男子校に入学したはずなのに、そこは女子校だった件

 さすがの俺でも、ダイナマイトは辛い。びっくり箱から飛び出す時、2人が爆風を腕で防ぎながら話している言葉は、僅かにしか聞き取れなかった。


「え、じゃあこの子は、男子校だと思い込んで女子校に……。」


「……はい。つまり、本人に悪意は……。」


「でも、早く現実を教えて上げないと。」


 ここら辺で意識が途切れた。


 俺が通っているのは実は女子校?そんなわけあるはずないだろ。頭ではそう思いつつも、心の中でなんとなく理解しかけていた。





 次の日曜日、いつも通り部活に行く。もちろんみんな全く違和感などなく、いつも通り練習している。


「ヒカル先輩。」


 部活が終わったあと、いつも通り声をかける。この人は先輩だが、1番天然でカマをかけ安そうだからだ。


「先輩って随分、女の子っぽいですよね。」


「そりゃそうだよー!逆に、なんだと思ってるのー?」


 なんとなく、聞いてはいけない領域に踏み込もうとしている気がする。


「じゃあもし、この学校に男子がいたらどうします?」


「まさかー、それこそ有り得ないよー。だって、もしそんなことしようとしたら守衛さんに捕まっちゃうからね!」


 ん?なんかヒカル先輩の様子が……!って、進化はしないけどさ。


「つまり、この学校には男子なんていないし、もしいたとしても本人含めて誰も気がついていないだろうね!」


 ……うーん、この先輩は何をどこまで知っているんだろう……。


 こんな休日の学校でも、もう1人、正確には1人と1体、聞ける相手がいることを思い出す。


「ユウリ、レイナ。」


 体育倉庫の扉を開け、


「お、お姉様が御自ら来てくださいましたわぁ!お赤飯ですわぁ!

毎日炊いていたかいがあったな、良かったな。」


 その赤飯はどこから取り出したのだろうか。


「少し、聞きたいことがあるんだけど。」


「なんでもいいですわぁ!

この学校のことならなんでも知ってるぜ。」


「ここって、男子校だよね?」


「えーっと……。

分かっているなら、聞かない方がいいんじゃないか?」


 レイナが戸惑うのと同時に、ユウリの声が鋭くなる。


「わからないから、聞きに来た。」


「本当は分かってるんだろ。」


 タチの悪い切り返しだ。


「お姉様……?」


「レイナ?」


「ワタクシは、お姉様がお姉様だから敬愛申しておりますわぁ。お姉様の性別なんて関係ありませんもの。」


 そういや、こいつは俺の事を男子と知ってて近づいてきたんだよな。心が読めるユミコは別にしても、最初は、男子苦手なカオリの友達……だったはず。


「でも、レイナは男子苦手じゃなかったのか?」


「お姉様はお姉様で、お兄様でもありますわぁ。

よーするに、こいつはお前にフォーリンラブなわけだ。」


 なんか、今までのこいつの扱いを申し訳なく思うレベルのピュアさだな。こいつって、こんなに可愛げのあるやつだっけ。


「今まで単なるハグゾンビかと思っていたぞ、すまん。」


「ハグしてくれたらオールオッケーですわぁ!」


 仕方がないから、手を回してハグしてやる。女子嫌いの俺が自分からするのは下手したら生まれて初めてかもしれないが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。


 もしかしたら俺が女子を毛嫌いしていただけだったのかもな。


「お姉様、動揺もあるかともいますわ。でも、少しづつ、物事に慣れていくことも大切ですわ。」


 あれ、何このいい雰囲気。良くない良くない。レイナなんかに惚れてみろ、あとが大変だぞ。落ち着け、これはこの雰囲気に流されてるだけだ。


「カヅキ、何顔赤くしてるんだ?」


 そうだ、こいつもいたんだ。アブねぇ。マジでアブねぇ。


「ていうか、半分はアタシに抱きついてるようなもんだからな?高いぞ?」


 金取るのかよ、使い所ないだろ、幽霊なんだし。


 でも、2人のおかげで少し落ち着くことが出来たのはありがたい。


「2人ともありがとう。でも、これからどうしよ?」


「そもそも、なんで今まで気が付かなかったんだ?」


「名前とか、普通に登録されてたんだよね。」


「ってことは、名簿に名前はあったのですわね?」


「あ、ってことは、本来この学校には、同じ佐藤カヅキが来る予定だったのか!」


「男女ともにありうる名前だからなぁ。その子はどこで何してるのやら……。

もしかしたら、男子校に通ってるかもしれませんわぁ。」


「正解。」


 ゆ、ユミコ?いつの間に背後に!


「なんでそんなこと知ってるんだ!?」


「セバスチャンの調査。」


 あの爺さんか……。女子校に潜入してた形になった人間が言うことじゃないけど、やばい爺さんだった記憶しかない。お陰で、シャワーの音を聞くとつい後ろを確認するようになったほどだ。


「名前は佐藤カヅキ。あだ名は食パン野郎。」


「なんでそんなあだ名が着いてるんだよ……。

きっと、食パンが好きなんですわぁ!」


「登校初日に食パンを咥え登校。」


「なんか聞いたことあるぞその話……。」


 たしか、入学式の日に、駅の改札でそんなやつとぶつかった気がする。


「でも、元に戻るには問題がある。」


「友人関係ですわねぇ。お姉様にユウキやアオイ、ワタクシたちが居るように、その子にもきっとぉ……。」


 なるほど、ってことはこれしかないかな、出来ればやりたくなかったんだけど。


「それがいい。」


「一応、向こうにも頼んでみてはいかがでしょうか、お姉様?」


「でも、この計画をするのって、男子校に知り合いがいないと出来ないよなぁ。」


「えーっと、お師匠様?そろそろ出て行ってもいいでしょうか?」


 ユミコをお師匠様と呼ぶのは恐らく一人しかいない。さらに、金髪のポニーテールも視界に入ってきた。


「バレてないと思ってるのかねぇ、これだからうちの親友は。」


「ユウキにアオイ!」


「側室組到着。」


「2号さんはワタクシですわぁ!」


 なんか、賑やかになってきたな……。


「言っとくけど、カヅキとは単なる親友だからな?」


「私もそっちでお願いします……。」


「それで、誰か男子校に知り合いいるか?うちは一人いるけど……。」


 真っ先に頼りになるのが幽霊のユウリってどうなのさ……。


「すげえ、もう課題解決かよ。」


「ただし、教員として。」


 何たるジェネレーションギャップ……。世のギャップ萌えオタクもびっくりだろう。


「ずっと前に高校同士の合コンで知り合ったんだ。まだ定年じゃないはずだぜ。」


 御年いくつだよ。


「その話、あたしにも聞く権利あるよね?」


 ついに、幼馴染枠のカオリさんまで参戦してきた。


「いくら幼馴染兼クラスメイト兼同居人と言えど、何もできないなら意味ないんだぞ?」


「あたしのいとこのカオルっていうのが、たしか男子校だぞ。」


 何たる偶然。


「じゃあ、その人に連絡をとって、もう一人の佐藤カヅキに会うところから始めようか!」

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