第10話
思ったより任務が軽く済んで、アレクシはほっとした。
長引くと幾日も神殿に滞在することになり、迷惑をかけ負担になってしまう。
礎の存在は敬われるものではあるが、そばにいるとなると常に緊張と隣り合わせになるらしい。神官たちが神経質になるのを幾度も目にしている。
勿論、それはアレクシ自身の態度がそうさせるのだが、自覚はない。
そういえば、サシャに頼まれていることがあったと、近くで作業をしていた研究員に声をかける。
「最近、銀髪の研究員が来なかったか?名はレインニールというんだが」
その名を聞いただけで、研究員たちが騒めく。彼らの中でレインニールはちょっとした有名人らしい。
気持ちは分からなくはない、とアレクシも納得する。
「来ましたよ」
その中の一人があっさり答える。
「けど、すぐに出ていきました」
「どこへ行くと言っていた?」
「トレーフル村のほうへ」
地図を確認すればここから近い場所だった。
早めに終わったことだし、その村まで様子を見てこようかとアレクシは思案する。
だいぶ、辺境まで来ている。
何が目的でこんなところまで来ているのか、さっぱり見当がつかない。
研究員になってから交流はほとんどないが、ここまで人となりが分からなくなるものかと驚いてしまう。
もはや、本人を問い詰めるしか答えは出ない。
ふと、研究員が考え込んでいるようだったので、どうしたのかと問いかける。
「いえ、大したことではないんですが、礎様が来て、自分の事を尋ねたら答えてよいと言われたのです。礎様が来たらではなく、自分の事を尋ねるものが来たらでもなく」
どうやらレインニールは居場所を伝えることに妙な条件を出していたらしい。
つまり、トレーフル村にはレインニールの事を気遣う礎が行かなくてはいけないということだろう。
サシャに来て欲しいのか。
全く、何という甘えた考えをしているのだ。
研究員たるもの一人の礎に関心を寄せるのは良くない。平等であるべきだ。
アレクシは苛立ちを抑えながら研究員の憂いを取り払う。
「気にしなくてよい。レインニールは聖域と縁がある。そのため、言伝が妙なものになったに過ぎない」
自分たちと深い関りがあるとはっきり告げるわけにはいかなかった。
レインニールの立場を悪くするかもしれないからだ。
本当に手のかかるヤツだ。
アレクシは年の離れた厄介な妹を持ったような気持ちになり、深いため息を吐いた。
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