神様日記

@iruyamasika

人間は本能の奴隷である

とある星の海にとても小さな精密機械が投げ入れられた。その機械はやがて一つの生命と呼べるほどにまで成長した。




 「第109星観察記


 海に投げ入れた命は無事に成長を続けている。前回の実験から少しばかり命を小さく設定したので、109星の過酷な環境に適応できるのか不安であったが、小さな命ながらも必死に命をつないでいる。」




 私は、I。第109星の観察を行っている。


109星の観察を始めて今日で一週間がたったが、まだ大きな変化を見ることはできていない。前回の実験ではたった一カ月で生命が星を埋め尽くしていたが、第109星の生命がその段階にまで進化するには、かなりの時間が必要なようだ。




 研究所を出ると、太陽は高く、ちょうどお昼時であった。研究所の周りはとても静かで林檎の木が風に揺れる音だけが聞こえてくる。


 


 私たちは、アースという星に住んでいる。この星は、他の星と比べるとかなり大きい。しかし、この星には人間以外の動物は存在しておらず、人間の数も非常に少ない。


 この星に住む人は、高い山々に囲まれた小さな村に集まって暮らしている。村に住む人の数は少しずつ減ってきており、かつては千人近くいた村人も、今では三百人ほどにまで減ってしまった。


 村人が少なくなるにつれて村は静かになってゆき、かつては多くの研究者によってにぎわっていたこの研究所も、私の他に訪れる人はいなくなってしまった。


 


第108星の実験が失敗に終わり一年がった。数々の実験の失敗により、誰も実験の成功を信じなくなってしまった。私も、第109星の生命が、私たちの望む進化を遂げてくれるとは思えない。今書いているこの観察記も、きっと読んでくれる人はいないだろう。


 誰にも読んでもらえないものを書くのは寂しいものだ。もう、観察なんてやめてしまおうかと思うこともある。だが、他にやることもない。気長に実験を続けることにしよう。


 いつか、この観察記を読む人がいたら、第109星の生命の進化を適当に書いてしまうことを謝っておこう。




 「第109星観察記


 実験を始めてから一カ月がたった。生命を海に投げ入れたときよりも、109星の気候は安定してきており、日々起こっていた噴火や地震の頻度も低くなってきている。生命の数もそれなりに増え、かつては深海の一部にしか生息していなかった生命たちも、今ではいたるところで見つけることができる。この段階にまで進化をすればもう絶滅する恐れは少ないだろう。


 だが、まだ生命の姿に大きな変化は見られない。単純な構造を持った生命のみで一つ一つの生命の体も小さいままである。


 まだ安定してエネルギーを取り出せるようにはなっていないために体を大きくすることができないのだろう。」


 


 実験を始めてから、三カ月は大した変化を見ることができなかった。昼には実験を終え、林檎を食べながら帰るだけの日々が続いた。




 第1星の生命も、一切進化をすることはなかった。


 私たちがこの実験で初めて生み出した生命には、生命活動を維持するための最低限の欲求を与えた。この生命は、第1星を構成している鉱石からエネルギーを吸収することにより、命をつないでいた。


 エネルギーが少なくなると動き出し、近くの鉱石からエネルギーを吸収する。ある程度までエネルギーを蓄えると動かなくなり、エネルギーが減ってくるとまた動き出す。


 第1星に含まれるエネルギーの総量はこの生命にとっては無限ともいえる程で、食糧不足により問題が起こるということはない。第1星の生命は毎日同じ作業を繰り返すばかりであり、実験を始めてから一年が経っても変化を見せることはなかった。




 第1星の実験は失敗に終わってしまったが、あの頃の私たちは、誰しもが実験の成功を信じていた。


 どのような星に、どのような命を持った生命を誕生させたら進化をしてくれるのだろうか。そして、その進化の先にはいったいどんな生命が現れるのだろうか。


 そんなことを話しながら歩く帰り道は楽しかった。




 「第109星観察記


 今日は非常に大きな進化を見ることができた。実験開始から半年がたち、ようやくエネルギーを効率よく吸収できるようになったようで、昨日の昼よりも体の大きさは、十倍以上にまで成長していた。」




