第29話「釣って!」

 川辺に辿り着きました。

 せせらぎの音が耳に心地よく、午後の穏やかな風が新緑の匂いを運んできます。

 木漏れ日に照らされた水面が、きらりと反射して大変美しい自然です。


「じゃあ各自適当に釣りを楽しもう!」

「うちあの辺で釣ってくるわぁ」


 ジュレ先輩は目的地に向い、さっそく手慣れた様子で釣り竿を川に投げます。


「あ、あの……」

「どうした二人とも?」


 ロティさんとポワレさんは、ぽつんと立ったまま動きません。


「つ、釣りってどうやってするのですか?」

「同意」

「そこからっ?」


 二人はマリネ先輩に教えてもらいます。


「今日はこの買ってきた練り餌を使うから、これを針にこんな感じで……引っ掛けて、で、あとはリールのここをこうして、投げる」


 糸がするすると音を立て、ぽちゃんと川に餌が投げ込まれました。


「おぉ……すごいです」


 ポワレさんは拍手しています。


「簡単だから、二人もやってみ」

「はいっ」


 数分もすれば二人とも川釣りをはじめていました。


「な、簡単だろ?」

「はい、でも本当にこれでお魚さんが釣れるんでしょうか……」


 すると少し離れたところで、魚を釣り上げているジュレ先輩が。


「みんなぁ、釣れたでぇ!」と興奮気味で叫んでいます。

「あ、またイワメが釣れたでぇ! あ、今度は鮎が釣れたでぇ! あ、ヤマメやぁ! 入れ食いやわ! やっぱ釣りっておもろいなぁ!」


 ・・・・・


 三人はまだ一匹も釣れていません。


「ああ見えてもあいつ、自然とかに結構強いんだよ……ほら、お嬢様過ぎて逆に自然とかに別荘持ってるだろ、だから、な」

「なんていうか世の中って厳しいんですね……」

「釣りたい……」


 ☆


 夕陽が射し込んだ頃には何とか四人とも坊主にならずに済みました。


「釣りって面白いですね!」

「うん、びくってする。びくって」


 ロティさんもポワレさんも大変満足そうです。


「みんな予想以上に釣ったなぁ」

「あぁ、大漁だよ」


 クーラーボックスの中には、たくさんのお魚さんが泳いでいます。


「ほな、さっそく帰ってアンチョビ先生驚かせよかぁ」

「アンチョビ先生もこれだけお魚さんがいたら喜びますよね!」

「料理しがいが、ある」

「よし、じゃあ帰るか」


 数十分後、別荘に帰宅。


『ただいま〜』


「あひゃ、おけぇりないしゃい! ひへっ」


 すでに酔っ払ったアンチョビ先生を、四人は白けた目で見ていました。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る