男子校に入学したはずなのに、女子と夏休みに特別な補習の件
夏休み。女子。特別な補習。俺の好みはどうであれ、世間一般の男子にとってはとても魅力的なワードであろう。この羅列を見ただけで想像が膨らみ、ご飯3杯は行けます、なんていう猛者だっているかもしれない。
だが、世の中はそう甘くないし、学校という機関に置いて、ろくでもない理由で休みまくった俺にとっては、そういったことどころか人権すらない。
「おーしお前らー。集まったかぁー。」
いつもはこういう時、担任であるはずの一ノ瀬先生が出てくるはずだ。なのに何故か体育教師のリラがいる。(由来はお察しの通りゴリラ)
ごっつい筋肉と頭の悪そうな顔。もちろんながら俺らの方が頭は悪い。
「おいバカヅキ、なんでウチまでこんな目に?」
「うるさいアホリ。お前だって休みまくったろ。」
カオリがヒソヒソと絡んでくるが、残念そんな暇はない。俺の脳みそで補習に追いつこうと思ったら、集中力は全部勉強に向けないといけない。
「なぁその、アホリってのは辞めないか?悪口言われてるのがうちなのかカオリなのか分からなくなって非常に妙な気持ちになるんだが……。」
同じくヒソヒソ声で済まなさそうに言ってきたのは、俺らと同じく休みまくってるアオイだ。その隣にはユウキもいる。
ユウキは出席日数的な問題なので別に寝ていても成績は取れる。アオイも、寝ていたらキツイかもしれないが、俺よりは遥かに勉強が出来る。
「ワタクシはお姉様方と同じ部屋で密室ならどこだって構いませんわぁ!」
レイナはおそらく、冒頭の妄想だけでもご飯3杯は行けちゃうタイプの人間なんだろう。なんなら5杯でも10杯でも行けてしまうかもしれない。本当にポテンシャルの底がよく分からないやつだ。
ちなみにユウリは最近はレイナの頭の中で休業中なことが多い。なんだかんだ言っても、フウリさんの件がずっと気になっているのだろう。
問題は、部屋の端っこで特別枠を作られているユミコとヒカル先輩だ。ユミコは勉強ができるか出来ないかはよく分からない。が、ヒカル先輩がヤバいらしい。
「おい本城、西園寺。お前らは3年だよな?なんでこんな所にいるんだ?」
「これは、本城さんに勉強を教える際、短期記憶にしか繋がらない……。」
喋るのが苦手なはずのユミコの説明を遮ってヒカル先輩が勢いよく手を挙げた。
「はーい!1年の内容まで全部忘れましたぁ!あっはっはっ!」
そういやこの人、一日のうち1つか2つは授業切るんでしたね。
「ということで私は教え役。」
「西園寺、お前も出席日数に、警告着いているぞ。3年は1年より休める日数少ないから気をつけろよ。」
「是。」
ユミコまで冷や汗かいてるし。
ちなみにここは旧校舎。つまりキツイ。何がキツイかというと、クーラーがない。
夏休みだからどんな服でもいいぞ、まぁ、補習来るやつは大抵制服だがな、という言葉の通り、ヒカル先輩以外制服で来ている。俺の場合は、女装の関係で脱げないんですけどね。
ヒカル先輩の服装はこんな時でも部活着。部活がない日も自主練をするためらしい。だが、そんな思惑も
「何言ってるんだ。補習期間中は部活停止だぞ。」
とリラにぶった切られた。一ノ瀬先生ならごり押せたかもしれないが、そもそもあの人はゴリ押されたらそのまま押し通されるから補習の教師陣から外されたのだろう。今は偶然、広島に旅行に行っているらしい。俺のレポートそんなに良かったなら補習免除してくれてもいいと思うんだけど。
「うん、じゃあ、今日も一日お疲れ様。」
そう言ってリラが教室を出ていくと、教室内の空気がフーッとなる。あいつ、あんな顔して結構頭いいんだよなぁ。
「帰りにアイス行こーぜー!」
カオリが空元気で叫ぶ。みんなも何とかうなずいた。この暑さ本当にきついんだよなぁ。
行先は、帰り道にある、ユイと遭遇してしまったカフェだ。最近見ていないが妹は元気にしているだろうか。