 第1星で実験を始めてから、いったいどのくらいの時間が経ったのだろうか。何百、何千年という時間が経った今でも、きっと第1星の生命はあの日と変わらない姿のまま命をつなぎ続けているのだろう。




 生命活動を維持するだけでは、一向に進化することがないと考えた私たちは、2つ目の星で実験を始めることを決めた。


 第2星には、より多くのエネルギーを吸収するようにプログラムされた命を投げ入れた


 第2星の実験では、確かに前回の実験よりも優れた生命が誕生した。


 


第1星の生命と同じように、星の鉱石をエネルギー源とする第2星の生命は、周囲の鉱石からエネルギーを取り込みどんどん大きくなっていった。一度により多くのエネルギーを吸収できるようにと、口は日に日に大きくなっていった。


 鉱石を丸ごと飲み込むようになった生命は、地表の鉱石をほとんど飲み込み、それでもエネルギーを求め続けた生命は、地中の鉱石を求め地面を食べ始めるようになってしまった。


 実験を始めてから二年が経ったある日、第2星の五分の一ほどを取り込んだ生命は、自らの重さを支えることができなくなり、動けなくなってしまった。




 私たちは話し合った。


 多くを求めない生命はほとんど動かなくなってしまい、かといって多くを望みすぎると星のエネルギーを取りつくしてしまう。エネルギーを取りすぎることなく進化をさせるためにはいったいどんな欲求を与えればいいのだろうか。




 エネルギーにあふれ、安全すぎる星では、生命は一切努力をしないのではないかという意見により選ばれたのが第3星である。


 第3星はさまざまな種類の鉱石によって構成されている。日光に照らされるとそれぞれの鉱石が異なる色の光を反射し、宇宙から見るこの星は虹色に輝いている。


 この星に投げ入れる生命には、何種類もある鉱石の中でたった一種類の鉱石からしかエネルギーを得ることができないように設定した。


 鉱石自体にエネルギーがないというわけではない。この星の鉱石はどれも高純度のエネルギーを秘めている。この鉱石一つあれば非常に長い間生命活動を維持することができる。そんな鉱石で満ちる星の中で特に輝く鉱石がある。第3星の生命は、この鉱石からしかエネルギーを吸収できないように設定した。


 様々な鉱石により構成される第3星の中で生命が吸収できる鉱石はほんの少しずつしか分布していない。また、第3星は今までの星とは異なり、非常に険しい山々に覆われていた。そのため、第3星の生命がエネルギーを得るためには、この険しい山々を乗り越え鉱石にまでたどり着く必要があった。


 第3星は、生命にとって過酷な環境であり、一つの山を越えるだけでも、かなりの時間が必要だった。一つの鉱石にたどり着くだけでも苦労していたら、いつか鉱石にたどりつくことができずに死んでしまうのではないかと不安に思うこともあった。


 しかし、生命は山を越えるごとに山の上り方を身に着け、山を越える時間はどんどんと短くなっていった。体も徐々に変化し、この星の環境に適したものになっていった。


 エネルギーを効率よく吸収できるようになるにつれて、生命の進化も加速していった。


  


 第2星と第3星の実験により、大きな欲求を持つほど、過酷な環境に生まれるほど生命が進化することが分かった。


 それから、私たちはさまざまな星にさまざまな欲求を持った生命を誕生させた。第4星には寒暖差の激しい星を選び、その過酷な環境に適応できる生命を誕生させた。第5星にはエネルギーの少ない星を選び、第6星には激しい風が絶えず吹き続ける星を選んだ。


