはある物を胸元から取り出す。
取り出したものは写真のように見えた。私たちもそれを見ようと茂みの中から出て、凛花さんたちの元へ急いだ。
「ふぁっ!これが凛花殿ですか?」
相田君は凛花さんの取り出したものを見て、驚いていた。私たちも凛花さんの元へ行き、それを覗き込み、驚く。
「これ、凛花さんなんですか?」
「別人ですね、これは」
私は写真を指さし、凛花さんと交互に見比べる。写真に写っていたのは長い黒髪乙女のメイドで胸元には凜と名札がついている写真だった。
「どうしてこれから、こうなったんですか?」
植田さんが凛花さんに質問した。
「どうしてこうなったかはまた今度、話してあげる」
凛花さんは植田さんの口をシーとすると荒井さんに目をやる。
「まぁ、でもまさかこんな形で荒井ちゃんと再会なんて運命かもね」
「わ、私もです。凜さん」
荒井さんの声はうわずっていた。そして、頬を赤らめている。
「ちょっと、待って下され。お二人は知り合いでござるか?」
「私が前働いていたメイド喫茶の常連さん。そして、その時の彼女よ」
「はっ?」
私を含む荒井さん以外の人の頭にはクエスチョンが浮かんだ。荒井さんは凛花さんの言葉に顔を赤くして、顔を見られるのが恥ずかしいのか手で隠している。
あれ荒井さんってこんなキャラだったけ?と思ってしまう程、キャラが代わっていた。
「もう、変な事言わないで下さい。恥ずかしいです」
「付き合ってた時と代わってなくてよかったわ。清純な荒井さんで安心した」
「きゃ、嬉しいです」
私は何を見せられているの。女の子のキャッキャウフフをこんな所で見る事になるなんて。BL展開の方が・・・
「BL展開の方が見てみたかったですけどね。まさかの百合展開とは」
私の心の声を芳賀君が代弁してくれていた。
「凛花殿もしや、お二人は付き合っていたのでござるか?」
「えぇ、昔ね。荒井ちゃんはお客の時と変わってないから、何か安心した」
凛花さんは荒井さんの頭を撫でていた。荒井さんの顔はさっきの赤さよりもっと赤くなり、真っ赤なリンゴの様になっている。
「そういえば、荒井ちゃん強くなったね」
「は、はい。昔、付き合ってた時。二人でいるといつも男の人にナンパされてて凛花さんが守ってくれてたので、自分も人を守れるくらい強くならないとって思って親が合気道やってたので教えてもらったんです。でも、まだまだ精進しないとですね」
荒井さんは笑顔で答えていた。凄く健気。
「ちょっと皆さん。我を忘れないで欲しいでござる」
「あぁ、そうだったわね。ごめん、ごめん」
その会話に割って入ってきたのは相田君だった。相田君の存在をすっかり忘れていた。この凛花さんと荒井さんの今日の出会いの方が私たちにとっては衝撃的だった。
「皆さんヒドイでござる。今日は我の主役の日だったのに凛花殿にすべてを持ってかれたでござる」
「ごめん、相田君。今度私のお店で奢るからさ」
「もうこうなったら、こうするしかないでござる」
相田君は頭を下げ、荒井さんに手を差し出した。
「荒井殿、付き合って下さいでござる」
荒井さんは急な相田君の告白に戸惑っていた。
「ちょっと、待ったぁぁぁぁぁぁぁ。荒井ちゃん、今度私と遊んで」
相田君の告白に続き、凛花さんも遊びのお願いを申し込んでいた。意外な人からの告白で荒井さんは困惑していた。
「ふぁっ⁉」
私は声にしたくない声が出てしまっていた。二人の告白の内容の重さが。
そして、何故か私の後ろから謎BGMが流れてくる。軽快なリズムでこの状況を煽っているようでもあった。
「何なの。この謎BGMは?」
私は音のする方に振り向く。そこには芳賀君がスマホを片手に音を出している姿がそこにはあった。
「あなた、何やってるの?」
「いや。母がTV番組でこういう状況にはこの音を出すと良いと言っていました。僕も母が見ていた昔のTV番組のワンシーンを動画サイトで見てみたんですけど、この音が流れると緊張感が出るんですよ」
「知らないよ。てか、止めなさい‼真剣な人を茶化すのは良くないわ」
私は芳賀君のスマホを取り上げる。しかし、芳賀君の初恋サポートがこんなことになるなんて・・・
目の前の三人は真剣な眼差しで向き合っていた。三人の心臓の音が聞こえそうな雰囲気だった。
「わ、私は・・・」
ここでその雰囲気を破ったのは荒井さんの言葉だった。
「あなたを選びます」
荒井さんが手を取った相手は凛花さんの手だった。相田君はこの世の絶望かと思う程の表情で二人の手を見ていた。
「相田さ・ん、ごめんなさい」
荒井さんは深々と頭を下げ、相田君に謝罪していた。相田君の表情は絶望から悲しみに変わり涙があふれていた。
「うわー-------ん。これでは我が只の道化でござる。もう人は信じられないでござる」
相田君はそう言うとその場から走り去っていった。悲しすぎる。
「ヒドイですよ。凛花さん」
