映画館は何をするところ

 放課後、約束通り映画館に向かうべく、ネットではクレジットカードで購入できても予約はできないということを知らなかった僕らは、ドキドキしながら道のりを急いだ。ネットで購入出来ればよかったのだが、残念なことにふたりともクレジットカードを持っていない。

「これで席埋まってたら許すぁないんだから」

 と、ブツブツ復唱する佐江島を電車の空いた席に座らせて、僕は佐江島の前に立った。

「席取れなかったらさ、一緒にショッピングでもしようよ、ね?」

 できる限り気を逆撫でしないように優しく佐江島に言うと、彼女は珍しく、大人しく頷いた。

「うん、全部奢りで」

 お願いします、映画館様、席空けといてください。思わず吊革から手を離してお願いポーズを取る。そんな僕を待っていたかのように、大きく揺れる電車。僕はバランスを崩して、少女漫画ですらもう出てこないであろう壁ドンシチュエーションに巻き込まれた。驚くのと同時に踊る佐江島。このカオスな現場からそそくさと立ち去る周りの人々。早く降りたい帰りたい。


「急ごう!」

 目的の駅に着くや否や走り出す佐江島に、先程のカオスさは微塵も残っていなかった。この切り替えの速さはとても尊敬している。僕はまだ帰りたい。

 僕らが観たい映画のチケットは無事とることが出来た。ホッと一息ついて、佐江島と僕はポップコーンを買った。二人でひとつ。

 入場開始のアナウンスが流れ、僕らは館内に侵入する。ふたりで並んで座り、僕がポップコーンを抱える。

「楽しみだね」

 珍しく大人しい佐江島の言葉に、ふと隣を見る。薄暗い中、すぐ近くに佐江島の横顔がある。スクリーンの明かりに照らされたその横顔は、なんだかいつもの佐江島よりも少し大人っぽかった。

 遂に映画の幕が上がり、僕も佐江島と揃って前を向く。途中、佐江島の手が僕の持つポップコーンに伸びる。その手だけが頻繁に視界に入り、物語への没頭を阻む。僕はその手も物語の一部だと捉えて楽しむ。

 物語は終盤に差しかかる。気づくと、佐江島の手は視界に映らなくなっていた。手元を見ると、ポップコーンはまだ残っている。不思議に思い、隣を見る。すると、佐江島も僕の方を向いていて、パッチリと目が合った。

「あっ」

 佐江島が声を漏らす。しかし視線は動かさない。僕らはずっと、見つめ合っていた。

 ふたりとも、物語の結末を知ることが出来なかった。


 次第に明るくなると共に、小さな話し声があちこちで飛び交う。どうやら映画が終わったようだ。僕らはまだ見つめ合っている。そして初めて、佐江島の頬が赤らんでいることに気づく。

「あの、映画、終わったね」

 僕はなんとか口を動かして、言葉を発する。

「……うん、終わった、みたいだね」

 僕らは遂に視線を逸らし、各々荷物を持って立ち上がる。

 帰り道、二人の間に映画の感想話どころか、会話すらなかった。しかし、なにかお互いに思うところがあるようで、僕らの沈黙にひとつも気まずいものはなかった。




 遂に佐江島もなにか想いを募らせ始めたのか……?

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