 それぞれの星で生まれた生命たちはそれぞれの環境の中で、少しでも命を未来へつなげるために体を変化させていった。




 「第109星観察記


 実験開始から百九十日目。海の中は、何万種類もの生命であふれていた。それぞれの生命が環境に適応するために様々な進化を遂げていた。中には109星の過酷な環境に耐えることができずに滅んでしまった種もいた。しかし、絶滅してしまう種類よりも、新に誕生してくる種類の方がはるかに多く、生物たちの種類は増えていく一方であった。


 一日の終わりには、他の生命を捕食することによりエネルギーを得る生命も現れた。


 この星での生命がどのように進化していくのか不安であったが、もしかしたら私たちの望む進化を遂げてくれるのかもしれない。」




 第109星の生命の進化は非常に面白く、研究所を出るころには、外はすっかり暗くなっていた。


 暗闇の中を歩くのはいつ以来だろうか。


 研究所から家に帰る途中、丘の上から聞きなれた口笛が聞こえてきた。友人であるYがよく私に聞かせてくれた曲であった。


 Yがあまりにも気持ちよさそうに口笛を吹いていたので、私は思わず足を止めて聞きいってしまった。しばらく口笛を聞いていると、私に気付いたYが私を呼んだ。


 「おぉい。こっちに来いよ。」


 私は、丘の上で手を振るYのところまで歩いて行った。


 「やぁ、I。実験終わりかい。」


 「あぁ、そうだよ。Yはまたここで寝ていたのかい。」


 そう聞くと、Yは笑った。


 「今日はいい風が吹いていたよ。」


 最近Yは毎日、この場所で空を見上げている。


 かつてはYも私と同じように実験に参加していた。Yはとても優れた研究者であり、Yが命を与えた生命はどれも、優れた進化を遂げていた。Yが最後に担当した108星での生命の進化は特に素晴らしく、言葉を扱う生命が現れた。


その生命たちは音楽という文化を生み出したという。Yがよく口ずさんでいるこの曲は、観察のために星へ降り立った時、彼らから聞いた歌なのだそうだ。


 「君はまだあんな実験を続けているのかい。どうせ、どんな星で実験をやっても、私たちの望むような生命は誕生しないよ。だからそんな実験はもうやめて一緒に夜空でも眺めていようよ。狭い実験室で星を観察しているよりも、よっぽどきれいな星を見ることができるよ。」


 空を見上げると、確かに無数の星が輝いていた。


 この広い宇宙にはきっと、命を宿している星が何千、何万と存在しているのだろう。その中には、私たちの実験によって作り出された生命も含まれている。それらの生命は一日として欠かすことなく命をつなぎ続けているのだろう。


 


いったい何のために命をつないでいるのだろうか。


 


その問いだけが、私の体を覆いつくしている。


 この空に輝く星たちは、暗く染まった私の未来に光を指す希望になってくれるのだろうか。




 「第109星観察記


 実験開始から二百三十日目。生命の捕食関係は日に日に激しいものになっている。捕食される側の生命は、捕食者から逃げ、実を守れるように、捕食する側はより多くの獲物を捕食できるように進化を遂げている。この捕食関係も生命を進化させるための重要な要因となっているのだろう。


 限りあるエネルギーを得るために、争いながら、協力をしながら必死に命をつないでいる。


 今日は陸上にまで生活圏を広げる生命が現れた。陸上は海よりも温度が変わりやすく隕石や火山、地震の影響を受けやすい。実験を始めたころの生命には決して耐えられることのない環境である。


 しかし、この星の生命は絶え間のない進化により過酷な環境でも生活できるようになった。


 親から子へ、子から孫へと命をつなぐ中で、少しずつ形を変えてゆきこの段階までやってきた。ここまで進化するために、どれだけ命がつながれてきたのだろうか。決して満ちることのない欲求もたくさん生まれてきた。


 食料を手に入れられなかったもの、災害に巻き込まれたもの、捕食されたもの、病に侵されたもの。


 命をつなぐには、あまりにも過酷な環境の中で、生命は必死に命をつなぎ続けている。」


 


命の流れは非常に激しく、とても美しかった。




生命がここまで進化をするようになったのは、生命に避けられない終わりを与えたからだろう。


第108星。生命に終わりが来るように設定された命を投げ入れた星でありYが最後に観察をした星であった。


 


