Arthur14 面会

 学園を出て、誠についていくレイン達。気がつくと、騎士シュバリエが帰り道に指定していない場所だ。

「おい、大丈夫なのか? 誠」

「あ、安心してください。み、みみ、右を見てください」

 レイン達は誠が指差した先を見る。そこには、数人の騎士シュバリエが会話をしていた。

「本部から通達だ。例の指名手配犯、逮捕されたそうだ。道路の規制は終了だ」

「分かりました。特に住民は安心しているでしょう」

「だが、財閥プラチナ上流ゴールドを狙う下流ブロンズ平民ペーパーの人間がいるからな。トラブルが起きないように、監視をしろとの命令だ」

「分かりました」

 誠の言葉通りの状況に、レイン達を開いた口が塞がらなかった。

「君の兄は、何者だ?」

「く、詳しい事は、着いてからです」

 レイン達は、騎士シュバリエに見つかる前に、目的地へと向かう。


                ◇◇◇


「つ、着きましたよ」

 誠に案内され、到着した喫茶店【トロント】は、昭和の匂いがある二階建て。年季の入った瓦の屋根に、ところどころシミがあるコンクリートの壁に、違和感のあるサインポール。カーテンで中は見えないが、ガラスに【喫茶店トロント】と茶色の文字が書かれている。いい意味では歴史を感じるが、悪い意味では、時代遅れである。

 誠が店の入口になっている青りんご色の扉を開ける。

「で、では、ど、ど、どうぞ」

 レイン達は、昭和にタイムスリップするかのように、店内に入った。


                ◇◇◇


「ここが、君の家か」

「なんか、別世界に来たみたいだよ」

 店内を見て、キョロキョロと見渡すレイン達。壁には、鳩時計に絵画。茶色のシミが入ったカウンターにテーブル。右側にある赤茶色の棚の中には、名曲であるリンゴの唄が流している蓄音機がある。

「に、兄さん、連れて来たよ」

 彼が、奥のテーブル席のソファーで寝ている男子を起こす。茶色のツーブロックに胸元を大きく開けながら、だらしなく、学園の制服を着用していた。

「う、うーん。うわぁー。連れて来たか」

「う、う、うん。レインさん達」

「よし、どれどれ。……ほぉー」

 茶色のツーブロックの男子があくびをしながら起き上がり、レイン達を自分の視界に入れた。すると、面白そうな物を見つけたかのように、にやりと、左の口角を上げた。

「これが、四大騎士家の皆様か」

 そう言いながら、立ち上がり、レインに近寄る。

「どれどれ」

 茶色のツーブロックの男子は、藪から棒にレインのシャツを捲りあげた。レインの腹筋と胸筋を左手で触り始める。

「おい! なにをする!?」

「さすが、財閥の頂点に立つレイン・アルフォード様。無駄な脂肪が無く、綺麗に均等に割れているシックスパック。それに、女が蜜に引き寄せられるアリのように、触りたくなる分厚い胸の筋肉。それに」

「がっ!」

 彼は、「フフフ」と笑って、レインの股間を触り始めた。

「うぉー。だいぶデカいな。これで、カリーヌさんを満足させているのだろ。……うん?」

「ぐ! 放せ!」

 レインは、強引に引き離すと、彼の顔面を殴る。茶のツーブロックの男子は、避けると、悪寒が走るような不気味な笑顔で、自分の左手を嗅いだ。目を瞑りながら、「あぁー」と口を少し開け、気持ちよさそうにしていた。

