男子校に入学したはずなのに、○○と遊園地を楽しむ件③

 着地ができたか……?結論から言うと、墜落ならできた。俺は頭から地面に突き刺さることになったし、レイナは両手両足とほとんどの肋骨を折っていたが、出血系の怪我は鼻血だけだった。


 頑丈だな。


 先程カオリを連れていった保健室の中に、手と足を固結びにして放り込んでおいた。手と足が柔らかく、これが一番やりやすかったからだ。


「この痛みすらもお姉さまからの愛ですわぁ!」


 とか言って喜ばれた時はいっそこのまま海に捨てようかと思ったが、不法投棄は犯罪なので辞めておく。


「まったく、そもそもどうなっているんだここのアトラクションは……。」


 ほかのメンツを探そうにも、こんな所をほっつき歩いていては身が持たないのでどこか飲食店にでも入ろう。


 マップを広げると、アトラクションのコーヒーカップ……の横に、「ホットコーヒーカップ」という飲食店があるのを見つけた。恐らく喫茶店だろう。そこに行ってみんなが歩いているのを見つける、そんな方針でみんなを探すことにした。


「いらっしゃいませ!ホットコーヒーカップへようこそ!お好きな席におすわり下さい!」


 お店の人もまともな感じだ。まあ、あまり信用してないけど。


「あら、カヅキ?」


 奥から聞こえてきたのは、ユウキの声だった。俺が疲れているからか、声綺麗だなぁ、としみじみ思う。今更ながら、よくこんな声を男子のと勘違いできてたな、俺。


 ここのマスコットキャラであるハダカデバネズミをモチーフにしたキャラクターが入ったキモイカップには、ホットコーヒーが入っている。俺は、ユウキの向かいに座ると、


「すみません、アイスコーヒー1つ。」


 と注文する。


「かしこまりました!アイスホットコーヒーですね!」


 ……なんか違う気がするけどまぁいいや。


「ちなみに、当店ではフードロス削減のため、注文していただいた品は全部召し上がっていただくことになっております。よろしいでしょうか?」


 いいよ、なんでも。


「あぁ、分かった。それよりユウキ、なんでこんな所にいるんだ?」


「こんな所なんてお店の人に失礼よ、カヅキ。さっき、お化け屋敷で酔っちゃって、みんなと別行動していたの。」


 お化け屋敷で酔った?あぁ、あのロケットの事ね。


「それにしても、地底探査船っていう発想はなかったわ。」


 どうやら、客ごとに脱出方法は違うらしい。理不尽だな。


「そうかぁ、世の中には色々あるもんなぁ。」


「それを言ったら、初めてカヅキが男子だって気がついた時の驚きも、そのうちの一つに当てはまるわよ、絶対。」


「俺も自分が女子校に通っているとは思わなんだ。」


「あらごめんなさい。それでも、カヅキも充分可愛いわよ?」


 そう言ってからかって来ながら、ユウキはコロコロ笑う。ユウキはおそらく自覚していないが、俺の周りにいる女子はみんな可愛すぎると思うんだよな。


「大変お待たせ致しました。アイスホットコーヒーでございます。」


 相変わらずグロキモいハダカデバネズミのカップに、グツグツ言いながらコーヒーが入っている。


「すみません、俺が注文したの、アイスコーヒーなんですけど。」


「ですから、アイスホットコーヒーですよ?体がポカポカする新商品です!」


 なんだろう、このお店の人からは今までの人と同種の危険性を感じる。


「嘘だと言うのであれば、まずはカップをお持ちください!」


 店員さんにそこまで言われてしまっては仕方がない。そーっとカップを触ると、熱いどころかキンキンに冷えていた。ロケットにやられた火傷に効きそうだ。


「ほんとだ、冷たかった。すみませんでした。」


「いえいえ!」


「で、なんでグツグツ言ってんの?」


 店員さんはダッシュで逃げて、厨房に籠ってしまった。


「大丈夫よカヅキ。遊園地で危険なものなんて出るはずないでしょう。」


 ユウキは、あくまでもここを安全と言い切るらしい。俺的には地雷原をのたうち回りながら行進している気分なんだが。


「まぁ、そういうなら、いただきます。」


 何となく知っていたが、唇をカップに着けた瞬間、ハダカデバネズミのムニュッとした嫌な食感が伝わってくる。ここまで忠実にキャラ作ることないのに。


 カップを傾けると、当然コーヒーが流れ込んでくる。


「痛っ!」


 唇から煙が上がった。なんだこりゃ。辛いと言うより、痛い。


「どうなってんの、ここのコーヒー!?」


「ドラゴンズブレスっていう珍しい品種のものを、王水っていう特別なお水でだして淹れているらしいわよ。」


 残念ながらそれぞれトウガラシの上位互換と、金でも溶かす薬品である。


「それはもう飲み物とかそういうんじゃないんじゃ……。」


「たしか、冷やすためにドライアイスを使っていたはずよ。」


 飲み物を冷やすツールとしてかなり間違えている気がする。


「これ、全部飲んだら間違いなく死ぬよね?」


「そう?美味しいわよ?私はもうこれで3杯目。」


 どうやら、ユウキの辛いもの耐性は毒にまで効くらしい。つよ。


 だが、俺も全部飲まないと出られないらしいので、テーブルに置いてあった角砂糖のようなものをじゃんじゃん入れる。


「それ、石灰石よ?」


 馬鹿じゃないのこのレストラン。おかげで酸性は少し薄くなった、もう何が入っているか分からない液体を飲む。口はもちろん激痛だ。


「そういえば、カヅキ?」


「なんだ?」


「私とアオイは、いつ頃あなたが男だって気がついたと思う?」


「さぁ、そこまでは……。」


「じゃあ、次遊ぶ時までに考えておくのよ。」


 宿題っすか……。でもまあ、割と大事なことではある……か。


「なんか、ヒントとかないのか?」


「そんなものあるわけないでしょう?」


 ですよねぇ……。でもまぁ、ユウキみたいに頭のいい人に出される宿題なら歓迎だ。レイナの宿題なら頭悪くなりそうだからやらないけど。


 少しの間、黙ってコーヒーを傾ける。忙しい日々に暖かいひと時。この大事さがわかるのは果たしていい事か悪いことか。


 コクッコクッカクンッ


 気がつくと、真正面にいるユウキが、船を漕いで寝てしまっていた。ていうかこんなの飲んでてよく寝れるな。し、死んでないよな?


「おーい、こんなところで寝ていると風邪ひくぞー?」


 もしかしたら、ユウキはユウキで夜遅くまで勉強したりして、今の学力を手に入れたのかもな。


 仕方が無いので、ユウキも保健室に運んでやることにした。今のユウキにはこれが似合うであろうお姫様抱っこだ。運んでいる間に熱まで上がってきたのか、腕に伝わる体温が熱い。


 というか、みんな保健室行きすぎでしょ。


 そんなことを考えつつ、本日三回目の保健室を出ると、前からさっきの喫茶店の店員さんが走ってきた。


「お客さーん、お代、お代忘れてますよー!このままじゃ飲み逃げですよー!」


 やばいやばい。払うのすっかり忘れてたわ。


「すみません、ちょっと寝ちゃった子がいたので。その子の分も出しますよ。いくらですか?」


「ホットアイスコーヒーが4杯と、おつまみのRTX漬けドラゴンブレス三点。それぞれ一杯1600円と一点2500円ですので、合計14000円です!」


 おいコラいくらだと?そんなに高いのか。


「100円多い。」


 その店員の後ろの角から、声が聞こえてきた。


「す、すみませんッ!」


「これで許す。」


 姿を現したユミコが、5000円札を突き出す。残りは店員が自腹で払えということだろう。


「す、すみませんでした!」


 店員さんは尻尾を巻いて逃げていった。


「ここの悪習。100円多い請求。」


 相変わらずなんてところだ。気の置けない集まりのはずが、いつの間にか気の抜けない集まりになっている。


「こっち。」


 ユミコが手を引いてくる。あと見つかっていないアオイ、シオリさん、ユウリはそっちにいるのかもしれない。


「特別ゲスト。」


 裏路地でユミコが止まり、その先を見させられる。目の前には、頭に紙袋をかぶせられて縛られた女の子がいた。


「ここどこ!?ていうか、なんで急にヘリコプターで拉致!?」


 この声は、俺のよく知る人のものだ。


「ちょっ、ヒカル先輩!?」


「サープラーイズ。」


「シュガー!?どうしてこんなことを!?」


 あーもー、ややこしいことになってきた。


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