男子校に入学したはずなのに、騎馬戦がハードモードな件

 今回の大惨事の後、当然のことながら『超!早着替え競争!』は中止、委員長が口走った、不穏な空気を漂わせていた『極!早着替え競争!』も中止となった。


 ボーイッシュ先輩がシオリさんと一緒に、体育科教師のリラに連行されていったのには同情を禁じ得ないが、おかげさまで体操服に戻れた。


「服を助けてくれてありがとう。」


 俺は、スプリンクラーに流されそうだった服をキャッチしていてくれたアオイとユウキに前代未聞のお礼を言うことになったが。






「おいカヅキ!お前は出ないだろうが、次の種目はうちらのクラスが勝ちをいただくぜ!」


 そう勝利宣言をしてきたのはカオリだった。


「ケガだけはない様にしろよ。」


 クラスメイト達がこのバケモノと戦うのはいささか不安だが、こう言っておけばこいつも手加減してくれるかもしれない……。


「わ、わかった!押し負けないように全力を尽くすから、応援していてくれよ!」


 だめだこりゃ。今から高ぶっているのか、顔を真っ赤にし、やたら男気溢れるセリフを吐いて待機場所へと向かった。


 俺が女だったらホレてたかもね。いや、あいつは女だから、俺が男だからか?ということは、俺が男だったらホレていた?でも俺は女装中なだけで男であって……。


 これ以上は思考がよくない方向へ堂々巡りしそうだからやめておいた。


「ところで、ウチのクラスに勝算はあるのか?」


 俺がアオイとユウキに聞くと、二人とも顔を見合わせた後、


「得点を偽装すればいけるんじゃないか?」


「そういえば委員長、採点係だったわね……。」


 などと恐ろしいことを言い出す。


「そんなに……。」


「実はな、向こうのクラスにはカオリの他にもう一人強い人がいるんだ。」


「全国の騎馬戦の大会を総なめにしている騎馬のリーダーが来ているの。」


 ここももはや反則枠だろ。ユミコの玉入れじゃねーんだぞ。


「なんでも、触れただけで相手の騎馬が粉々になるとか、囲まれた状況で、力のごり押しだけで突破したとか……。」


 絶対ゴリラみたいな見た目をしているに違いない。ガルルアアァとか鳴いて襲い掛かってくるのだ。


「ほら、いたわカヅキ。あの子。」


 ユウキが指さす先には……身長140センチそこそこの小柄な女の子がいて、友達とはなしながらエヘヘとかわいらしく笑っている。あの子、絶対頭おかしい系ヒロインにはならないんだろうなぁ。


「小動物系かぁ……って、は?あの子?」


「そうよ。世界最強の141センチ、なんて呼ばれているらしいわ。」


「筋肉が強すぎて身長が伸びなかったんだと。」


 ナニソレコワイ……。


 俺はクラスメイトの安全よりも自分が出ずに済んだことに安堵した。


「俺の出番がなくてよかった……。」


「か、カヅキ!?」


「バカ!お前……!」


 なんだ?


「「それ、フラグ!!」」


 し、しまった!


 ポン、肩を叩かれる。誰かのおさげがちらちら見える。


「ちょうどいいところにいたわ、佐藤さん。さっきの洪水で欠員が……。」


 逃げようとしたころには、アオイとユウキに両手を抑えられていた。





「なんでうちらまで一緒に……。」


「俺が逃げるのを邪魔した罰だ。」


「私はいつもお払いしているはずなのに……。」


 結局、騎馬がまるまる一騎足りなかったので俺だけでなくユウキとアオイも駆り出された。


 騎馬戦の騎馬は四人で組むものだが、一人足りないところには対戦相手のクラスにもかかわらず端数になったレイナが来た。


「でも、自分のクラスに全力を出すのも悪いから、今はウチが完全操作モードなんだと。」


 中身はユウリだが。


「というか、本当はルナがやる予定だったんだけど、レーザー髪飾りが流されたとか何とかで探しに行っちゃったんだよ。」


 そりゃもちろん、金星のとんでも科学を地球に放流したら一大事だが。


「いざ……勝負!」


 少し癖のある実況はヒカル先輩だが、そこは無視である。


「やーっ!」


 二クラスの騎馬がぶつかりに行く。先ほどの洪水で絶対数が減っているのでいまいち迫力には欠けるが。


「ハイアハーッ!」


 それはそうと、やはりカオリの騎馬は暴走している。さっきまでかわいらしく笑っていた例の子が、騎馬の他二人とカオリの計四人を抱えて、圧倒的速さで走り回っているのだ。


「ヤイサハーッ!」


 カオリが、源義経の八艘跳びのようにほかの騎馬にとびかかっては吹き飛ばし、自分は着地する前に自分の騎馬の上に戻っている。


「人間技じゃねぇ……。」


 バスケ部として運動神経はいいほうであるアオイも真っ青、そもそも運動が苦手なユウキは完全に及び腰だ。


「いいか、今からあいつらに突進をキメる。カヅキはそのすきに飛んでいるカオリを撃ち落とせ!」


 体が自分の物でないからか、好戦的なユウリはそんなことを言ってくる。


「ちょっ!」


「待てって!」


 俺たちの制止も聞かず走り出すので、ついていかざるを得ない。


 最強の141センチは、それを挑戦と取ったか、同じくこちらに突進してくる。しかも先ほどの小動物系の笑顔で。これはこれでカオリと違った怖さがある。


「ハイヤッ!」


 カオリがジャンプでとびかかってくるので、俺はあいつに唯一勝てる分野である、体重で勝負するべく、衝突の瞬間に力を籠めることにした。


 ドスッ!


「みぎゃぁっ!」


 俺の正面、斜め下で何かが刺さったような音と悲鳴が聞こえ、それとほぼ同時に俺とカオリがぶつかる。


 もともとこれは捨て身の作戦なので、後ろのアオイとユウキが踏ん張り、カオリを騎馬と違う方向に跳ね返す。


 すぐ下では、騎馬が崩壊していた。


「すまんっ。」


 だが、俺もここまでのようだ。カオリを吹き飛ばした時、勢い余って自分の体まで投げ出してしまっていた。


 一緒に宙を舞うカオリだが、これでも一応幼馴染だ。男の俺が守ってやるか。


 宙を舞いながらなので簡単ではないが、カオリの腕をキャッチし、自分の方に抱き寄せてやる。


「あーこりゃ、コルセット壊れるかもな……。」


 そんなことをつぶやきながら俺は頭から華麗に着地した。遠のく意識の中、柔らかい物の感触を感じながら。

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