 私たちは今まで様々な星で実験をおこなってきた。それぞれの星で命をつなぐために、様々な生命が現れた。新たな欲求を与える程に、生命は進化していった。


 しかし、どの生命も最初は順調に進化を遂げていたのだが、環境に適応し問題なく生きていけるほどに進化をすすめると、それ以降進化することがなくなってしまう。


 一つの星に複数の生命を誕生させたりもした。一種類の生命のみを誕生させたときと比べると、はるかに優れた進化を遂げたが、やはり最後には変化をしなくなってしまった。


 私たちが考えられる欲求をすべて与えた107星での実験も失敗に終わり、もう実験を続けることができないのかと思われた。そんなときにYが生命に終わりを与えることを提案したのだ。




 命をつなぐことを望むように設定した生命に避けることのできない終わりを与えるということはとても残酷なことだと思った。たとえ、新たな「生」に命を託す才能を持っていたとしても、一つの生命に終わりがくることはとてもつらいことだろう。


 いつか生命は死を恐れ、命をつなぐことをやめてしまうのではないかと心配していたが、108星の生命たちは、生命の終わりなど一切気にもとめず、未来を求めて命をつなぎ続けた。


 


 私たちには寿命というものがない。


 生きようと思えばいくらでも生き続けることができる。


 私たちの星には隕石がふってくることも地震が起こることもない。私たちの村にはえる林檎の木は、私たちが食べきれないほどの林檎を作る。そのため、食糧がつきてしまうこともない。


 私たちは何の不自由もなく毎日を過ごしてきた。いつからこの日々が続いているのかを詳しく覚えてはいないが、何万年も昔から同じこと続けていたような気がする。


 こんな平和な世界で、何の問題もないように思われる私たちにも、十万年ほど前から一つの大きな問題を抱えていた。


 命をつなぐことに何の問題もないこの星で死人が出たのである。死因は飢えによるものであった。


 私たちの星に住む誰もが、ご飯を食べなければお腹が空くし、夜になれば眠くなる。かつては、どこでもご飯を食べることができて、好きな時に眠ることができるこの星で、この食欲と睡眠欲にあらがおうとするものは、一人としていなかった。


 命をつなぐ意味を明確に持っていたわけではないが、だからといって、自らの命を絶つことなど、誰も考えなかった。


 そうやって、ただ食べることと、眠ることを繰り返すだけの日々の中で、人々の中にある疑問が生れた。


 「私たちは、いったいなんのために命をつないでいるのだろうか。」


 という問いである。


 毎日食事と睡眠をとり、次の一日へと命をつないできた。その日々にはいったいどんな意味があったのだろうか。そうやって命をつないだ先にはなにが待っていてくれるのだろうか。


 そういった思いが、少しずつだが着々と広がっていった。


 一定の間隔でやってくる食欲と睡眠欲。


 未知なる死への恐怖。


 そしてなぜか心のうちから湧いてくる未来への期待。


 そういった根拠のない生への執着により、私は疑問を抱きつつも、命をつなぐことをやめなかった。


 しかし、星の住民の中には、「同じことを繰り返すばかりの日々に、何の意味もない。」と考えるものもいて、とうとう、自ら命を終わらせるものも現れてしまった。


 何も変わらない私たちの日々の中で、疑問は大きくなるばかりであった。


 このままでは、命をたつものの数が増え、やがて私たちは滅んでしまうのではないか。


 そんな恐怖を抱いた私たちはどうにかして、命をつなぐ意味を見つけだそうと思うようになった。


 


 「第109星観察記


 実験を始めてから、三百日目の夜。第109星にも言葉を発する生命が現れた。まだ複雑な言葉を使うことはできないが、意思を正確に伝えられるようになったことで、複雑な作戦により、自分たちよりはるかに大きな獲物を狩猟することができていた。知恵や知識を後世に伝えることができるようになったことで、技術は飛躍的に進歩していった。


