TOEICのせいかも

「TOEICでこんな点数取ったからかな……」

 私は兄・駿が横たわるベッドのかたわらで、涙をこらえきれなかった。

 兄は交通事故に遭い、意識不明だ。


 兄は高校2年生で初めてTOEICに挑んだばかり。私は自宅で結果が入った封筒を受け取り、先に点数を見た。たとえ兄が意識不明であっても、いつ目を覚ましてもいいように点数を書いた紙は見せておこうと思ったのである。


 あらためて兄のTOEICの結果が書かれた紙を開き、点数を眺めているときだった。


「何、してるの?」


 意識を失っていたはずの兄が、口に当てられた酸素マスク越しにゆっくりと話してきた。その目はかすかに開いてる。それを見て、私は奇跡を目撃した気分になった。

「お兄ちゃん、生きてるの?」

「まあ、なんとかね」

 兄は自分が生きていることに安堵し、かすかに微笑んだように見えた。


「お兄ちゃん!」

 それを見た私は、お兄ちゃんに寄り添い、しばしむせび泣いた。


「心配、させて、ごめん。ところで、それ、何?」

 早速とばかりに、兄は紙の中身を探ってくる。

「これ、TOEICの結果なんだけど。これって990点満点なんだよね?」

 私はそう言いながら紙を見せた。その点数を見た兄の目は、何かを悟ったようだった。


「うわ、666点……。だから、事故っちゃったのかな……」

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