男子校に入学したはずなのに、夏休みのバイトが○○な件
俺はバイトをすることになった。理由は言わんでも察してくれ。前回を読むと良い。何のラノベだよ。
「ヤッホーカヅキ君。バイト先は見つかったかね?」
相変わらず元気なカオリがあおり口調で聞いてくるが、それに皮肉を返す余裕すらない。高校生にして二万の借金は痛すぎる。しかも一年生で、バイトをしていなかったら返せる金額ではない。
「それよりカヅキ、家訓が大変なんだってな?」
それは、家の中で引きこもって某バイト探しアプリをぽちぽちやっていた俺にとっては、突かれたくないことである。
「佐藤家の家訓その三十!借金の利子は進んでヨイチにするべし!」
うちの妖怪ミンチ……母親が、俺が子供のころから言っていたことだ。そもそも一から二十九はどこに行ったとか、子供になんちゅうこと教えているんだとか聞いてはいけない。
しかも、佐藤家は代々バカばっからしく、いつの間にか四日に一割のヨイチが、一日四割のヤクザもびっくりの高利子になっていた。怖すぎる。
「なあカオリ、金貸しt……。」
「やだよ。返す当てないんだろ?」
「そりゃあそうだけどさ……。」
せめて、幼馴染を少しは助けようという心ぐらいは持っていてほしい。
「おやおや少年、まだ悩んでいるのかね?」
トイレから、急に扉を開けてシオリさんが出てきた。この人ならかなり稼いでいるんじゃないだろうか。
「言っておくけど、お金は貸せないよ。田中家家訓その十五だね。」
今は家訓ブームなのか。というより、家訓にブームなんてあるものなのだろうか。
「でも、ちょうど日払い高時給のバイトの人探しを頼まれていたんだよ。君なら適任だと思うんだ。どうだい?やるかい?」
このニマニマ笑い。なんともいやらしいうえに、身の危険を感じる。
「大丈夫。最初は慣れないかもしれないが慣れれば割り切れるようになるよ……。」
だめな奴だ!これ絶対引き受けちゃダメな奴だ!でもお金になるなら……。
そこまで考えて頭をブンブン横に振る。
バキッ!
首が変な音を立てて戻らなくなったので、体の向きだけ回して、シオリさんの方を向く。
「大丈夫、違法な奴とかじゃないからさ。君がやったらどうかわからないけど。」
どういうことだろう。不安しかない。
「とにかく。この時間にこの場所に行ってみな。あ、女装は必須だよ。」
相変わらずテレビにでも出て来そうなかっこいいしぐさでメモを放ってきた。というかこれ、この仕事を俺が引き受けるって最初から確信していただろ。
「いらっしゃいませ、お嬢様!」
ほらねやっぱり。あの人があの笑みで渡してくる仕事なんてロクなのないって知ってたのに!ていうか、女装が必須って時点で気が付けよ!
怖くて下調べすらしなかった一時間前の自分を呪う。この期に及んで女子と仕事とか、勘弁してほしい。いつものメンツならともかく、見知らぬ女の人とか無理だ。さすがにもう勘違いはしない。この人たちは間違いなく女性だ。
「す、すいません間違えました。」
「あ、もしかして、シオリさんの紹介の方ですか?」
なん……だと……ッ!?
「合言葉が『すいません間違えました』なんて、変わっているよねあの人も!それはそうと、オーナーはこっちよ!」
すべてを読まれていたのか……。観念して、死んだ目でカウンターの奥へと案内される。中は、漫画などで登場人物がバイトしているところよりも、ずっと狭い感じがした。
「む、君が新人くんかね?」
背を向けたままの紫髪を長く伸ばした女性が振り返らずに言ってきた。ユミコみたいな人だな。
「おお、娘と知り合いなのか!これは話が早くて助かる!」
お母様でしたかー。これはこれは。いつもオタクの愚ムスメをお世話しています。
「なかなかに肝の座った婚約者だな。ええ?」
マジすんませんでした。
「いや、あれとはそういうのじゃ……。」
「照れ隠しはいいっていいって。」
というか、ユミコのご両親は除霊師じゃなかったっけ?
「最近はそれだけじゃ食えなくてねえ。」
あれだけ金持ちで何を言う。
「これは趣味みたいなものだけどさ。」
だろうな。知ってたよ。
「まあ君なら男子でも問題ないだろう。最近はお国がうるさかったり、物騒だったりするから、防犯という意味でも男手が欲しかったのさ。あ、ちなみにあんたが盗みしたら、超能力で心臓握りつぶすからよろしく。」
なかなかにぶっ飛んだ人だ。この人がいてどうしようもない犯罪なんて存在しないだろうに。
「じゃあ、服はこれ、支給品なので汚したら持ってきてくれれば超能力で洗浄するぞ。それと、こっちは必須のケチャップだな。超能力をかけてあるから、中はいつでも満タンだ。」
なんでもありだな超能力。
「それと、料理は超能力で出すから、伝票はここに持ってこい。皿も超能力で洗うからここだ。以上!」
もうこれ、バイトが要らないんじゃないだろうか。だが、振り向いたこの人を見て気が付く。屋内なのに、かなり色の入ったサングラス。
「言っとくけど、お前よりもいろいろなものが見えているから、どさくさに紛れて変なところ触ったりしたら心臓……。」
「わかりました、大丈夫です。心臓の方が100倍大事なので。ていうか、そもそも女というのが少し苦手でして……。」
それに俺だって日常的に妖怪とか見てますよ、ミンチがどうのとか言ってる。
「そうかいそうかい、でももしそんなことを実際にされたら、いわゆるNTR……。」
頭ん中ピンクなところまでおそろいでしたか。仕方がないから無視してメイド服を抱える。
「もちろん今日から入ってもらうよ!着替え用の部屋とかは特にないから、奥の方でこっそり着替えてくれ!あと、みんなは君のこと女子だと思っているからバレずによろしく!」
おいおい、更衣室すらないのかよー。そんな困っちゃうなー。
……。だめだ!聞かなかったことにはできない!最後なんて言った?男子とバレるなって?
「うちは店の都合上男性客が多いんだよ。もちろん、働くの禁止なんて決まりはないけど、ばれると店の評判に直結するから、ばれたら弁償なー。」
難易度が高すぎる……。
「ほら、私は忙しいんだから、あっち行った!」
こうして俺は一方的に部屋から追い出された。どうでもいいけど、メイド服ってどうやって着替えるのだろうか。
もはや女装というところには何の抵抗も感じなくなった俺が、メイド服を持って突っ立っていると、最初に案内してくれた女の子が来た。
「あー!やっぱり!店長、君にちゃんとその着方を説明しなかったでしょ!いい?最初のうちは着させてあげるから、しっかり覚えるんだぞー?」
名札には「カレンたん」と書いてある。ちなみに、俺の名札には「カヅキたん」と書いてあって鳥肌が立った。
「あー、これはみんな本名じゃないんだよ。ストーカーとか防止のためにね。私も本名はアヤカよ。こんなところで働いてるけど、17歳!よろしくね!」
いや、がっつり本名なんですが……。
そう突っ込む前に、「じゃあ、着させてあげる。」と、俺の服に手をかけ始めた……!
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