第31話 ついに、あの女性の予感。バブルと呼ばれた時代は、なぜ、駄菓子屋教室の教えが聞けなかったのか?

 謎ばかりの、裏世界に潜む敵と化していた。

 「ヒビキ君?希望を伝えるエンディングまでは、意外と、遠いんだよ?」

 「何だ。どうしたんだ?」

 「駄菓子屋経済理論のことを、思い出しちゃったよ」

 「駄菓子屋経済理論?」

 「あの先生の、崇高な理論さ」

 男の子は、駄菓子屋教室のおまけ論は、経済理論にもつなげて考えられると、言い張った。崇高に、輝く理論なのだという。

 「ヒビキ君?今の社会は、高望みしすぎた結果として生じてきた幻だ」

 「…」

 「僕たちは、高望みしていたのかもしれないね。神の忠告を良く聞かなかった、結果だよ。ゆとりすぎだ。今の社会は、どこを探したって、希望が見つけられなくなっちゃったもんね」

 「…」

 バブルと呼ばれた社会で、駄菓子屋の神の忠告を無視し続けた人々は、見誤った。人々は、将来に得られるであろう希望を、現実にあるものよりも、はるかに高く評価してしまったからだそうだ。

 当時の駄菓子屋教室の教えは、破綻していた。

 当時の人々が、モノを考えることのできないオンリーワンとなりすぎてしまい、神の議論に参加することができなくなってしまったからだそうだ。

 「大失敗だよ。ゆるゆるすぎて、緊張感がなくなっちゃったしね。当時の学生は、割り算ができなくても、正社員採用なんだぜ?その悪夢を知らない人も、多いだろうなあ。気付けば、その正社員たちが、働かないおじさんとなった。会社は、いや、日本社会は、パニックだよ。その下で、泣きながら働かせられる、優秀な人たち。何なんだろうねえ、この、落差は」

 「そうだな…」

 「ゆるゆるすぎて、オンリーワンがまかり通るようになると、他人の話が聞けなくなるんだ」

 「まるで、定年退職世代のおじさんたちだな」

 「そうだろう?」

 「…」

 「その、定年退職世代のおじさんたちこそ、当時の、駄菓子屋の神の教えを聞けなかった世代」

 「あ…、つながったな!」

 「あの先生は、その現状を、憂いた。駄菓子屋の教えって、経済理論だったのかもしれないって、話だ」

 「今度は、経済の話になるのか?」

 駄菓子教室の教えが聞けない学生がおじさん化してきた結果、社会は、崩壊しかけた。

 そのとき、立ち上がった人がいたという。

 「何だよ、この流れは?」

 「まあ、まあ。ヒビキ君?我慢して聞いてくれたまえ」

 「我慢したって、良いことなんか…」

 「良いから、聞いてくれって。君たちは、今どき世代じゃないんだ。きっと、良い流れになっていくからさ!さあ、希望のエンディングまで、我慢だ!」

 「わかったよ」

 立ち上がったのは、駄菓子屋を軸とした社会矛盾に、警告を発しようとした人だったという。

 ある意味は、神だ。

 「それが、ツゲ先生という男だ」

 「ほう」

 「ツゲ先生による駄菓子の教えは鋭く、生徒たちに、気に入られた。だから、個別に、学校を与えられるまでになったんだよ」

 「ほう。さっき言っていた、変な色紙を駄菓子のおまけにしようと考えた支部、だったよな?」

 「そうさ」

 「ツゲ先生、か…」

 「ツゲ先生に与えられる予定だった小さな学習室は、ツゲ学校と、呼ばれていたよ」

 「…与えられる予定、だった?実現は、しなかったわけか?」

 「ああ。ツゲ先生は、ある日、忽然と、姿を消してしまったのだからね」

 「失踪か?」

 ツゲ先生は、心の底から駄菓子屋の行く末を心配して、警告を発した。

 が、どれだけ待っても、はつらつとした便りはこなかったという。ツゲ先生の発した警告を信じる者は、誰も、いなかった。

 そうして、先生は絶望し、いなくなってしまったのだという。

 「なあ?」

 「何?」

 「なぜ、その、せっかくのツゲ先生の警告は、無視されたんだ?」

 「良い社会でありすぎたことが、響いたんだね。バブルは、恐ろしい幻だったよ」

 「…子どもの頃、神に聞いたことに、似てきたな」

 「そりゃあ、そうさ。ヒビキ君?あの神だって、ツゲ先生の教えを聞いていたんだろうからね」

 「なるほどな」

 バブル経済の社会は、奇妙な召還獣だったという。社会の皆の心を麻痺させるのに、充分すぎるほどの連続魔だったというのだ。そんな浮かれた社会では、人々に、正常な判断ができるわけなくなった。

 そこに目をつけて暗躍し出したのが、裏のソサエティということだった。

 裏ソサエティは、駄菓子屋にきた子どもたちに、こう問いかけた。

 「良く、きたねえ…。お前たち…、駄菓子は、好きかい?今、手にしている駄菓子と、将来もらえるかもしれない駄菓子があると考えよう。将来もらえるかもしれないその駄菓子は、今もっている駄菓子よりも高い価値があると考える。さあ、ガキども。どうするんだい?」

 子どもたちに、駄菓子屋経済理論を、専攻させたのだ。

 当時、男の子らの所属していたソサエティは、踏ん張った。

 駄菓子屋は苦境にあると言われる中、変わる社会に適応して、生き残ろうと努力してきたのだ。それにたいして、駄菓子屋経済理論を発した裏ソサエティは、変わる社会に抵抗する姿勢をとったのだとか。

 変わる社会に、変わる物流、人流を阻止しようとしてきたのだ!

 具体的には、ふ菓子などに代表される、昔懐かしき駄菓子屋文化を、必要以上に守り続けようとしたようだ。

 駄菓子屋は、変わろうとしていた。

 変わらなければ、ならなかった。

 新しい社会の流れに、棹さして!

 そんな変化の努力を否定しようとしたソサエティが、あったとは!

 「ヒビキ君?駄菓子屋も、努力しなければならなかったんだ。君たちの世代になら、良く、わかる話だろう?皆が、努力をしなければ、ならないんだ!はつらつ便りなんか、待っていたって、やってくるものか!」

 駄菓子屋は、生き残りをかけて、努力をした。

 コンビニなどの普及に押されても、負けなかった。

 「希望の光を、消さないようにしろ!」

 男の子の所属したソサエィは、汗をかき続けた。

 そんな中、子どもたちに、独自の駄菓子屋経済理論を施して洗脳を試みた裏ソサエティは、業を煮やした。裏ソサエティが用意したのは、逆コース的な、おまけ社会だったという。

 「…希望の実現が難しくなってしまった以上、これからは、こちらのソサエティが独自に動いて、教えを施してやる。もう、こんなわけのわからない社会には、合わせられない。我々の駄菓子屋文化は、変えない。絶対に変えない方針を、とらせてやる!我々は、駄菓子屋文化のそのまま保存に、努めよ!あの、懐かしきふ菓子の力を、見せつけてやるがいい!」

 裏ソサエティとも呼ばれたその組織のリーダーは、調合という技術が得意な女性だといううわさ、だった。

 「ヒビキ君?何か、聞きたいことはあるかい?」

 「その、ツゲ学校っていうのは、プレハブ教室かい?」

 「…済まない。その質問には、答えられない」

 「じゃあ、裏ソサエティのリーダーっていうのは、誰なんだ?」

 「そうだね。それだけは…、これから、説明してあげることとしよう」





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