「一回だけだしさ、遊ぶの。ごめん、亜里沙ちゃん」
「私に謝られても困ります。この状況どうするんですか」
凛花さんは私に手を合わせ謝ってきたけど、私に言われても困る。
「これはまさかのNTRというやつですか」
植田さんが変な事を言い出す。何でそんな言葉知ってるのよ。
「そんな言葉知ってるんですね、植田さん」
「いえ、友人がNTRが世の中にあり得るから、注意しなさいよと教えてくれたので」
芳賀君が感心している。てか、植田さんの友人って私たち以外にいた事に驚いた。
「学校では無いんですが、幼稚園からの幼馴染の女の子です」
「へぇ~、意外ね。そんな人がいるんだ。(何だか、私と似た匂いの人かも)」
私の腐女子嗅覚は同族の匂いをかぎ分けれる無駄な能力があるから、一度その人と会ってみたいと思っていた。でも今はそんな場合じゃない。
「ここから、どうすればいいんですか?凛花さん」
「うーん。荒井ちゃんさ、相田っちの連絡先知ってる?」
「えぇ、知ってますよ」
荒井さんは凛花さんの質問にコクリと頷く。
「じゃぁ、ショートメールでこう送って『また、私とデートしましょう』って」
「解りました」
荒井さんはスマホのタップしてメールを作成している。おいおい、そんな内容で傷ついた相田君を癒すことができるのか私は正直不安になる。
「そんなので大丈夫ですか?」
「大丈夫。あの子、女の子との恋愛スキルの免疫無いから、チョロいわよ」
「大丈夫よ。心配性ね、亜里沙ちゃんは。可愛い」
「イヤ。もとわといえば凛花さんのあの発言が無ければややこしくならなかったのに」
「それはごめんって。荒井ちゃんメール出来た?」
凛花さんは私の話を反らした。荒井さんは出来ましたと凛花さんに自分のスマホを渡し確認してもらっていた。
「いいじゃん。これで送ってあげな、荒井ちゃん」
「はい」
凛花さんの言葉に荒井さんは返事をしてメールを送信した。
「じゃぁ、今日はこれで解散ねー」
荒井さんがメールを送り、今日は凛花さんの言葉で解散することになった。これで本当に相田君の心は癒えたのか不安だった。私は天を仰ぐ。
次の日の教室
朝のホームルームが始まる前、クラスは談笑する者や一限目の授業の準備をする者などでごった返していた。
私も授業の為、カバンから教科書を出して準備をしていた。芳賀君は凛花さんと談笑している。植田さんは何かの本を読んでいる。
ガラガラ
教室の扉が開かれ、そこには相田君が立っていた。私たちの視線は相田君に注目した。
「お、来た来た。相田っち」
「来ましたね、おはようございます。相田君」
相田君の表情は険しかった。凛花さんも芳賀君も普通に接していたが私はその表情を察し何も言えず、会釈をするだけにした。
「で、あの後どうなったの?」
凛花さんいきなりすぎますよ。相田君の心をえぐりにいってます。
「じ、実は昨日こんなメールが来て、嬉しかったでござる」
相田君は急に曇った顔から急に晴れた顔をし出した。昨日の荒井さんからのメールからの事は解った。
「これでござる」
「どれどれ」
凛花さんがスマホを受け取り、画面を見る。私たちもその画面に覗き込む。そこには荒井さんの『また、私とデートしましょう』メッセージが書かれていた。解散する前に見た文面だった。
「これからどうしたの?」
「嬉しすぎて、よろしくお願いしますって送ったでござる」
相田君は意気揚々と話してきた。その後、荒井さんとのやり取りを見せてくれ、最後の一文を見ることになる。
『友達としてデートをいっぱい楽しみましょう。相田さん』
「この一文を見て我は飛び上がったでござる」
友達として?私はこの相田さんの返信に疑問が浮かぶ。
「あのさ、相田君。そこの・・・」
私が相田君に質問しようとした時、凛花さんが私の口を塞ぐ。私は凛花さんの顔を見るとシーと人差し指で喋らないと指示してきた。
「相田っち良かったじゃん。チョロいわ。この文、荒井さんは完全に友達としてしか思ってないよ(小声)」
凛花さんが私の耳元で囁く。私もその意見がしっくり来たので納得した。相田君チョロすぎるよ。まぁ、これで相田君が幸せならいいか。
「良かったね、相田君」
「本当に良かったでござる。昨日凛花殿とあんな事があったのに、本当に本当に良かったでござる」
「良かったですね、相田君」
相田君は昨日とは違い、しくしく泣くのでちょっと怖い。これが男泣きか。芳賀君が相田君を介抱している。
「良かった。良かった」
凛花さんは相田君の背中をポンポンと叩く。植田さんは「そーですね」とどっかのお昼の番組みたいな感情のない返しをしている。元はと言えば、あなたが事をややこしくしたんですけどねと心に思いつつ、私は教科書を開く。
ここで私は思う。
他人の恋バナは蜜の味と言うが、正直面倒くさいと・・・
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