第4話・帰還と忠告
エリオットが孤児院にいる日は少ない。ここ一週間、わたしも姿も見なかったし気配すら感じなかった。そして、たまに現れては子供を孤児院に預けて、またすぐにどこかへ出て行ってしまう。まるで巣を持たない渡り鳥のようだ。
そんな彼が━━━怪我をして帰ってきたのだ。
「エリオット!」
「ユキシア…ただいま戻りました…」
わたしも思わず驚愕の声を上げる。エリオットの胸が血塗れなのだ。
「その傷…」
ヴァンパイアは非常に高い回復能力がある。その回復能力を一時的に遅らせられるのが〈ガーディアンズ〉が使うスティグマ・ギアと同胞であるヴァンパイアの攻撃だ。
「一体誰にやられたの?」
「聞いてどうするんですか。仕返しにでも? 無駄ですよ。貴方たちが立ち向かえばたちまち殺される。━━━何もするな」
困ったような表情に虚無感を覗かせるエリオットの粗暴な言い方に困惑する子どもたち。
エリオットは、しばらくその場に根を下ろしたように動かなかった。
わたしとアレンは、幼い子たちをそれぞれ部屋に戻していき、再び玄関へ向かうとエリオットの姿はなかった。絨毯には彼の足跡がかすかに残っていて、血はすでに乾いていて掃除する必要もなかった。
◇◇◇
「ユキシア。来なさい」
血塗れの服装から着替えて来たエリオットが談話室に戻っていたわたしを呼び出し、彼の部屋まで向かった。それをじっとアレンが見ていたのは言うまでもない。
ギィ、と音を立てる扉を閉めてエリオットは、自分も椅子に座り、懐から出した懐中時計の蓋を開けたり締めたりしながら、わたしにも座るよう促し自分を襲ったヴァンパイアの話しを語り始めた。
「〈グリムレーベン〉をご存じですか?」
「…うん」
グリムレーベン━━━徒党を組んでいるヴァンパイアたちのクラン名だ。
【原作】本編にも登場する過激なヴァンパイア集団で、人間を「ゴミ」と呼び奴隷のように扱い時に快楽のために陵辱の果てに殺戮をする。同胞であるヴァンパイアすらも殺していて、鬼畜生とネット上では呼ばれながらも根強い人気がある。
というかアレは人気っていうよりは、ネタとして楽しまれているんだろう。…そう思いたい。
エリオットは、心を読むことができる異能力を持つヴァンパイア。わたしが転生してきたことやこの世界が漫画の世界であることを知っている。
まぁそもそもエリオットやアレンは【原作】にすら登場しないモブ以下のオリジナルキャラクターといっても過言ではないため、【原作】の流れを知られたところでどうにかできるものでもだろうと、わたしは高を括っていた。
「〈グリムレーベン〉を知っておきながら、あの日あの時よくもまああんな態度取れましたね。私でなければ殺されていましたよ」
とエリオットに苦言を呈された。
「顔と名前が一致するから平気ですよ」
「あそこは大きなクランです。私が顔も名前も一致しないヴァンパイアだったらどうするんですか」
「ぐっ」
呆れた、とばかりにため息を吐くエリオット。
「ユキシア、知っていることと理解していることは違います。
貴方の記憶力は素晴らしいですが、ヴァンパイアが危険なものであることを知っているのなら、尚のこと気を付けてください」
「うぅ…はぁい……」
社会人7年目の小娘、あえなく230年生きるヴァンパイアに撃沈させられた。
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