40:電鯉《レクトロ》
王から話を聞いた夜はほとんど眠れなかった。
あれから何度も王城に通い、神話やドラゴンについての書籍を読めるだけ読んだ。
空の龍と地の龍、そして大烏の神話に時折出てくる悪鬼というドラゴンも人も喰らう存在は、もしかしたら
しかし、一人で考えていても煮詰まるばかりだ。
それに……相談しようにもこんな話をおいそれと他人に吹聴し回るわけにはいかない。
友人たちと協力しろと言われたということは、まああの二人には話しても平気だろう。セレストにあったときにでも聞いてみるか……と全てを投げ出して、俺は寝ているヴォルトの胸元に体を埋めた。
薄目を開いたヴォルトが不満げに「ガル」と鳴く。
「悪かったって! 最近遊んでやれなかったもんな」
ポンポンと体を撫でてやりながら、俺はヴォルトの両足の間に潜り込む。
明日はセレストたちと約束をした日だ。色々なことを考えるのは明日にしよう。
羽毛に包まれて体がぽかぽか温まってくると、一気に体と瞼が重くなる。
いつの間にか寝ていた俺が、ヴォルトの声で目覚めた時、窓から見える太陽はすっかり高く昇っていた。
「さて、
大きな鞄を、ヴォルトに乗せている鞍の横へ括り付ける。
冬が始まるまでに王都へ戻ってくれば問題ないだろう。昨日、王から言われたことを思い出して頭が重くなる。
まあ、王もすぐに結果を求めてくるわけではないだろう。頭の片隅に置くだけに留めておこう。
「行こうか」
扉を開き、バルコニーへ出る。王都の良いところは、金さえ出せば中型ドラゴン並みに大きいヴォルトと一緒に暮らせる建物もそれなりにあることだ。
一般的には厩舎に預けるのだが、ここは他の場所より厩舎の選択肢は多いから、駆け出し時代も助かっていた。
戸締まりをしっかりして、ヴォルトに跨がる。
少し助走を付けて、大きな黒い鳥は真っ青な空に向かって漆黒の両翼を広げた。
目下に広がる収穫祭前の賑わいを見せる王都の市場を捕らえながら、木々が色づいている山の方面を目指していく。
最近家や、王都の厩舎にいることが多かったヴォルトだったが、今日は久し振りに思いきり動けるからか機嫌も良さそうだ。
「よし、降りようか」
今から向かうのは山岳地帯だった。
小さな川に降りたって、ヴォルトを少し休ませる。早く長く飛び続ける
渡り鳥でもないのに体力がここまであるのは、体の大きさが影響しているのか、それとも広いナワバリが必要な生態だからか。
正直、
水の中にじゃぶじゃぶと入り、魚を捕らえて食べているヴォルトが大きく跳ねる。どうやら、
この近辺にはたくさんいるらしいが、この川まで流れてくるのは珍しい。
はしゃいで魚を捕っているヴォルトの右前脚へつい目が行く。。
龍の骨を削って造った義足を黒く塗っている。人でいう膝から上は残っているため、不便は少ないだろうが……俺がいなくなった後もこいつは一人で生きていけるのか時々不安になる。
足を失って生きている野生動物もいるにはいるが、基本的に四肢の一つを失うことは生存能力が著しく落ちることに変わりはない。
伝承のように雷でも扱えれば、また違うのだけれど……。
あの伝説は、どうやって出来たのだろう? それに、
「ガ! ガ!」
ヴォルトが小さな木の枝を拾ってこちらに投げてくる。俺が遊んでくれないことに不満らしい。
「わかったよ」
足下に落ちた枝を拾い上げ、遠くへ放った。
「ガ」
短く鳴いて、俺に背を向けて枝を拾いに行くヴォルトは、仕草だけ見ると犬のようだ。
本来の大烏も、こうして仲間と遊ぶのだろうか? それとも、群れを作らずに繁殖期以外は孤独に過ごすのだろうか?
わからないことだらけだ。そもそも、俺があちこち移動している動機は、ヴォルトの仲間を見つけたいからっていうことも大きな理由な一つだ。
伝承は幾つか知ることが出来たが、まだ生体と出会ったことも、手掛かりも見つけたことはない。
ちょうど、今から赴く王都から南の方にある山岳地帯はかつて多くの大烏が棲んでいたと言われている場所だ。
水場が各地にちらばって存在しているこの場所は、
変わった生き物が多い理由の一つに、山にある岩が特別で、その成分が川に溶け出しているからだみたいな話も聞いたことがあるが……。
そんなことを考えながら、ヴォルトが持って帰ってくる枝を何度か遠くへ投げることを繰り返す。
「ガァ、グルル」
しばらくヴォルトとじゃれていたら、どうやら気が済んだらしい。
低く唸りながら頭を下げ、俺の脇の下に嘴を突っ込もうとしてくる。
まだ幼鳥だったころの癖が抜けないらしい。力加減をしているようだが、グイッと嘴の背で体を押されればよろけそうになる。
嘴を擦るように撫でてから、俺は首元を左腕で強めに掻く。首を持ち上げながら、気持ちよさそうに目を閉じているヴォルトの胸をポンポンと軽く叩いた。
「よしよし、もう少しだからがんばろうな」
そう声をかけてから俺はヴォルトの背へ向かう。
日が傾きかけている。目印も手紙には書いておいたから、迷わせることはないだろうが。
肌を撫でる風が冷たさを増している。冬の気配を感じながら、俺はヴォルトと少し遠くに見える岩山を目指した。
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