キミが楽しめるように
「で、死ね神とはどんな話をしたんだ?」
ドライヤーで髪を乾かし終わった後。
抄はボクのスウェットを纏いながら唐突に切り出した。
サイズの合っていないスウェットはブカブカで、上だけをワンピースのように着こなしている。
「ショウはどこから聞いてたんだっけ?」
「俺が知ってるのは、タクが死ね神に死にたくないですうぅって駄々こねてるところからだな」
そういえばそんなことを屋上でも言っていた。
ボクは深く記憶を辿りもせずに質問してしまったことを後悔した。
「悪かったな……情けなくて」
「いやいや、悪いことじゃないだろ。諦めるよりは全然ましだ。強いて言うなら、死にたくないじゃなくて絶対に生きてやるくらいの気概であってほしかったけど」
「……そこまで言えるような生きる理由が思いつけば良かったんだけどな」
それは散々考えた末の結論。
少なくとも今のボクには夢もなければ目標もなく目的もない。
ただ死にたくない。
その結果として生きているだけ。
だから死ね神に対しても死にたくないと縋ることしかできなくて、死ねば誰かを救えるという餌に飛びついた。
命をかけて誰かを救う行為を尊いと思う気持ちは変わっていない。
しかし死への恐怖を誤魔化すための手段として誰かに命を捧げるのは間違っているのだと、冷静になった今はそう思う。
本当に尊いのは、ボクみたいに死に瀕していなくてもそういう気持ちを持てることなのだろう。
「生きる理由なんてなくても、堂々と生きればいいだろ。俺だってそうだし」
「……生きる理由がないなら、ショウはどうして生きてるんだ?」
「楽しいだろ、生きてると。美味い物食べると幸せだし、会話をするのも楽しい。この体じゃやる気は起きないけど、セックスだって死んだらできない。どう考えたって生きているほうが得だ。だったら生きるだろ」
生きていれば楽しい。
死んだら楽しくない。
だから生きる。
それでいいのだろうか。
それは、死にたくないから生きるというのとは違うのだろうか。
「タクは楽しくないか? 俺と話してて」
「楽しいけど……」
「だったらほら、それを生きる理由にしとけって。俺だってタクに死んでほしくないからな。お互いが生きてればウィンウィンだろ?」
「ショウのために生きる……」
それは、悪くないことのように思える。
死にたくないと思いながら生きるよりは。
誰かの為に死のうとするよりは。
誰かの為に生きている方がきっと幸せだ。
それにボクは、抄を巻き込んでしまった人間だ。
抄は二度死ね神に殺されている。
だからせめて、女性の体でも不自由なく生きられるようになるまでは。
ボクには抄の為に生きる義務があるのかもしれない。
目の前で生きる親友の為に。
転生した抄の為にボクの生を……。
「……」
水面に浮き出る泡のように、ポツリと浮かび上がってきた記憶の中のボクの言葉。
『それは……それは、ボクじゃない……。お前の言う転生で新しく生まれるのはボクじゃない……! ボクの記憶を持っただけの別人だ! そんなの、意味がないじゃないか……!』
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