第55話 ポレットの聖女日記・31
会議後、ポレットはエメリーヌの後を追いかける。
少し意地悪そうな笑みを浮かべて、振り返った顔は自信に満ちていた。
「エメリーヌ…」
名を呼ぶだけで精いっぱいだった。
何から話したらよいか言葉が浮かばない。
「私、わたし…」
何故だか瞳が自然と潤む。
泣きたいわけではないのに、気持ちが溢れる。
「馬鹿ね」
攻撃するような言葉だが、優しく手を取られた。
その手が温かく、ポレットの心を溶かす。
「行くわよ。まだ、課題が終わってないものがあるのよ」
引っ張る様に歩き始める。
もたつきつつもエメリーヌの後ろを付いていく。
「一緒にやってくれる?これからもずっと」
ポレットは震える声で問いかける。
「ずっと一緒にやってるでしょ?これからも変わらないわ」
何処かそっけないのはエメリーヌも恥ずかしいからだろう。
後ろから見える耳が赤いような気がする。
ポレットは胸に温かいものが広がるのを感じる。
エメリーヌが傍にいてくれるなら何よりも心強い。
親友だと改めて確認する必要はない。
繋がれた手は強くお互いを結んでいる。
それだけで信じることが出来た。
◇
初代新世界の聖女王、名はポレット。
穏やかな気性の中に芯がある。頼りない、という声もあるが、そこを埋める補佐官エメリーヌの存在は確かである。
二人は手を取り合い、新世界を導くことを決意する。
「ですから、こちらの機関の立ち上げに関しまして、人材を回してください」
「エメリーヌ、あまり無茶を言わないで」
「アデライド様!新世界には経験も知識も豊富な人が今すぐ、絶対に、必要なのです!」
「幹部を根こそぎ持っていかれては、こちらも立ち行きません。要所は押さえて、後は…」
補佐官同士のやり取りが白熱する。
その横で、ポレットは苦笑いをする。
「申し訳ありません、陛下」
「大丈夫よ、アデライドも分かっているの。新世界の組織といってもしばらくはこちらの聖域にいることになるし、あちらが落ち着くまではこちらもできるだけ協力するわ」
「で、レインニール様はいつ、いただけますか?」
「それはまだダメ」
聖女王二人は見つめ合う。
「では、一先ず、支部長の職を辞そうと思います」
レインニールが挙手をすれば、ポレットが縋りつく。
「すぐレインニール様に新しい職をご用意します!」
「だから、ダメってば!」
両脇から聖女王に抱き着かれ、やっぱり黙っているべきだったと後悔する。
少し離れたところでフロランがハンカチを噛みしめる。
「こうなったら私も新世界に…」
「礎の力が無くならない限り、無理だろうよ」
コルネイルが突っ込むが、相手は聞いていない。
「何だか、除け者ですね。俺たち」
ジェラールは隣にいるアレクシに視線を移す。
彼は複雑な顔をして聖女王たちのやり取りを見ている。
「平和が一番、何だろうな」
息を落とし、アレクシは空を見上げる。
ポレットが礎たちに気付き、笑顔を向ける。
空は高く何処までも澄み渡り、穏やかな陽気であった。
聖域は新しい聖女王の誕生で喜びに満ちており、誰もが明るい表情をしている。
賑やかな声が響き、笑う声が重なる。
ポレットはこの楽しい時間がいつまでも続くことを心から祈った…。
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