第7話 修行を終えて
あれから、ずいぶんと時間がたった。その間、修行に飽きることもなく、嫌になることもなく、俺達は修行に励んだ。こんなにも長い間、誰一人として、修行が嫌になったと言うものはいない。クロノスによると、そういった精神的な要素も、外の世界の時間軸と同じようになっているらしい。確かに、どんな人間でも、嫌な仕事などは、1日ぐらいなら我慢できる。俺達の精神状態も、そのような感じらしいのだ。このクロノスの空間でどれだけの時間、年月が経とうとも、実際には、1日にも満たない時間でしかないのだから。
修行内容も、クロノスが言う通り、本当に徐々に増えていくという感じだった。
気付けば、腕立て伏せ、腹筋、背筋、スクワットは1000回にもなっている。だが、全く苦痛に感じることはない。むしろ、これでも楽に感じてしまっている自分がいる。周りの他の者達も同じだ。トレーニングを終えても、誰一人として疲れたという表情をしていない。しかも、1000回ずつのトレーニングにも関わらず、時間的な余裕もたっぷりあるんだ。すぺての動作が、確実にスピードアップしている。
これは、ボールキャッチ訓練と、ボール避け訓練の成果かもしれない。今では、ボールキャッチ訓練とボール避け訓練にて使用されているボールは、時速1000㎞で俺達に向かってくる。それも、何処から飛んでくるのか分からない状態で。だから、おのずと反射速度、運動神経が鍛えられていくのだ。
今では、ボール避け訓練に至っては、同時に何球も俺達に向かってボールが飛んでくる。たまに避けきれなくてボールが体に当たってしまっても、あまり痛みを感じない。これは、衝撃耐久訓練の成果だ。
それだけではない。これだけのことをしても、誰一人として疲労しないのだ。これは、縄跳びとダッシュとランニングが影響しているのだろう。
これらのトレーニングも、徐々にではあるが、回数、距離が増えていったのだ。だから、知らないうちにスタミナが増えていったのだろう。ダッシュに至っては、1000メートルにもなっているのだ。1㎞全力で走っても、俺達は全然疲労しなくなっている。これは異常だ。
これらのことから、改めて考えてみると、すでに俺達の体は、人間の領域を遥かに超越してしまっていると考えていいだろう。
「ハッハッハ。皆、修行は順調だね。だけど、まだまだ時間はあるんだ。どんどん頑張っていこう。」
クロノスは、とにかくそう言って俺達を応援し続けていた。今では、誰もがクロノスは時間を司る神であると確信している。なぜなら、すでに何千年という年月の修行をしていても、俺達の体は、ずっと若いままなのだから。だからこそ、皆、真剣に修行に取り組んでいるのだから。
そういえば、千年たったころ、クロノスから提案があったのだ。
「ハッハッハ。皆、修行というより、リストバンドとアンクルバンドの重量には、随分と慣れているようだね。だったら、これからは、一週間ごとに、20gずつ増やしても大丈夫だよね。よろしく。頑張ろうね。」
これは、とんでもない提案だったのだ。今までは、一週間に10gずつ重量が増えていったのだが、増やしていく重量が倍になるというのだ。これだと、最終的な重量が、一つ当たり9.5㌧。合計で、38㌧にもなってしまうのだ。もう、こんなもの、もともと生物の領域ではなかったのだが、さらに滅茶苦茶なことになる。だが、さらに千年たってから、また、クロノスから更なる提案があったのだ。
「ハッハッハ。これから、リストバンドとアンクルバンドの重量を、一週間ごとに、30gずつ増えていくよ。さあ、ますます、頑張ろうね。よろしく!」
おいおい、と思ったよ。これだと、最終的に、一つ当たり13.5㌧、合計で、54㌧にもなるじゃないか。だが、クロノスは限度を知らない。さらに千年たってから、またまた、クロノスから更なる提案があったのだ。
「ハッハッハ。これから、リストバンドとアンクルバンドの重量を、一週間ごとに、40gずつ増えていくっよ。さあ、どんどん頑張っていこう。よろしく!」
まだ増やすの?と思ったよ。これだと、最終的に、一つ当たり17㌧、合計で、68㌧にもなってしまう。
でもでもでもでも、そんな俺達の心配を全く気にすることなく、クロノスの提案は、さらに千年たってから、当たり前のようにあったのだ。
