第30話「切って!」


「よぉし、それじゃあ焼くぞぉ!」


『おぉ!』


「みなしゃん、よろしゅう、ひへっ、おねがいしみゃす! あ、井宮しゃん、アテをなにかお先に、くだしゃいな」


 アンチョビ先生は、庭のハンモックにぶらさがっています。

 片手には、ビール瓶を持っていました。

 マリネ先輩は、釣りで余った練り餌をアンチョビ先生に渡します。

 面倒くさいと言わんばかりに、みんな元に帰ってきたマリネ先輩はこう言いました。


「ああ、あれは教師じゃないからロティとポワレは気にするな」

「ほんまやで。二人ともああいう大人にはなったらアカンでぇ」


『はあい』


「ひいえぇえ、休日シャイこおおお!」


 ☆


 四人は庭に出てひし形の形をしたコンロの前にいます。


「まず何をするんですか?」

「まず火を作る。この最新式焚火型グリルコンロを見たまえ」

「おぉ」

「ちなみにこれうちのやつな」

「どうだ? すごいだろ? すごいだろ?」

「なんかすごい気がしてきました」

「ロティちゃん将来詐欺にでも騙されそうやな」

「そうなんですよ奥さん、見てください! これ一台さえあれば焚き火もバーベキューも出来るしなんと、中央上部から釣り下げるとダッチオーブン料理も出来る! 後片付けも簡単、収納も楽ちん! どうです?」

「おぉ! わたし買います! あ、でもお金が……ぐぅううう」

「はよ火つけや……そんでロティちゃんお腹鳴ってるし」

「お腹すきました……腹ぺこです」


 マリネ先輩が炭に火をつけている間に、待っていた三人は、一度キッチンに戻り野菜や魚の下処理をはじめることにしました。


「ロティちゃんエプロン買ったん?」

「はいっ、そうなんです! 実はポワレちゃんと買いにいきました」


 ロティさんは、新品のエプロンをふりふりしています。

 淡いピンク色に腰に茶色のリボンが巻いていて、胸元にウサギさんがちょこんとついてます。


「めっちゃかわええ~」

「あ、ありがとうございます」


 カシャカシャとポワレさんは、ロティさんの写真撮影に入りました。


「かわいい、かわいい」


 ☆


「それじゃあ魚の下処理やねんけど……ロティちゃん出来る?」

「出来ません」

「せやな、まずポワレちゃんのお手本をみてみよか」

「任せて、内臓は、こう」


 ポワレさんは、シュバババと魚の内臓を取り除いていきます。


「血が残らないように背骨に沿って、こう」

「分かった……ロティちゃん?」

「……速すぎて分かりません」

「よし、魚はポワレちゃんに任せて、うちらは野菜を切ろか」

「はいっ、野菜なら任せてください」


 玉ねぎや人参、かぼちゃ、ピーマンなどの下処理をします。


「そうそう、ロティちゃん、上手になってる」

「ありがとうございます! 頑張りますっ!」


 カシャカシャとまたもやポワレさんは、ロティさんの撮影タイムに入ります。


「ポワレちゃん魚は……もう終わってる!? はやっ?」

「串打ち、塩フリ完了」


 ポワレさんは、片手でサムズアップして撮影を続けます。


「これ、ロティちゃんのお母さんに送る」

「……いつのまにロティちゃんお母さんと知り合いに……?」

「この前、エプロンを買いに行った、帰りに。実はお母さん、尾行してた」

「なるほど……なるほど……」


 ☆


『ポワレさん。こんなにもアンちゃんの写真をありがとうございます。感動のあまり涙がとまりません。今度またお礼をさせてください。 アンちゃんの母より』









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