第6話 「休日、釣りに行く天使ちゃん!」4


「んぁ……ぁ……」


 白く光り輝く何かが見える。

 どうやら、俺は寝ていたようだった。


「っ——」


 しかし、殴られた脳天が少し痛む。ズキンと鋭利な痛みが額を襲って、眩しい太陽光と相まって気持ちが悪い。


 まあ、こうなったのも俺が悪い。


 事実とは言え、あそこまでストレートに言うものではない。況して、清隆君がいる隣でああ言ってしまったことは反省すべきことだ。


「ぉ……きた? 起きたの、昇二?」


 うっすらと声が聞こえる。


 今では聞きなれたふんわりとしたボイス、つまりは——天使の声だ。そんな声とともに鼓膜をくすぐる暖かい吐息。そのせいで体がビクんと震えた。


「んぁ、ま、ぶし……ぃ」


「お~~い、大丈夫⁇」


 ――ぱちりと目が開くと、そこには霧雨さんの顔があった。


「き、り、さめさん……?」


「そうだよ、大丈夫……?」


「だ、だい、じょうぶ……」


 しかし、なぜだろう、彼女の顔は逆さに見える。

 その前に、もう一つ。


 起伏のある大きなπもあった。


「よ、よかったぁ……ごめんね。私、本気で殴っちゃったみたいで、空手を習ってたんだけど……そういうことしちゃダメって言われてたのに……」


 そうか、殴られて——いや爆弾発言だ。


 背丈も大して高くもない、それに体つきも華奢の胸の大きな天使は実は堕天使だったとでも言うのか。


 ————なんてあほくさい考えはドブにでも捨てて、にしても頭が痛い。


「っく……あたま、いたぃ……」


「ご、ごめんね……ぇ」


「ははっ……まぁ、あれだよ? 寝てたのはたったの2分くらいだよ?」


 次に聞こえたのは清隆君の声だった。


「え、ぅなのか?」


「う、うん……それにもう昼だしよ、霧雨さんに膝枕なんてされてないでさ、ご飯食べようぜ!」


「ああ、そうだな早くご飯——っ⁉」


 俺は起き上がっている途中の身体を停止させる。

 今、清隆君はなんて言った?


 ——膝枕?


 確かに、頭の下には柔らかい枕の様な感触が残っていた。でも——そんなわけ……。


 俺は否定しつつ、我に返ると怖くなった。

 そして、起き上がっている途中の顔を反対側に向ける。


「ん?」


「ぁ」


「? どったん?」


「——っあ⁉」


 俺は凄まじい速度で起き上がった。

 どうやら、清隆君のいっていたことは正しかったらしい。


 幻想でもなく、ほんとのほんとで——後頭部には温かいぬくもりと柔らかいふわふわな感触が残っている。怖くなって頭を触ったが間違いはない。


 事実だった。


「わや?」


「——っ」


「なしたん、昇二?」


「え、だ、だって——ひ、ひざまくら……っ⁉」


 俺が恐る恐る述べると彼女は首を傾げる。

 ん、またもや――空虚な気分になる。


 間違っているのは——俺か?

 純粋な日本男児は膝枕で動じないのか、今の世の中は⁇


「……あぁ、うん? 私、弟にもするよ、こういうの?」


「——それとこれとは、違うと思うぞ?」


「そうかなぁ……へへへ、わかんないや!」


 彼女はそう言いながらニコッと笑った。しかし、田舎はこうも自分の身体を大切にしない人が多いのか? いや、そんなわけないか、もしかして霧雨さんにはそういう過去が……っ⁇


「あ、今なんか変なこと考えてない?」


「え、いやそんなことは——っ」


「へぇ~~、そういうこと思うんなら、あれだぞ? 私のおいしー魚料理はなぁしだぞ⁇」


「ん、いや、ごめん‼‼ 食べたい、食べたいから、許して‼‼」


「じゃあ——」


「じゃあ?」


「——こんど、何でもいいから言うこと聞いて⁇」


「え、あ、うん……」


「したっけ……、仕方ないし、食べさせてあげる‼」


 ——そうして、俺は白身魚のムニエルたらふく食べ――自分の言ったことには何の疑問も持たずに家に帰るのだった。


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