死と相対するが如く

 マンションの屋上というのは基本立ち入り禁止であり、扉には鍵がかかっているのが常である。

 しかしボクが住んでいるこの賃貸は管理が杜撰なのか鍵が壊れたまま放置されており、門番としての役目を果たせていない。

 尤も、この屋上には対して面白い物もなく、立ち入る人間も皆無だろうからあまり問題はないのかもしれないけれど。


 錆びたノブを回してドアを開くと、老朽化を嘆くような音が鳴り響いた。


「うおっ……」


 高さがある為か屋上に吹く風は強く、殺風景な中でも夕暮れは赤く眩しい。


 辺りを見回しても人はいない。

 ボクより先に屋上へ出た人間はいないようだ。


 出入り口が一つしかなく。

 人の隠れるスペースもなく。

 周囲の建物とは十分に距離が離れている。

 密談をするのにこれほど適した場所はそうないだろう。


 屋上の中央まで歩み出て、ボクは一呼吸置いた後に口を開いた。


「訊きたいことがある、出てこい」


 呼びかけに応える声はない。

 軽く首を回しても見えている景色に変化はない。


 それなのに何かが屋上に増えたという感覚だけはあって、ボクはゆっくりと背後に振り向いた。


「っ……相変わらず心臓に悪いな、お前」


 夕日によってできたボクの影。

 その影を踏みつけて、それは居た。

 網膜を侵食したかのように、死ね神が目の前でボクを見下ろしていた。


 一日振りに見たその姿は一昨日と何も変わっていない。

 黒い外套。

 無地の白い仮面。

 そして外套の隙間から時折見える、肉に包まれていない剥き出しの骨。

 存在するだけで重圧を発し、呼吸も難しくなるほどに重くなる空気。


 抄だけじゃない。

 ボクだって、この死ね神に対して少なからず恐怖を感じている。


 しかし、ここで臆するわけにはいかない。

 親友にカッコつけた手前、ここで何も情報を得ずに戻るなんてことはできない。


 死ね神とは話が通じる。

 下手なことを言わなければ殺されない。

 死ね神には隙があり、交渉の余地がある。


 自分に言い聞かせながら、ボクはまっすぐに死ね神を見据えた。


「死ねない理由は見つかったか?」

「それを見つけるために、お前に訊きたいことがある」

「……」


 一陣の風が死ね神の外套を通り抜け、呼吸のような音が鳴った。


 死ね神は何も言わないが、消えることもない。

 早く質問を言えと急かしているようにも見える。


 死ねない理由。

 ボクが唯一主導権を握ることができる要素。

 これが死ね神の弱点であり、ボクにとっての希望だ。


 死ね神は遺言を聞き遂げないままに殺すことを無慈悲であると考えている。

 その全くありがたくない死ね神の温情に付け入って、ボクは生き残る道を見つけなければならない。

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