「き、気持ち悪い!」

「だ、ダーリン。守ってね」

「も、もちろんですよ」

 カリーヌとエリーは、眉間にシワを作りながら、顔を青ざめた。

「ちょっと、兄さん! い、いい加減止めてよ!」

「お前は、心配性だな。性犯罪者にはならないから安心しろ。何度も言わすな」

「ご、ご、ごごごごご、ごめんなさい! 僕の兄さん、イケメンと美女の体を触るのが好きなのです! ほ、本当にすみません!」

 誠は、レイン達に涙目になりながら、何度も、頭を下げた。

「……君の兄、刑務所に入らないように願うよ」

「ロボットみたいになるなよ、レイン。お前、例の殺人事件の情報が欲しいのだろ?」

「君が、誠の兄か?」

「あぁ、桐田博だ。下流ブロンズで、【データベース】と活動している。よろしく」

「あ、あなたですか!?」

 ジュードが、体を少し前に傾け、目を大きくさせた。

「知っているの? ダーリン」

「はい。大企業のサーバーデータのような情報量を持つ人間だと聞いています。噂によれば、裏社会の組織にも繋がっているらしいですが」

「ばりばり、黒に染まっているじゃない」

「俺は、。犯罪行為は、しない。だって、騎士シュバリエになりたいからな」

「否定はしないのだな」

「おっと! やってしまったな! ハハハ!」

「……兄さん」

 レインは、天井を見ながら高笑いしている博にため息を吐いた。

「まぁ、立ちながら話をするのは、あれだから、どうぞ」

 レイン達は、博が指差したテーブルの席に座った。

「さて、改めて紹介するが、俺の名は桐田博。情報屋【データベース】として活動している」

 と、床にある白のパソコンを取り出し、テーブルに置いた。起動し、カメラのようなアイコンをクリックすると、数多の映像が表示される。

「こ、これは」

「見た感じ、画面が五十ぐらいあるよ!」

「俺は、学園都市に五百以上の隠しカメラを設置して監視させてもらっている。騎士庁と政府が人生を百回分働いても返せないほどの額を出資して、造っているからな。犯罪行為が起きるリスクは高い。これぐらいはしないとな」

「逆に言い換えれば、情報屋としても利益がある」

 レインの指摘に、博は指を鳴らす。

「その通り! さすが、四大騎士家の血を引いているだけある」

「利益があるなら、学生を辞めたら? 犯罪者さん」

 目を細めながら、軽蔑するカリーヌ。博は、無視して続ける。

「さて、あんまり情報屋としての商売を喋るのは、ここまでだ。本題に移ろう。首を裂かれて、死んでいる連続殺人事件についてだな」

「あぁ、手がかりはあるのか?」

「まぁ、結論が言えば、がな」

 と、博はパソコンを操作して、とある画面を見せる。

「こ、これは?」

「先月の終わりごろの午後八時。平民ペーパー寮の付近にあるアパートの入口の映像だ」

「れ、レイン! この人って」

 そこに映し出されたのは、歩いている雑貨屋の裏路地で死んでいた男性だ。

「あぁ、第一被害者だ。こいつを調べてみた。奴は、奥山健吾。コンビニでアルバイトをしている三十五の男。分かっている情報はこれぐらいだ。で、この先だが」

 映像を続けて見ると、奥山という男の後ろに、何者かが現れた。その人物は、栗色の髪で青い色の瞳をした美青年。レインとジュードと互角の美しさだ。

「うわー。すごい、イケメンだぁー」

「でも、レインのほうが上だけどね」

 カリーヌは、満面の笑みでレインの右腕に抱きついた。

「で、この青年と奥山が会話しているのが分かるか?」

「あぁ、あんまり友好的には見えないな」

 画面の映像には、女性を魅了しそうな笑顔をしながら喋る青年。奥山は冷や汗を掻きながら、首を横に振った。青年が、彼に手のひらを見せながら、左手を伸ばした。奥山は、目を三角にし、唾を吐きながら喋った。自分の部屋に入り、乱暴にドアを閉めた。

 青年は、をしながら、どこかへと消えた。

「で、他の被害者も」

 と、複数の別の映像を見せる博。どれも、同じパターンだ。

「いったい、なにを話していたのかしら?」

「殺人の瞬間は、映っていないのですか? それなら、証拠に」

「残念だが、

「どういう事だ?」

「被害者が死んだ場所にも監視カメラは設置しているが、砂嵐で見えなかった。あとで、誠に確認させたが、故障はしていなかった。普通はありえないけどな」

「うーん。ますます、分からないですね」

 ジュードは、左の人差し指をこめかみに添えながら、目を瞑った。

「で、栗色髪の青年は何者だ?」

「知り合いの人間にも協力してもらったが、不明のままだ。だが、この野郎が関係しているのは、間違いないと考えてもいいだろう」

「仮に彼が殺害したとして、被害者に接触した理由はなんだ? 最終的に命を奪うしかない状況になった動機は?」

「それが分かれば、赤子の手を捻るよりも簡単に騎士庁が解決している。俺と会う必要もないだろう」

 と、博は、通常の監視カメラ映像に戻した。

「そうだな」

「に、兄さん!」

 誠が、大声で叫んだ。

「どうした? 誠。……おっと、レインさんよ、助けたほうが良さそうだぜ」

 博が、右から二列目で下から四番目の映像をクリックし、拡大した。そこは、どこかの工場の敷地内と思われる場所。黒のポニテ―ルに茶色のスーツを着た三十代の女性が、武器を持った数人のフード姿の者に囲まれていた。

「ま、まずい! 場所は!?」

「長島製作所だ。北へ走って五分程度で着く。菱形の中に長島と書かれたマークのある門が特徴だ。急いだほうがいいぜ。気持ち悪い笑顔をした野郎の情報がないか、調べていくからな」

「あぁ、頼む! 急ぐぞ!」

「「「おぉ!」」」

「おい! 荷物、忘れているぞ」

「後回しよ! 変質者!」

 レイン達は、武器を持って立ち上がり、店の外に出た。










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