フォーマルな服で、カジュアルに話を
「よう、お待たせ」
胸の膨らみで盛り上がるパリッとした白いブラウス。
細身の足を強調する黒くタイトなスラックス。
着せられている感の強い漆黒のジャケット。
そして裾を引きずりながらボクのコートを羽織っている童顔の美少女がそこにいた。
「どうよ、この格好。アンバランスさが逆に良くないか?」
あまりにもアンバランスが過ぎると思う。
高卒のOLだってもう少しスーツを着こなすだろう。
しかし、あれほど服を選ぶのを渋っていた抄が選んだのだから、もうこれでいいのではという思いもある。
人の目は引くかもしれないが、この際受け入れるしかないだろう。
「ショウが良いならいいんじゃないか。しかしどうして急にスーツなんて選んだんだ?」
「スーツなら女装してる感じがなくて全然恥ずかしくないからな!」
そもそも体が女性なのだから女装ではないのだが。
しかし抄の言う通り女性らしさが皆無なのは間違いない。
「でもこうなってくるとやはりエロい下着が欲しくなるな。このバッチリキマったスーツ姿で中身は実は、というのも……ありじゃないか?」
女性服を目の前にしてあれだけ悶々としていた人間が何を言っているのだろうか。
「服も揃ったし、早く帰ろう。ボクはもう疲れた」
「じゃあちょっとレストランで食事でもしようか」
「ショウ? ボクの話聞いてた?」
「女心がわかってないな、タクは。そんなだから彼女が出来ないんだぞ」
彼女がいないから女心がわからないのだとボクは思いたい。
「いいか、俺は自分で服を選んで買ったんだぞ。しかもあんなに悩んでだ」
買ったのはあくまでボクのお金を使ってなのだが。
抄に返済の意思はあるのだろうか。
「だから、俺はもう少しこの格好でいたいんだよ!」
「だったら帰ってからもスーツでいればいいじゃないか」
「バカだなー、スーツは帰ったらすぐに脱ぐに決まってるだろ。安物なんだし、長く使う為に速攻でブラシかけて干すんだよ!」
スーツの寿命を延ばしたいのなら、なおさら早く帰った方が良い。
そんなことを言うのはきっと野暮なのだろう。
結局、抄はまだ帰りたくないだけで――
『まだ一緒に遊びたい』
そう言っているのは付き合いの長いボクじゃなくたってわかるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます