男子校に入学したはずなのに、○○と遊園地を楽しむ件④

「つまり、この子がシュガーのためにって言って、勝手に私をさらったのね?」


「理解が早くて助かります。」


 俺ほどじゃないにしても、ヒカル先輩も拉致され慣れてでもいるのだろうか?


「で、ずっと気になってたんだけど。」


「RTXなら、世界一辛い物質のことですよ。」


「なるほど、今度食べてみる!……じゃなくて!」


 食べてみたら死ぬと思うから、辞めておくことを強くおすすめします。


「なんで!男子の!格好を!してるの!」


「男装趣味。」


「お前は勝手に答えんな!

ち、違いますからね!?」


 相変わらず自由気ままなユミコを牽制し、先輩からの疑惑を解く。といつか、本当に解けているのだろうか?


「じゃあ、なんで男子の格好をしてるの?」


 ここは正直に言った方がいいだろう。諦めて1から丁寧に説明する。


 説明が終わってから、ヒカル先輩はしばらくふんふんと頷いてから、


「まあ、知っていたけどねー。」


 と言い放った。


「「えっ!?」」


 あまりのショックにユミコも声を上げる。そういや、ユミコはヒカル先輩の心を読めないんだよなぁ。以前、「考えてることがカオスすぎて頭がぐらぐらする。」と言っていた。


「じゃあ、今度は拉致られた側からの要求ね。ちょっとシュガー借りるね?」


 今度は、やっぱり俺が拉致されることになった。


「それで、どこに行くんですか。」


 残念ながら拉致され慣れた俺がそう聞くと、


「シュガー、女子が2人、服屋が多いところに行ったら、もはやそれはデートだとおもうんだよなぁ。」


 とのお言葉。だから女子じゃないんだって、と言おうと思ったが、なかなか完全には否定できないからせめて0.5人分ぐらいでカウントしておいてください。あと言っていることが意味不明だ。今に始まったことじゃないけど。


「じゃあ俺……じゃなくて、私はそんな設定つける必要ないと思います。俺……私は、デートなんて、それも女子となんて真っ平なんで。」


「俺、のが喋りやすいならそっちでもいいよー。あと、デートは絶対なのです!」


 変なところでこだわるなぁ。午前行ったお土産ショップ街に足を踏み入れる。


 午前とは、雰囲気が打って変わってどんよりとしている。地図的に遊園地の出入口にあたる場所にあるから、もっと活気づいていた方がいいと思うんだけどなぁ。貸し切りとはいえ。


「ようこそ!(リア充以外の)お客様!」


 書いてある垂れ幕が若干文言が追加されている気がしたが、来た時にじっくり見た訳では無いので分からない。


「おっとおぉ、そこのリア充なお客様!いい所を通りました!

