終わりへと向かう中で
「いやー、充実した一日だったなー」
自宅への帰り道。
抄はボクの隣を歩きながら、自販機で買ったアイスを頬張っている。
もちろん、ボクのお金で買ったアイスだ。
「ショウ、そんなに甘い物好きだったっけ? さっきもクレープ食べてたのに、今度はアイスなんて……」
「元々嫌いじゃなかったけど、この体になってから妙に甘いものが美味しいんだよ。女子がスイーツ好きなのは体の作りがそうなっているからかもしれない……。もしくは人の金で食っているからかもしれない……」
特に根拠はないけれども、後者の理由は間違いなくその食欲に関与しているに違いない。
「あまり食ってると太るんじゃないか?」
「……確かに。いやでもこの姿って死ね神の力に依るものだし、何をしようと美少女のルックスだけは維持されるという可能性も……」
抄の願いは美少女に転生することだ。
死ね神はその願いを以て抄を美少女へと転生させ、確かにその願いは叶っている。
死ね神の力によって美少女であることが保証されている可能性も確かに考えられるが……しかし、死ね神がそこまで担保しているだろうか。
後天的な影響、つまりは加齢や怪我による見た目への影響を受けないなんて……あの死ね神がそんなことをするとも思えない。
「……っておい! 結局ボクたち死ね神について何も対策立ててないじゃないか!」
「……あれ?」
デパートの屋上で少し話したものの、とても建設的だったとは言えない。
いつの間にか死ね神の話は流され、気付けば今日という日も三分の一以下しか残っていない。
「……おかしいな。今日は服の買い物はオマケで、タクの為に一日を費やそうと決めていたはずなんだが……どうしてこうなった?」
「本当にそんなこと考えてたのか……?」
「親友の言葉を疑うのか?」
服屋では自分の着る服について真剣に悩んでいた。
レストランではセックスについて熱く語っていた。
屋上では旨そうにクレープを頬張っていた。
それでも親友を信じるべきだと、抄は言うのだろうか。
「その熱い目……信じてくれたみたいだな」
「本当にそう思ってるなら、ショウは幸せ者だな……」
今のボクなら視線だけでバナナを凍らせることもできるんじゃなかろうか。
「よし、じゃあ今からカラオケにでも行って作戦会議するか。あそこなら人に聞かれるのも気にせずにオカルトな話ができるし、ジュース飲み放題だし、いざとなればメシも食える。世の中には会議室代わりにカラオケを利用する社会人も少なくないらしいぜ?」
「ふーん……建前はそれくらいにして、本音は?」
「この声で歌ったらどうなるか気になってたんだよなー!」
「……」
「いや冗談、冗談だってタク。ちゃんと対策考えるって。コンビニで夕飯買って、家で会議しようぜ」
「……いや、いいよ。カラオケに行こう」
「え?」
「ショウは行きたいんだろ? 事が事だし、考えたって良い考えが浮かぶとは限らない……っていうか、思いつきそうにない。だから、楽しいことをするってのも悪くないよ」
「……諦めてるのか?」
まっすぐにボクを見つめながら、抄はそう問いかけた。
「諦めるわけないだろ。死にたいだなんて微塵も思ってない。ただ……」
「ただ?」
「……楽しいことをしたいって思っただけだよ……もう少しだけさ」
「……まあ、タクがそう言うなら仕方ねえなー」
自分のことながら、少し楽観的が過ぎるとは思う。
抄は自分が死ぬわけではないが、ボクは自分自身のことなのだから。
それでも、ボクは今日が楽しかった。
抄の知らなかった一面を知れた。
死ね神の呪縛から逃れることに関しては意味はなかったかもしれないが、意義があったと思う。
それに、死ね神にだって全くの勝算が無いわけじゃない。
死ね神は人の理を越えた超常の力を持っている。
したがって、死ね神を正面から打ち倒すのは不可能だ。
しかしボクの勝利条件は死ね神を打ち負かすことではない。
三日後に殺されなければそれでいい。
幸いなことに、死ね神はその力を無闇に使うわけではない。
突然に有無を言わさず殺されるということはなく、死ね神なりのルールに則って動いている。
だからボクが下手なことをしなければ、期限である明後日までは殺されないという安心感がある。
死ね神は正体が不明だ。
弱点はおろか、その発生経緯や目的も皆目検討がつかない。
しかし会話をすることができる。
こちらの問いかけ全てに応えるというわけではないが、意思の疎通をすることができる。
やりようによっては三日という期限を延ばすことも、あるいは無くすということも可能かもしれない。
どことなく、なんだかんだでなんとかなりそうな予感があるのだ。
具体的な対策があるわけではないが、死ね神に対してあまり構えなくてもいいような気がしている。
何せ、こちらから尋ねるまで期限を決めていなかったようなやつで、三日後だなんて如何にも適当な返答をするようなやつだ。
どうとでもなる、とボクが考えてしまうのも無理ないのではないか。
「じゃあゴチになるぜ。カラオケフリータイム二人分で四千円な」
「四千円か……冷静に考えると結構痛い出費だな」
「じゃあ止めとくか?」
「……いや、男に二言はないからな」
「はは、大変だな男って」
しかし結局、ボクたちはカラオケに行くことはなく、碌な対策を立てることもできなかった。
カラオケに向かう途中で、ボクは携帯に留守電が入っていたことに気付いた。
電話をかけてきていたのは母。
留守電に込められていたメッセージの内容は、次の一言に要約できる。
『祖母が危篤』
ボクよりも先に、命の灯が消えかけている人が居る。
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