第54話 ポレットの聖女日記・30
聖女王、礎、各機関の幹部たちが出席する会議の末席に聖女王候補たちも座る。
こうやって一同が会する機会ももう僅かだろう。
試験の期間も終わりが見えてきた。
今までとは違う緊張感にポレットは何度も唾を飲み込む。
全員が自分に注目しているようで、変な汗が体中から出ているようだ。
隣に座るエメリーヌは余裕がある様に見える。
いつもと同じように隣にいてくれるのは安心するのだが、自分とは違い、すっと伸びた背筋に少し遠くを見ている瞳の輝きは眩しく、視線が合えば優しく微笑んでくれる。
出会った頃はお互いにぎこちなかったが、今ではずいぶん打ち解けた。同じ立場でもあり、年頃も近い。いろいろな相談も気軽にできるようになった。
試験が終わっても傍にいてくれたらいい。
ふと浮かんだ考えがとても素敵なものに思えて、この会議の後にでも伝えてみようと決意する。
喜んでくれるかな?同じような思いを抱いてくれているかな?
自然と頬が緩む。
聖女王補佐官のアデライドが開会の言葉を宣言するため立ち上がるのをエメリーヌが手を挙げて止めた。
「会議が始まる前に、一つお話したいことがあります。お時間を頂けますか?」
ピンと伸びた手を高々と伸ばし、強い意志を感じる口調に皆が顔を向ける。
それを受けてもエメリーヌは堂々とした態度で席から立つ。
ポレットは自分の事のように手に汗を握りながら見守る。
ふと視線を感じるとエメリーヌが優しく微笑んで、聖女王へ向き直る。
何か予感がして胸が騒めく。
「私、エメリーヌは新世界の聖女王にポレットを推します」
ざわ。
突然の言葉にその場にいた者たちがそれぞれ反応する。
ポレットも何を言われたのか信じられない顔でエメリーヌを見上げる。
「私がポレットに劣っている、とは思っていません。しかし、新世界の聖女王はポレットが相応しいと考えました」
エメリーヌは自然と自分の胸に手を置いた。
「聖域に来る前から何度かポレットとは顔を合わせる機会がありました。
私は集団で行動するには強い統率力が求められると思っていました。自分は積極的に先頭をいき、皆を導く、これこそが大事なことであると信じていました。
ポレットはよく後ろのほうにいました。後ろから集団から遅れる者がいないか、体調など崩しているものがいないかいつも気にしていました。見つければすぐに声をかけ、周囲に助けを求めていました。
それは聖域に来ても同じでした。
自分の手には余る、そう判断したときにポレットは皆様に助けを求めていました。もちろん、私にも相談してくれました。とても、嬉しかった。
私はどうしても一人で解決しようとしてしまう。自分の好奇心を優先してしまう。その結果、人に不快な思いを抱かせてしまう」
体の向きを変え、エメリーヌは深々と頭を下げる。
「レインニール様、色々とご迷惑をおかけいたしました」
話の腰を折らない様にレインニールは頷いて謝罪を受ける。
エメリーヌは再び、顔を上げると聖女王を見据える。
「私たちは新世界の聖女王候補です。新世界はまだ、生まれたばかりの世界です。ここで一つでも取りこぼせば、後の世界が大きく変わります。修正するには大きな労力が必要になります。それを導く聖女王にはポレットこそ相応しいと思うのです」
言われたことが受け入れられず、ぽかん、と口を開けてしまう。
エメリーヌの言葉が頭の中をぐるぐると回り、理解できない。
聖女王はにこやかに微笑む。
「エメリーヌの考えはよく分かりました。しかし、実際に決定するのはあなたではありません。あなたたち以外のここにいる者たちと話し合い、決めるのです」
礎たちも頷く。
「けれど、そうやってライバルであるポレットの事を認めることが出来るエメリーヌは立派だと思います」
わずかに聖女王はそばに座るアデライドを見る。
「あなたの言葉、私の胸におさめておきます。最終結果を出すまでは聖女王候補としての立場は変わりません。その事は心得ておいてください」
「はい!」
清々しい勢いのある返事が部屋の中にこだまする。
誰もがエメリーヌの心を受け取り、気持ちの良い風を感じたのだった。
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