おまじない

「タク、明日で三日後だけどどうする?」

「どうするって……」


 コンビニで買ってきた弁当を平らげた後、抄は真面目な顔で尋ねてきた。


 気づけば二日目の今日ももう夕方だ。

 心労が溜まっているのか、時間が経過するのを早く感じてしまう。


 死ね神から宣告された期限である三日後は明日だ。

 残されている時間はもう少なく、明日までに何か対策を考えないとボクは殺される可能性が高い。


「……また死ね神と話してみようかな」

「まあ、それが一番良いのかもな……」


 残り数時間と一日。

 この短い時間でできることは少なく、その中でも効果的と思われることはもっと少ない。

 この状況では、死ね神と話すのが最も成果を見込めるだろう。


 現状思いつく中で最も有効と思われるのが交渉で、選択肢を広げるには情報が必要となる。

 このどちらも、死ね神との対話が必須だ。


「よし、じゃあ呼んでみるか」

「……」


 抄は何も言わなかった。

 死ね神との対話が最善だと同意しながら、ボクの呼びかけには同調をしなかった。


 その沈黙が気になって視線をやると、抄は小さな手でぎゅっと握り拳を作っていた。


「ショウ?」

「ん……どうした?」


 青ざめている白い肌。

 長いまつげが揺れるくらいに震えている目蓋。

 キュっと引き絞られている唇。


「……もしかして、怖いのか?」

「……そりゃ……こえーよ」

「そっか……そうだよな。よく考えたら、それが当たり前か」


 抄は死ね神に二度殺されている。

 ボクと違って、抄はあの転生した日以来死ね神に会ってはいない。

 そして何よりも、死ね神はボク以外の人間を殺す事に躊躇がない。


 死ね神はボクに対しては律儀に遺言を尋ね、無条件に殺すということはしてこない。

 しかし抄に対しては違う。

 一度目は安楽死の証明という形で、不条理に抄を殺した。

 二度目では死後の願いこそ聞き遂げたものの、願いの内容によっては抄が今ここに存在していなくても不思議ではない。


 ここで死ね神を呼び出したとして、また抄が殺されるという可能性は低くない。

 そして殺された場合、おそらく抄はもう戻ってこない。


 だから抄が怯えるのも無理はない。

 抄が死ね神と対峙するということは、文字通り命がけなのだから。


「じゃあ、ちょっと屋上行って話してくるから、ショウはここで待っててくれ」

「……それは正直ありがたいけど、一人で大丈夫なのか?」

「大学でも一度話してるからな。話すだけなら余裕だよ。それじゃパパッと行ってくるから待っててくれ」

「……いってらっしゃい」


 抄の見送りに軽く手を上げて答え、玄関に足を向けたところで弱々しく裾を引っ張られた。


「ショウ?」

「……ちゃんと」

「え?」

「ちゃんと言ってから行け……」

「……そんな気にすることか?」

「ただいまとセットだからな……」

「……いってきます」

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