第12話
何かに気が付いたのかレインニールの瞳が一気に潤む。
背後に現れた気配にアレクシも振り返る。
「連絡をくれるだけで良かったんだぞ?」
サシャであった。
レインニールは口元を押さえ、嗚咽を我慢する。
今にでも泣き出しそうな顔は幼少時代を思い出させた。
対するサシャも目元に皺をよせ優しくレインニールの頭を撫でる。
それが合図であったようにレインニールの両目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
声だけは必死に我慢していたが、サシャが抱き寄せたため、決壊したように声を上げた。
アレクシも何故だか胸を締め付けられるように切なくなる。
レインニールが何を考えているか全くわからないが、サシャに対する全幅の思いは甘く悲しい感情を抱かせた。
「アレクシ、悪かったな」
泣き顔を見られたのが恥ずかしいのか、サシャの陰に隠れレインニールは顔を拭いている。
何となく、居場所のない思いをしていたアレクシだったが、サシャの言葉で気持ちを持ち直す。
「いえ、大丈夫です。こちらの思いも気付かず、連絡も寄越さず、辺鄙なところで村人の手伝いをしているなど、理解に苦しみます」
サシャは苦笑したが、顔を引き締めレインニールを覗き込む。
その姿にようやくアレクシは違和感を抱いた。
幾らか年上ではあるが、まだ年齢的にも盛りのはずである。だが、気配というか雰囲気、様子に衰えを感じた。
「レインニール、見つけたんだな」
こくり、小さく頷く。
アレクシは耳を塞ぎたいと心底思った。
そして、レインニールの行動の意味を悟る。
「名前はフロラン。頭に鳥の羽を付けています。歳は私と同じだと言っていました」
「鳥の羽?」
「派手な金髪を飾るにはちょうどいいと。この先の畑で作業をしています」
サシャは背を伸ばし、畑を確認する。
先ほどまでレインニールと一緒にいたのが恐らくフロランという者なのだろう。
金髪に鳥の羽と聞き、理解の範疇から超えているとアレクシは突っ込みたくなったが、長老が言っていた難儀している若者がそのフロランではないかという疑惑が浮かんだ。
「話はできそうか?」
「私の名前を出してくだされば、大丈夫と思います」
もう一度、レインニールの頭を掴むように撫でると、サシャは畑に向かって歩き出す。
今にでも駆けだしてついていきそうな顔のレインニールに並んで立ち、アレクシはサシャを見送る。
「水の礎が交代するのか?」
レインニールが物言いたげに瞳を潤ませ、睨みつける。
礎の力を失えば聖域から出ることになる。
それをレインニールは危惧しているのだ。
「だが、水の礎の力を増幅させてよい理由にはならん」
近くにいて力の喪失に気付かないわけがない。
レインニールはおのれの力を使い、サシャの礎の力を補っていたのだ。
おそらく、サシャ自身も気が付いているのだろう。だからこそ、次代を探しつつ、レインニールも探す必要があった。
「その力、陛下はご存じか?世の理から外れたものではないのか?」
やましいことがあるのかレインニールは唇を噛んだまま答えない。
「至急、陛下に進言する。野放しにしてよい力ではない」
あまりに危険すぎる。
アレクシは踵を返し、レインニールから離れる。
置いていくのは気が引けたが、サシャが近くにいる以上、レインニールは無茶をしないだろうという確信があった。
それよりもレインニールの存在が世界に影響を及ぼしかねない。
サシャの力の喪失、すでに見つかった次代。
アレクシ自身も余裕をなくすほど動揺している。
考えはまとまらないが、陛下にこのことを報告するのが何より優先だと思われた。
まだ、体はレインニールから受けた力の残滓がある。
静まらないのは心なのか礎の力なのか。
手の震えはいまだ、おさまらない。
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