 言葉を扱う生命が現れたのだ。もうすぐ、生命は意味を問うようになるだろう。明日にでも、109星に降り立ってみようと思う。」




 実験からの帰り道、丘の上で空を眺めるYを見つけた。いつもは元気に話しかけてくれていたが、今日は少し悲しそうな顔をしていた。


 


 第108星の生命は、誕生から二カ月もたたないうちに、言葉を扱う生命が誕生した。その生命の進化はほかの生命とはくらべものならなかった。その生命は技術の発展に伴い数を急激に増やし、第108星を埋め尽くした。


 生を強く望むように設定しすぎてしまったからなのだろうか。


 その生命は、限りある土地と資源を求め争い続けた。進化を促すために与えたいくつもの欲求が争いを激しくさせていき、言葉はなす生命の誕生から二日目の夜、第108星から生命はいなくなった。


 第108星の調査から帰ってきたYはとても疲れていた。


 


 その日からYは丘の上で空を眺めるようになった。あの日からもう二年が経とうとしているが、今日も変わらず空を眺めていたのだろう。


 


 なぜ悲しい顔をしているのか聞くと、今日も村人が一人自ら命を絶ったことを教えてくれた。


 私が実験を行っているこのときも、村人の心の中には、闇が広がり続けているのだろう。


 第109星の生命への期待と願いはとても大きなものになっていた。今はただ109星の生命に祈るしかない。




 実験開始から三百一日目の朝。第109星に降り立つと、非常に高度な文明が築かれていた。優れた知能を持った生命の発展は想像していたよりもはるかにはやく、第109星は昨日までとは全く違った姿をしていた。


第109星は知能を持った生命であふれていた。


 


第109星の一日はとても短く、あっという間に夜が来てしまった。


 この星の夜はよく冷える。今は恒星との関係から、かなり寒くなる季節であるようで、夜になると水か凍ってしまうほどに気温が下がってしまう。


 この寒い夜を乗り切るために、知能をもつ生命が集まって暮らしている場所にやってきた。そこには、空にもとどきそうなほどの建物がいくつも立ち並んでいた。


 今日は雲一つない空であったが、ここから見上げる空はとても狭く、星の光もかすかにしか見えなかった。


 


 街を歩いていて気付いたことなのだが、この星には宗教というものがあり、神という存在を信仰する文化があるようである。


 優れた技術により、他の生命を淘汰して、なにからも恐れなくてもよいほどの力を手に入れたように見えるこの生命にも怖いものがあり、その恐怖から逃れるために、神というものにすがるようである。


 中には生命を作った存在を神としてあがめるものあり、非常に興味深い。


 わたしは、宗教を信仰するためにたてられた教会という場所に入ってみることにした。


 教会の中では多くの人が熱心に神に祈りをささげていた。その中で誰よりも必死に祈りをささげる少女がいた。祈りをささげる時間が終わり、教会にいたほとんどの人が帰ってもその子はその場で祈り続けていた。


 「なぜ君はそんなに、真剣にお祈りをしているんだい。」


 私が聞くと彼女は、重い病気にかかり、医者からは、もう長くは生きることができないと伝えられたことを教えてくれた。


 「私は、ずっと祈り続けてきたけど、神様には届かなかったみたい。」


 彼女は、死にたくないと、神様は意地悪なんだと泣きそうになりながら、それでも笑いながら教えてくれた。


 死への恐怖も、彼女が患っている病でさえ、生命を進化させるための重要な役割を担っている。


 きっとこの星の生命はさまざまな恐怖を抱いているのだろう。生命が多様化すればするほど、病の数も増え、生存競争も過酷なものとなっていく。こんな過酷な環境の中で生きていくためには、架空の存在にすがるほかないのかもしれない。


 


 「第109星観察記


 第109星に降り立ち、様々な場所に訪れると、人間同士の争いが各地で起きていた。争う理由はいくつかあるようで。食料問題や領土問題。中には宗教のために争いが起こることもあるようだ。


