男子校に入学したはずなのに、幼なじみとの同居先に地下がある件

 無事に家に帰ったあと、死ぬほど勉強をした結果、コロコロ鉛筆の神様に微笑まれて、なんとか追試を合格出来た。


 今回は本当に危なかった。色々な意味で。


 ユリアさんの運転する車が、何故か海の中に沈みそうになった時は、水圧でドアが開かず、死ぬかと思った。


 水で目が覚めたカオリが万力みたいな力でこじ開けなければ、今頃ユリアさんと心中している事だっただろう。





 そして、それはテストが終わった土曜日、家に帰ると起きていた。最初に気がついたのは、カオリが居ないということだった。


「あれ?カオリー?出かけたのかな?」


 玄関先でただいまを言っても返事が来ない時は大抵そうなので、その瞬間はあまり気にしなかった。しかし、自分の部屋に荷物を置いて、トイレに入ると、状況は一変する。


「なんじゃこりゃ。」


 トイレの中には、エレベーターのボタンがあったのだ。それも、上矢印と下矢印だけの。こんなのあったっけ。


 上矢印の方は、どうやらランプが点灯していないみたいなので、ここなのだろう。


 下矢印の方のボタンを押すと、僅かに浮遊感を覚える。エレベーターで下る時のそれと一緒だ。


 少しすると、チーン!という音と共にエレベーターが止まる。


 下矢印のランプが消えて上矢印のランプが着いているから、さっきの推理は正しいのだろう。


「カオリー?」


 トイレエレベーターから降りて声をかける。内装は、まるでゲームか何かの研究所だ。


 こういう薄暗いの苦手なんだよなぁ。


「カヅキ!?静かに!」


 といういつも通りのカオリの声が、思っていたより近くで聞こえた。


「カヅキ、落ち着いて聞いて。ここには、人がいる。」


「えっ!?」


 ということは、いくつか出入り口があるのか?


「奥、覗いて見て。」


 奥には、こちらに背を向けてブツブツ言っている、白衣を着て、金髪ロングの女性がいた。また女かよ……。


「古代文明より、未来の文明の皆様へ。ここには、古代文明を滅ぼした超絶破壊兵器、サプボクが入っています。ゆめゆめ開けませぬよう……。」


 とりあえず、何言ってるのか分からないことを言いながら、手紙のようなものを書いているということだけがわかった。


「なにあれ?」


「さぁ?」


 兵器でも技でも、人を殺すものならなんでもござれのカオリですら知らないって、ガチのやばい物じゃないだろうな……。


「誰かいるの!?」


 金髪白衣の女が振り返る。こわぁ。目がイッちゃってんじゃん。片方は眼帯してるし。


「……誰もいないよね。良かったぁ。」


 怖い怖い。


「この、人類滅亡計画書は、誰にも渡す訳には行かねぇ……!」


 俺の後ろに隠れていたカオリのほうから震えが伝わってくる。さすがのカオリも怖くなったか。ていうか、近い近い。


 こいつは女子の割には筋肉質とはいえ、しっかり女子の部分は女子である。この前のこともあるし、同居とか、ちょっと色々宜しくない。


「か、カヅキ、とりあえず逃げるよ。立って。」


「ごめん立てない!」


「チキンかよ!」


 違うそうじゃない。立ってるから立てません。


「やっぱりそこ、誰かいるよねぇ?」


 くそ、やっぱり逃げるしかないのか!?でも今は立てない!色々と!


「カヅキ!」


「うひょぉっうひょぉっうひょぉっ」


 強烈に気持ちの悪い女の笑い声が聞こえてくる。やばい、追いつかれたっ!


「あれぇ?もしかして、君たちがカヅキちゃんとカオリちゃん!?」


 ……思ったより、マイルドな反応が帰ってきた。


「アオイから話は聞いているよー!なんでも、学校始まって直ぐに親友になった馬の合う子と、ゴリラみたいな怪力お化けなんだって!?」


 怪力お化けという所でカオリがビクンと反応する。怖いって。


「たしかに、アオイさんの親友ですけど?」


「親友なのは俺。」


 バキィ!


 左の上腕骨がやられる。人間の骨握りつぶしたりするから怪力お化けとかゴリラとか言われちゃうんだろうが。学べよ……。クソいてぇし、これ多分3日間は治らないぞ。


「じゃあ、こっちがゴリラちゃんね。」


 ヒュバッ!バツッ!


 カ、カオリのパンチを素手で受け止める……だと!?俺なんていろいろ着込んだ状態から、本気のパンチで肋骨全部やられたのに……!


「元気だねぇゴリラちゃんは!私は田中シオリ。アオイの姉だよ!」


 ちなみにこの一つのセリフの間に、シオリさんは既に500を超えるカオリの打撃をいなしている。強え。


「地下に研究所を作って、アオイの家にトイレで繋げようとしたんだけど、ミスって、隣の家につなげちゃったのよ!」


 こいつ、この腐った脳みそでこんなでっかい研究施設使っているのかよ。


「ていうか、なんでうちがトイレに入ったら動き出すのよっ!」


「私と同じぐらいの体重で動くようになっているからじゃない?ちなみに、私の体重は……。」


「いや、いい、言わなくていいから、トイレどうにかしてっ!」


「仕方ないなぁ、特別だよ?」


「上から目線が気に入らないけど、どうも!」


「特別に、この研究所に好きな時に入れてあげる!」


「その特典要らないわ!」


 女同士の世界って怖いのな……。


「あの、そもそもなんで地下に、トイレとつなげてるんですか?」


「ひとつは秘密基地っぽいから!もうひとつは、隠し撮りのため!」


「わかった、OK。これ以上は聞かないでおく。」


 アオイ、つまり弟のトイレを盗撮する姉って、絶対まともな神経じゃねぇ。


「ちなみに、君たちのもあるけど、欲しい?」


「くださ……!じゃなくて、全部消してください!」


 カオリさん今なんつった?これ以上ここにいてはいけない気がする。


「カ、カオリ!夕飯作ろう?(俺が)な?」


「まったく、カヅキってば食い意地張ってるな。」


 カオリがヨダレをたらしながら帰ることに賛同してくれた。


「待ってー。これ、お近付きの印に!」


 そう言って、さっき「大量破壊兵器サプボク」とか言っていた物を渡してきた。物騒だなおい。


「一応聞きますけど、これって何に使うんですか。」


「ピンチの時に、上のねじを回しながら敵に投げつけるんだよ!」


「うちにもください!」


 カオリが目を輝かせ始めたので、ねじを回してからパスしてやる。


「そうすると、どっかーん!ってして。」


「か、カヅキ!?」


 手りゅう弾のようなものだろう。大丈夫、カオリなら耐えられるはずだ。


 ドガシャーーン!


 想像していたものの数倍は大きい爆発音と煙にカオリが巻き込まれる。


「敵を驚かせるびっくり箱だよ。」


「カヅキ?楽しかった?」


 うわぁ、カオリが天使のような笑みを浮かべている。青筋さえ出していなければ、どこのミスコンでも賞が取れるだろう。


「シオリさん、これの特大サイズありますか?」


「あるよー。」


 それをひったくったカオリは、俺のことをハンドボールのシュートのようにその箱へ叩き込む。


「ねじは適当に回すからぁ。」


 こんなにご機嫌なカオリの声は初めて聴いた。


「そうだ、これ使うと、派手になるよ!」


 楽しそうなシオリさんの声とともに、何かが投げ込まれた。束ねられた三本の円柱に導火線と火がついている。


 あーこれ、映画で見たダイナマイトだ!


 ……どーしよ。


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