 ただいま、こちらのマスコットキャラ、ハッデーのグッズがタイムセールになっております!」


 なんとも胡散臭いな。


「いいじゃん、シュガー、見てみようよ!」


 ヒカル先輩からのお達しだ。仕方ない。


「まぁ、それなら……。」


「オススメの逸品はこちら!ハッデーのスノーボール!タイムセール時限定の特別商品です!」


 台座には、「リア充よ、こうなれ」と書いてあり、中ではただでさえグロキモいハダカデバネズミがさらに爆散しているという残念すぎるオブジェだ。


「ちなみにこれ、幾らですか?」


 ヒカル先輩は買うかどうか迷っているらしい。心底正気を疑わせてくる。


「それが!なんとたったの2000ですよ!」


 てことは、1900円か。


「買いで!」


「毎度、2000ドルとなりまーす!」


「はーい、カードで!」


 あぁ、ヒカル先輩も「そっち側」の人間だったのか……。俺はなぜだか目から流れてきた汗を拭い、お店をそっと後にした。


「シュガー!待ってってば!」


 追いついてきたヒカル先輩に後ろから抱きつかれる。着痩せするタイプ……どころか、着てても出るところは出ているのだ。そりゃあもう、背中は大変なことになる。


「先輩、背中、当たってます。今は、男だって、知ってるんでしょ。」


 つい相手を女子だと意識してしまうとしどろもどろになる。これでも高校入学前までに比べればかなり良くなった方だと思うんだが……。


「ん?あー、ごめん!気持ち悪いよね……。」


「いや、そうじゃなくて……緊張するんで……。」


 気持ち悪いどころかむしろ可愛いのだが、その可愛さが困るのだ。申し訳なさそうにパッと離れるヒカル先輩に、逆に申し訳なくなる。


「そ、そういえば、このオブジェ可愛いよね!」


 強引な話題逸らしに、先程買ったスノーボールを出してくる。というか、ハダカデバネズミが爆散しているこれのどこに可愛さを見出したのだろう。こっちは純粋に気持ち悪い。というか、ハダカデバネズミさん回復してません?


 チッチッチッチッ。


 中からは、ネズミの鳴き声のような音まで聞こえてくる。爆散してるのに鳴き声を再現するんじゃないよ。


「シュガー、どうせ来たんだから、なにか乗ろうよ!」


 ここの乗り物たちはえげつないからなぁ。適当に理由を付けて断ろう。


「すみません、乗り物はちょっと、アレルギーで。」


「えー、じゃあ、あそこのレストランは?」


 ここの食べ物たちは以下略。


「宗教上の理由で飲食はできません。」


「じゃあなんなら出来るのさー。」


 さすがに、何も出来ないというのは拉致されてきた先輩が可哀想だしなぁ。


「そうだ、それなら、パレード見に行きませんか?」


「でも、貸切なんだよね?やってるの?」


「一部の人気パレードはやってるらしいですよ。」


 一応タイムテーブル表を確認すると、そろそろやるのがひとつあるようだ。


「これなんてどうですか?」


「いいねいいね!よし行こう!」


 申し訳ない言い方だけど、先輩が単純でよかった。






 パレードは至って普通に楽しめるところで良かった。


 ……そんな感想を言えることは、あまり期待していなかった。


 さっき俺たちが参加したのは、普通のパレードのはずだった。なのに、どこで道を踏みはず……間違えてしまったのだろう。俺の目の前の先輩は、とあるものに乗っていた。


「先輩、それ、乗っちゃいけないやつです!RPGって書いてあるじゃないですか!」


 もちろん、ゲームではなくミサイルの方のRPGだ。戦車相手でも吹き飛ばす奴。


「そう!?でもこれ、馬に乗っているみたいで楽しいよー!」


 なんでこの遊園地はこんなに物騒なんだろうか。あと、こんなに荒々しい馬はいないと思います。


「そっち行くから、飛び乗ってねー!」


 すんません、無理です。……なんて言う暇もなく、携行ミサイルが飛んでくる。


「ちょっ!まっ!」


 これが限界。見事ミサイルに吹き飛ばされ、俺は地面に叩きつけられる。


 まて、ヒカル先輩が地面にいない。ということは、いるのは……!


「たーすーけーてー!」


 かなり高くまで飛ばされている。人に言えないけど、よく無事でしたね。。本当に人間ですか?


 けれど、よりによって、先輩は頭から落ちてきた。とりあえず頭を打たないように、そこを抱きとめなければ。落ちてきた体の部分で頚椎を痛めないよう、先輩が飛ぶ角度を考えながら、真下で微調整する。


 と、ここで、2つ目の予想外が起きた。先程のスノーボールだ。


 チチチチチチチチ!


 まるで、ネズミの鳴き声と言うよりも、何かのタイマーのような音が聞こえてくる。


「シュガー!お土産がなんか言ってるー!」


 遥か天高くから落ちてくる先輩は、呑気にもその音を聞いて俺の方に投げてきた。キャッチをすると、爆散していたはずのネズミが完全に回復している。


「リア充、バクハツ、シロー!」


 謎な一言と共に手榴弾のような爆発が起きる。もちろん俺は吹き飛ばされ、先輩をキャッチできる場所でなくなる。


「先輩っ!」


 ギリギリ、先輩の下に滑り込む。その時には、視界いっぱいに、先輩の顔が広がっていた。


 めちゃくちゃ可愛いやん。


 その一瞬の油断が命取りになる。唇に柔らかい感触が、次に口の中にさらに柔らかい何かが入ってきた。


 え……これって……な……に……。

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