 争いの規模はそれぞれ違っていたが、この星で起こる争いは、研究室から観察していたころの争いとは比べものにならないほど激しいものとなっていた。


 このまま、109星の生命が進化し、争いがより激しいものになっていけば、いずれ108星で起きたような争いが起きてしまうのではないか心配になる。


 各地で起こる争いの成果、第109星に住む生命の種類は徐々に減ってきている。


 やはり生命は、第108星に誕生した生命よりも進化することはできないのだろうか。




 私は、第109星の観察を続けながら、教会で出会った少女が入院している病院に通うようにしていた。


 彼女がこの世界をどのように思っているのか知りたかった。


 彼女はもう、三カ月も生きることができそうになかった。


 三カ月では命を未来につなぐことができない。彼女の命は、ここでとぎれてしまう。


 避けられない命の終わりを目の前にして、彼女は何を思うのだろうか。




 月日は流れ、彼女の住む街は少しずつ暖かくなり桜も咲き始めた。


 何度も病院に通ううちに、彼女は少しずつ元気に笑うようになった。彼女の体調がいい日には、桜を見に出かけたりもした。


 彼女と過ごす日々はとても楽しいもので、この日々が永遠に続くような気がしていた。


 しかし、この星の三カ月はとても短いもので、彼女の命日はあっという間にやってきた。


 


 いつものように病院へ行くと、彼女はいつもよりも苦しそうにベッドに横になっていた。


 今日はとても寒く、昼から季節外れの雪が降り続いていた。


 彼女にはもう会えなくなってしまう。


 「私はもう、生きることができないみたい。」


 彼女は苦しみの中、私に笑顔を見せてくれた。


 「ごめん。」


 私が謝ると、彼女は笑った。


 「なんで君が謝るのさ。もしかして、君は神様なの。」


 私はうつむいたままだった。


 「残念だったな。もっとおいしいものを食べたかったな。いろんな場所にも行って、いろんなものを見たかったな。もうちょっと生きることができたら、君と結婚したいって思っていたんだよ。結婚して、子供が生まれて、きっとつらいこともたくさんあると思うけど、みんなで力を合わせて乗り越えて。君と結婚したら、絶対に幸せになれるって、ずっと思ってたんだよ。でも、もうその願い叶わないんだね。」


 私は彼女を抱きしめた。抱きしめることしかできなかった。


 「私のそばにいてくれてありがとね。かなわなかった夢もたくさんあるけど、君がいてくれたから、とても楽しい人生を送れたよ。


 やっぱり君は神様なんだよ。私に生きる意味を教えてくれたから。だから君は私の神様なんだよ。


 こんなに素晴らしい世界を作ってくれてどうもありがとう。」


 私を抱きしめる彼女の体は、とてもあたたかかった。




 さっきまで雪を降らせていた雲はどこかに行ってしまい、空には星が輝いていた。アースから見た星と比べると、かすかな光であったが、なぜか星の一つ一つが力強く輝いているように見えた。




 そうか。そういうことだったのか。




 私も死ねば、この夜空を輝かせる星になれるというのだろうか。




 病院から見下ろす街には雪が積もっていて、久しぶりの雪にはしゃぐカップルたちと音楽で街はにぎわっていた。


 この世界は、きっと数えられないほどの苦しみや悲しみであふれている。それでも、彼らはこれからも命をつなぎ続けていくのだろう。


 


「第109星観察記


 私たちは今までに、いくつもの星で実験を繰り返し、多くの生命を生み出してきた。しかし、きっと私たちも、その中の一つだったということなのかもしれない。


 私にはできなかったことだが、この世界に生きるすべての生命が、その命を全うしてくれれば幸いである。」


 


 私に生きる意味を教えてくれた皆様の人生が素晴らしいものになることを、この心の底から願っている。





 人間は本能の奴隷であり

  幸せになることを義務付けられた生き物である

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神様日記 @iruyamasika

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る