「みんな!ここはカヅキの奢r……べフッ。」
疲れている時にとんでもないことを口走られかけたので慌てて口を塞ぐ。勘弁してくれ。本気と書いてマジとよんで。
「まぁ、広島に連れて行って上げられなかった2人と、いつもお世話になっている先輩には奢りますよ。」
「おっしゃあ!ありがと!」
「お財布が苦しいなら無理しなくていいからね?」
そうそう。これですよ。こういう反応ですよ。普通。奢りっていうのは強制じゃないのよ。
「で、何でお前が並んでるんだユミコ?」
「お世話してる先輩。」
うるさいわ。ヒカル先輩の事じゃ。
「ってあれ?ヒカル先輩はなんで並ばないんですか?」
「だって私別に何もお世話してないよ!お金とか出してくれるのユミーだし!」
いやいや、確かにユミコは金出してくれたり、色々教えてくれたりしているし、ヒカル先輩はなにかと仕事増やしてくれてる気がするけど……あれぇ?なんか、確かにユミコに感謝した方がいい気がしてきた。
ユミコが満足気にニヤニヤ笑いながら頷いてるから、絶対奢んないけどさ。
「うちの分は?」
頭が痛い気がするが、あとはユウリには奢ってもいいだろう。物理的に腹に入れるのは迷惑な子2号だが。
「うちに感謝とか、奢るとかは?」
「頭蓋骨がミシミシ言っていて何か大切なことを忘れてる気がする。」
そういうと、いつの間にか持ちげられていた体が地面に落とされる。カオリのヤツどういうパワーしてるんだよ。
「分かった分かった。全員分奢るから。お前ら、味は?」
「「「「「「チョスラバオタコトムニレコミロレランヤンベージキトリズーン!」」」」」」
何の呪文だよ。
とりあえず文字を1つずつ分解していくと、チョコミント、ストロベリー、ラムレーズン、バニラ、オレンジ、たこ焼きだな。俺の頭の処理速度も補習のおかげで上がっているらしい。
俺は絶対にツッコまないからな。アイスなのになんでたこ焼きなんだとか、絶対に突っ込まないからな。
「すいません、もう面倒なんでここの味ひとつずつ下さい!」
「かしこまりました2万円です!」
すまんカオリ。月末まで素うどんとニラもやしばかりになる。だが、自業自得と諦めてくれ。俺はまだ、金欠だとボヤいた時に「夫婦の共同財産」とか言われてユミコに渡された20億を使うほど快適なメンタルをしていない。
「ほら、俺の奢りだ。」
俺がお盆いっぱいに乗せられたアイスをみんなの待つテーブルに持っていくと、みんな思い思いの味をとって食べる。たまにはこういう日常も悪くない。できれば、日常で補習はしたくないが。
「あれ待てよ?うちら親からの仕送りって共同で使ってるよな?」
仕方ない、バカオリにしては気がつくの早かったが、もう遅い。
「大丈夫ですわぁ!お姉様のお財布の『共有財産』のポケットの中身なら、カオリお姉様のお財布に移しておきましたものぉ!」
「そうか、よくやった。」
あれ?よしよしとレイナを撫でるのはいいけど、俺の財布の2万円は?
いや、お金が俺のならまだいい。だが、俺はそんな大金持ち歩いていない。
「あれ、シュガー、私と同じお財布使ってるんだねぇ!それにバッグも!」
なんだろう、頭の中で物凄い警告音が鳴り響いている。
「それにストラップ……ってあれ?それ私のバッグじゃん!間違えてたよー!あはは、ごめんごめん!」
みんなの俺に突き刺さる目線が冷たい。カオリはいつもの事だが、レイナまで冷たい。アイスいらずだ。
「ごめんってシュガー!そんなに固まらないで!」
俺はバッグを恭しく扱うと、そのままジャンピング土下座の体制へと移る。
「美しきフォーム。」
俺が地球に頭突きする直前に聞こえたのは、ユミコの実況だった。
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