Arthur15 ルリックの聖女のお導きを

 博の言葉を聞いたレイン達は、腕と脚を大きく動かし、長島製作所に到着。

 雨風によって茶色の錆が付いた工場の門を通りぬけ、奥へと向かった。

「レイン! あそこよ!」

 カリーヌがフード姿の集団に囲まれた茶色のスーツの女性を発見する。

「いや! 助けて!」

 彼女は、小鳥の鳴き声のような言葉を発していた。

「おい、なにをしている!? 市民に手を出すのは、僕達が許さない!」

 レインが大声でフードの集団に警告する。すると、彼らは、レイン達に振り向く。一人一人、青、赤、緑、黄の色が入った顔が分からない頭巾を被っている。

「我らの理想の世界を邪魔する者だ」

「排除する」

 と、ぶつぶつと呟く彼ら。声のトーンから、人間らしさや機械的でもない。生気すら感じない鳥肌が立つようなものだ。

「殺しにくるよ! みんな!」

 青フードの男が杖から水の刃がレインに飛んでくる。 レインは、横にステップして回避。カリーヌが、攻撃が終わった隙に青フードの男を炎の竜巻で包みこもうとする。が、緑フードの女が、剣による突風で無効化される。

「許さない! 絶対に!」

 エリーが剣先で地面を手前から奥へと擦るように、数多のコンクリートの破片を浴びせる。が、またしても、黄フードの男が手で岩の壁を作り、防御されてしまう。

「なんですか! 彼らは!」

 ジュードが手慣れた槍さばきで竜巻を起こし、応戦。

「幼稚な技術で四大騎士家の血を継ぐ者とは……冗談にもほどがある」

「はい? 今、なんと言いましたか?」

 赤フードの男が杖で火炎放射器のような直線の火のビームでジュードを狙う。

 ジュードは、サイドステップで対応するが、時すでに遅し。彼の左腕に、溶岩に浸かったような、強烈な熱さが走る。

「がぁぁぁ!」

「ダーリン!」

 苦しむジュードの元へ素早く駆け寄るエリー。が、注意が彼に向いている彼女を黄のフードの男が縦の斬撃を繰り出す。エリーは、剣で間一髪ガードをする。しかし、黄のフードのキックが彼女の腹に直撃。一メートルほど吹き飛ばされた。

「なんなのよ!? こいつらは!?」

「分からない。ただ、……確かだ!」

 レインが、競り合いに勝ち、閃光のような水属性の斬撃で青フードの男を撃破。

「そうよ……ね!」

 カリーヌもしのぎを削り合いに勝利。ククリナイフで赤フードの男の胸を斬った。追撃で素手による火の弾丸で彼を無力化した。

 が、倒したのは、二人。見る限り、残り十五人ほどだ。

「くそ、キリがない!」

「このままじゃ、あたしらの体力が尽きてしまうわ。エリー、ジュード、大丈夫?」

「『はい』と答えたいですが、今はそういう状況じゃないですね」

「結構、ヤバいかも」

 肩を大きく動かしながら、息をするレイン達。フードの集団が彼らを囲んだ。

「ほぉー。完全に倒せると思ったが、そうとはいかないか」

 別の青フードの男が、異常かつ不気味すぎるぐらい、口角を上げながら、呟いた。

「お前達は、何者だ? なぜ、彼女を狙う?」

「我々は、使。この女は、を知る者だ」

 質問に答えているような、答えないような返事をする青フードの男。

聖石ルリックの聖女のお導きを」

「「「「聖石ルリックの聖女のお導きを」」」」

 まるで、カルト宗教のような言動をする彼ら。彼らの人間らしさのない表情との組み合わせで寒気が強くなる。

「な、なんだ、こいつらは?」

「おい! 急げ!」

 レイン達の背後から、男性の声と複数の走る音が聞こえた。

「……運も優れているな。四大騎士家の血を継ぐ者よ。が、いつか命日が来るだろう」

 と、青フードの男は、仲間と一緒に砂のように、姿を消した。

「おい! 君達! なにをしているのだ?」

 現れた集団の正体は、騎士シュバリエだ。

「スーツ姿の彼女が、フードの集団に襲われていたので、助けたのです」

「えぇ? 誰もいないが」

「はぁ? あんた、なにを言って――」

「い、いませんよ。カリーヌさん」

 レイン達が振り向くと、いたはずの女性が消えていた。

「それにしても、どうして分かったのですか? ダーリンらは、通報していないのに」

「たまたま、巡回していたら、争っている声が聞こえたからだ」

 中央にいた黒髪の男性騎士シュバリエが仁王立ちした。

「君達、不法侵入だよね? 見る限り、

 眼鏡で細身の男性騎士シュバリエが嘲笑しながら、言った。

「で、ですから! 僕達は――」

 黒髪の男性騎士シュバリエが藪から棒にレインの頬を殴った。

「ちょっと! あたしの愛しい人に手をあげるとは、許さないわ!」

「黙れ! 学園長と担任に報告させてもらう! 退学を覚悟しておくんだな!」

「待たんか、貴様ら。彼らは、《犯罪者》を追っていたのだ」

 騎士シュバリエの背後から中年男性の野太い声が聞こえた。レイン達が、奥を見ると、オレンジのリーゼントと瞳をした騎士シュバリエだ。胸に騎士庁のマークの中央にローマ数字の一と刻まれたバッチを付けていた。

「金村分隊長! お疲れ様です!」

 騎士シュバリエが一斉に敬礼をした。

「ワシは、三人の万引き犯を追っていたな。一斉には逮捕出来ないから、偶然、通りかかった彼らに協力をお願いした」

「え? 私達は――」

「そうです。僕らは、彼女達と犯人二人を追っていたのです。分隊長、貴方が追っていた犯人は?」

 レインは、金村のに合わせた。

「あぁ、五分前に確保した。今、ワシの部下が犯人を騎士庁に送っている。そっちは?」

「すみません。見失いました」

「頭を下げるなら、ワシも協力する。アーサーの出入り口は、騎士シュバリエが見張っているから」

「ありがとうございます」

「すまんな、お前ら。あとはワシに任せろ」

「で、ですが、彼らは不法―-」

「聞こえなかったか? あんまり、口答えすると、上に報告して、相応の処分を下してもらうことになるが? 貴様が生徒に手を出した件も含めてな」

 金村が殺気の籠った声で威圧すると、黒髪の男性の騎士シュバリエは、『ひっ!』と悲鳴を上げた。

「わ、分かりました。お前ら、引き上げるぞ」

 彼は、眼鏡で細身の男性騎士シュバリエ達を連れて、工場をあとにした。

 彼らの姿が見えなくなったの確認した金村は、顔を空に向けて、ため息をした。

「最近の連中は、どうなっとるんだ? 正義としての自覚はあるのか?」

「金村分隊長。初対面ですが、助けてくれてありがとうございます」

 ジュードがエリーの肩を貸しながら、金村に頭を下げる。

「あぁ、構わんよ。こんな展開になるのは、博が予想していたからな」

「え? 変質者が?」

 カリーヌがキョトンと首を傾げる。金村が、口角を上げて、後ろを振り向く。すると、博が立っていた。

「よっ! さっきぶりだな。……お? 財閥プラチナのトップ様が、大けがするとは。ハハハハ!」

「こいつ……殺す!」

 ククリナイフを持つカリーヌの手の握力が強くなっていく。

「よせ、やめんか」

「さぁ、金村のおっさんと【トロント】に戻ろうか。が入ったからな」








 

 

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