ふたりの関係

「さてさて、何食べようかなー……っと」


 辿り着いたレストランエリアはお昼時を少し過ぎていることもあり、混んでいる様子はない。

 今ならどの店でも待ち時間なく中に入れるだろう。


「和食、中華、洋食……んー。なあタク、何にしようか?」


 一つの階が丸々フードエリアとなっている為、大抵の物は揃っている。

 しかしデパートの中に構えている店は値段が高めなため、ボクとしてはなるべく安く済ませたいところだ。


「ファミレスなら全部食べられるぞ」

「あー、いいねー。ファミレスで色々頼んで豪遊するのもありだなー♪」

「人の金だと思って……」


 ボクが金欠になるということは、一文無しの抄にとっても問題だということを理解しているのだろうか。


「よっし、んじゃファミレスにしようか。色々食いまくろうぜ!」


 理解していないのだろう。

 抄に危機感は微塵も見られない。

 せめて二千円以内で済ませるように懇願する準備はしておいた方がよさそうだ。




「いらっしゃいませー」


 レストランに入った直後に女性の店員から声をかけられた。

 仕事熱心な様は非常に好印象だ。


「二名様でよろしいでしょうか?」


 店員がわかりやすく顔の前で二本の指を立てる。

 それに対して応えようとしたところで、ボクと抄が周りからどう見られているのかが気になった。


 平日の昼間にファミレスに入るスーツの女性と私服の男性。

 抄の見た目はボクよりも幼い。


 兄妹と見られるか。

 それともカップルか。

 もしくはスーツにより仕事の関係者と見られる可能性もある。


 そんな思考を巡らせていると、抄がずいっとボクの前に出た。


「はい、二人です。この子弟なんですけど、そのポスターに書いてあるファミリー割引って使えますか?」

「……は?」


 抄の言葉の意味がわからなくて、ボクは固まってしまった。


「使えますよ。会計時にレジの者にお申し付けください。」

「はい、わかりました」

「では、こちらの席へどうぞ」


 ボクを置いてけぼりにしたままで抄と店員の話は終わり、店員は歩き始めてしまった。


「ん? どした、タク?」

「……ショウ、お前いつの間にボクの姉になったんだ?」

「ついさっき? 5パーセント引きだからそこまで大きくはないけど、使えるもんは使った方がいいだろ?」

「それはそうだろうけど……」

「家族証明なんてどうやって確かめるのかと思ってたけど、自己宣告制とはな。店側も割引き前提の営業してんのかもなー」

「……」

「なんだ? まだなんかあるのか?」

「……ショウが姉なのか?」

「スーツ着てるからな!」


 腰に両手を当てて、胸を大きく張って、抄は堂々と言い放った。


「それに、スーツ着てる俺が妹だとタクがニートみたいに思われるからな」

「それはお気遣いどうも……。なあ、ショウ」

「ん?」

「さっきのさ……えっと……」

「なんだなんだ? まだ姉の話か?」

「……っ、いや、やっぱいい……」

「?」


 抄が店員と話す時の声。

 ボクに話しかけるような素の声ではない、少し整えられた丁寧な高めの声。


 それを、ボクは可愛いと思ってしまった。

 まるで見た目通りの年下の後輩が出来たようで、ときめいてしまったのだ。


 しかしそれを素直に伝えるのは恥ずかしくて、照れくさくて。

 ボクは最後まで伝えることができなかった。

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