触れた
「セックスと言ってもやっぱ千差万別でさ、相手が変わるだけで展開が全然変わるんだよ。前戯に時間をかけることもあれば、さっさと本番にいくこともある。されるがままを好む人もいれば、主導権を握ることに必死な人もいる。好みを口で伝えるのは簡単だけど、それを無粋と思ったり恥ずかしがったりする人もいるわけで、ほんと十人十色なんだよ」
いつの間にか話はどんどんと生々しく、セックスという行為自体の中身にまで及び始めていた。
「へえー……。ショウはどうなんだ?」
「ん?」
「いや、ショウはどういうのが好きだったのかなって」
「なんだ? 俺のセックス嗜好が気になるのか?」
抄はからかうように口を三日月形に開くと、歯を見せながら笑った。
「っ、じゃあ、別に言わなくていい!」
「拗ねんな拗ねんな。ちゃんと教えてやるからさ」
お詫びのつもりか、抄は放置されていた食べかけのハンバーグに、冷えて固まったソースをたっぷりと塗りたくるとボクに差し出してきた。
「……」
「ん? 食べないのか?」
「まったく嬉しくないからな。ボクだってそろそろお腹いっぱいだ」
「美少女からのあーんが恥ずかしいだけだろ? 素直にそう言えって」
「くっ! ショウは恥ずかしくないのかよ!」
「ぜんぜん? だって俺は今この通りの見た目だからな。タクにあーんすることに何もおかしいことなんてない」
レディース服を着ることをあれだけ恥ずかしがっていた人間の台詞とは思えない。
抄の羞恥を感じる線引きはどうなっているのだろうか。
「……っ、いいよ、自分で食べるから!」
「あっ」
抄の細い手からフォークを取ると、ボクはハンバーグを大口を開けて頬張った。
固まった油が口の中にへばりついて、美味しさよりも不快感が強い。
「食えなくはないけど、あんまり食いたいもんじゃないな……ったく」
「……」
「っ、っ……ぷはっ……ん?」
ウーロン茶で口内の油を流していると、抄が呆けていることに気付いた。
さっきまでフォークを握っていた自身の手を見つめて、半開きの口で何かを考えこんでいるようだ。
「ショウ? どうかしたのか?」
「……手」
「え?」
「タク、そんな手大きかったか?」
「ボクじゃなくて、そっちが小さくなったんだろ?」
「……あぁ、そっか……そうだよな……」
抄は自分の右手を左手でひたひたと触っている。
手首の細さから、指先の小ささまで。
少しだけ触れたボクの指の軌跡をなぞるように。
もしかしたら、また自身の体に起きた変化を実感してショックを受けているのかもしれない。
「……っ、それで?」
「え?」
「ショウがどういうセックスを好んでたのかって話だよ。体が変わったからって、何もかもが変わるわけじゃないだろ?」
「あぁ、そうだな……うん。正直言うとさ、俺は特に好みはないよ。強いて言うなら、相手に合わせるのが好きだな」
それは人を知るためにセックスをしているという抄らしい答えだった。
「あっ、でも……」
「でも?」
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