第20話 対決・ギャングレオ盗賊団特攻隊長②
<電撃肉体強化魔法>――
名称から察するに、自身の魔力で発生させた電撃を自らの筋肉に作用させることで、肉体を強化しているといったところか。
俺もこの二年間で魔法使いと戦ったこともあるから分かるが、サイバラが使うそれの効果は、一般的な強化魔法の劣化版に見える。
これがとっておきというところを見ると、サイバラも大した魔法は使えないのだろう。
だが武闘家がわずかな魔力を利用して、自らの肉体を強化できるのは大きな武器だ。
"全く魔力がない俺"と"わずかな魔力で自己強化できるサイバラ"の差は厄介だ。
事実強化された一撃は、容易く店の壁をぶち抜いてしまうほどだ。
――そう、サイバラは"店の壁をぶち抜いて"しまったのだ。
「おい!? 用心棒のてめえ自身が、店を壊してどうするんだ!?」
「だーから言ったでヤンスー!」
なるほど、それは部下達も止めに入るわけだ。
もう目的と手段が逆転しちまってるじゃねえか。
「オレにとっちゃ、負けることの方が大問題だ! ギャングレオ盗賊団は……舐められるわけにはいかねえんだよぉ!」
もはやなりふり構わないサイバラの攻撃が続く。
その度に店内の机や椅子が壊れ、床や壁に穴が開き―― あ、扉が吹き飛んだ。
「ああああ……。これ、後でカシラになんて説明すればいいんでゴンスか……?」
「……始末書と修理代の請求は逃れられないでアリンスね」
部下達の顔が青ざめていく。
上司がこんなのだと苦労するわけだ。
「実力は申し分ねえくせに、頭の使い方がなってねえな!」
「頭だって使ってらぁ!」
ゴツゥウン!!
サイバラの頭突きが俺に直撃し、ひるんでしまう。
もうそれ相撲の技じゃないだろ。そもそも"頭を使う"ってそういうことじゃない。
だが、俺へのダメージは確実に重なってきている。
「つぅ……!? こいつは……並の一撃じゃ沈められそうにねえな……」
サイバラが肉体を強化した後もスピード勝負で手数を稼いでいたが、守りも上がっているのかまるでビクともしない。
こいつは強烈な一撃をお見舞いしないと倒せそうにないか――
考えられる対抗策はある。
サイバラの攻撃の威力が挙がっているのならば、逆にそれを利用すればいい。
そして狙うはその攻撃のスキを突いた一瞬――
俺は意識をサイバラの攻撃に集中して、チャンスを伺う――
「いっぺん! 死んで来いやぁ!!」
サイバラが渾身のぶちかましを放つ。
ここだ!
「ウルゥアァ!!」
「ゴベラバァ!?」
ドゴォオオン!!
すさまじい衝撃音を放ちながら、サイバラが吹き飛ぶ。
俺がぶちかましに対して放ったカウンターが決まったのだ。
ドガシャァアアン!!
吹き飛んだサイバラは、そのまま壁にあった酒が並んだ棚に突っ込んでいった。
「てめえの攻撃の威力が上がってるのなら、カウンターの威力も上がるだろうよ」
「く……くそがぁ……! ま、まだ終わって――アベババババババ!!??」
バチバチバチバチィ!
サイバラは再度立ち上がろうとしたが、突然震えて苦しみ始める。
サイバラ自身がこれまで以上に稲光で光っているし、どうにも様子がおかしい。
「な、なんだ? 何が起こってるんだ?」
「多分……棚に並んでたお酒を全身にかぶっちゃったせいで、<電撃肉体強化魔法>の制御が利かなくなったんだと思います……」
俺とサイバラの勝負を眺めていたラルフルが声をかけて説明してくれた。
なるほど、自分の魔力で感電しちまったわけか……。
しばらくして感電が収まると、後には黒焦げになって煙を吐くサイバラがいた。
「こいつ……。実力はあるのに残念な奴だな……」
「あ、兄貴~!」
部下三人がサイバラのもとに駆け寄る。
サイバラの容態を確認しているようだが、生きてはいるらしい。
すごい生命力だな……。
「すごいですね、ゼロラさん……。王国騎士団でも苦戦する、あのギャングレオ盗賊団の幹部を倒してしまうだなんて……」
「……正直、運が良かったところもあるがな」
結局はサイバラが自爆したようなもんだし。
「ゲホッ! ゲホォ!? ちょ、ちょっと待て! おっさん! ゼロラって名前なのか!?」
「ん? そういえば名乗ってなかったか?」
サイバラが俺の名前について、何か知っているように問いかけてくる。
てか、よくその状態で喋れるな……。
「き、聞いたことがある。ルクガイア王国内の街道にある名も無き宿場村に住む、通称【零の修羅】。記憶も魔力もねえくせに、腕っぷし一つで名を挙げてるっていうあの……?」
「ああ、俺がその【零の修羅】……ゼロラだ」
「マ、マジかよ……。つ、強いわけ……だぜ」
そう言ってサイバラは、そのまま再び倒れ込んで気を失ってしまった。
「サ、サイバラの兄貴がやられたでヤンス~!?」
「ど、どうするでゴンスか!?」
「逃げるに決まってるでアリンス!」
流石にこれ以上は相手できないと判断したのだろう。
サイバラの部下三人はサイバラを担いで、慌てて店から逃げて行った。
色々あったが、とりあえずこれで俺の仕事は完了だな。
「あの……ゼロラさん。本当にゼロラさんはこの店を襲っていたのですか?」
「……ああ。さっきの用心棒達を倒すよう、俺はドーマン男爵から依頼を受けていたんだ。誰もやりたがらない"暴力"と"いやがらせ"……。それが俺の仕事だ」
「で、でも! ゼロラさんの本心じゃないですよね!? こんな仕事をすることなんて!」
ラルフルのまっすぐな視線が痛い。
俺もこいつのように、まっすぐに生きられたらどれだけ良かったことか――
――いや、まだやり直せるチャンスはあるはずだ。
「あ、あの……やはりこの店の営業権は、ドーマン男爵の手に渡ってしまうのでしょうか?」
俺が少し考えていると、一部始終を見ていた店員が声をかけてきた。
「お願いします! どうかこの店の営業権だけは! 我々はドーマン男爵の下から逃れられたおかげで、従業員もまともな生活ができるようになって――」
「ん? 別に営業権をとるつもりなんてねえぞ?」
「……え?」
このままドーマン男爵の思い通りになるってのも癪だ。
ここは少しばかり、抵抗させてもらおう。
「俺が受けた依頼は『この店の用心棒を倒す』ことだけだ。それ以外の依頼は受けてねえし、もう依頼は達成したからここに用はない」
「ゼロラさん……!」
チンケな屁理屈だが、それを聞いたラルフルの顔が明るくなる。
「こっちこそ、店の中で暴れてすまなかったな。後のことはそっちで頼む。新しく用心棒を立てるなり、領主のガルペラ侯爵に相談するなり、ギャングレオ盗賊団に賠償金を請求するなり……。できることは色々あるはずだぜ」
ガラにもなく好意的に接するのは恥ずかしいものだ。
俺は頭をかきながら、そそくさと店を出ようとした。
「あ、あの! こんなこと、言うのもおかしな話だと思うのですが……。お気遣い、感謝いたします!」
店を出る間際に、店員が俺にかけてくれた言葉はどこか暖かく、少し救われたような気がした。
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