「ハッハッハ。これから、リストバンドとアンクルバンドの重量を、一週間ごとに、50gずつ増やしていくよ。よろしく。さあ、頑張ろうね。」
これだと、最終的に、一つ当たり20㌧、合計で80㌧という、馬鹿げた重量になる。分かりやすくいうと、俺達の体には、最終的にテトラポッド(消波ブロック)が四つ付いているという計算になってくる。なんとも、馬鹿げている。
しかし、今の現状はどうだろうか。これだけの重量にもなっているのに、俺達は、そんなに重量を感じないのだ。人間の順応という能力は恐ろしい。これだけの重量のリストバンドとアンクルバンドを身に付けているのに、すべてのトレーニングを楽々とこなしているのだから。
もう、俺達全員が、人間の領域を遥かに超越してしまっているのだろう。
人間の領域を超越してしまっているのは、肉体だけではないと思う。何千年と、座学も受けているのだから。クロノスは、座学では、地理と語学を集中的に行っていた。お陰で、何十言語もマスターできたし、地球全体の地理の把握も出来ている。これだけの身体能力と知識があれば、何処へ行っても通用するどころか、あり得ないほど優秀な成果を残すことができるだろう。
クロノスのいう『応援』とは、俺達に、今後の人生で絶対的に有利になるような物を身に付けさせるということだったのだ。
今では、皆、クロノスに感謝しながら修行に励んでいるのだ。
----------------
6:00 起床 朝食準備 朝食 後片付け
7:00 朝のトレーニング
腕立て伏せ2000回
腹筋2000回、背筋2000回
スクワット2000回
縄跳び2000回
ボール投げ100回
9:00 座学(勉強)
11:00 昼食準備
12:00 昼食、後片付け
13:00 昼のトレーニング
朝の同じ内容
ボールキャゆッチ訓練(時速6000㎞)
ボール避け訓練(時速6000㎞)
2000mダッシュ
15:00 座学(勉強)
17:00 夕食準備
18:00 夕食、後片付け
19:00 夜のトレーニング
朝と同じトレーニング
衝撃耐久訓練
ランニング100㎞
21:00 清掃
22:00 自由時間
23:00 消灯
リストバンド、アンクルバンド 各20㌧
これが、一万年が経とうとする頃の、最終的な俺達のトレーニングメニューだ。これだけ見ると、相当無茶苦茶な内容なのだが、今の俺達には、これでも楽に感じてしまうほどだった。
ボールキャッチ訓練、ボール避け訓練は、時速6000㎞にもなっている。これは、マッハ5。つまり、音速の5倍だ。なんと俺達は、音速の5倍の速度にも対応できる反射速度を身に付けていることになるのだ。
俺達は、完全に人間を超越してしまった。クロノスが言う『応援』は、俺達の今後の人生で有利になるような物を身に付けさせるということだったのだろうが、いくらなんでもこれはやりすぎ。
まあ、今となっては、もう気にしてもどうしようもないのだが。
----------------
「ハッハッハ。皆、お疲れ様。よく、一万年の修行に耐えてくれたね。今から、皆のリストバンドとアンクルバンドを外せるようにしたから、もう外していいよ。」
クロノスにそう言われて、俺達はリストバンドとアンクルバンドを外した。するとどうだろう。信じられないくらいに体が軽いではないか。全く自分の重さを感じられない。何処へでも飛んでいけそうな気がするくらいにだ。
「ハッハッハ。皆、凄く体が軽く感じるだろう。じゃあ、今日は、その状態で過ごしてもらうよ。今日1日、その状態に慣れてもらいたいんだ。それで、明日の朝、解散とするね。
ただし、1ヶ月後に、現状報告として、一度集まってくれるかな。これは、約束だよ。」
これで、ようやく修行を終わったのだ。これからは、明るい人生が待っている。クロノスには、感謝しかない。1ヶ月後には、嬉しい報告ができるといいな。
クロノスの弟子 掘削名人 @yasu1979
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。クロノスの弟子の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます