22:ニコとセレスト
「俺の名前はニコ、それでこっちは相棒のヴォルトさ」
肩まで伸ばした黒髪はところどころはねていて、ボサボサだ。
着古した肌着の上に見たことの無い獣の皮が使われているマントを羽織っている男は、ボクたちにそう名乗ると顎を右手でさすりながらエーテルへ視線を向ける。
「僕はセレスト。義腕の鳥乗りニコ、会えてうれしいよ」
セレストが、エーテルの背中から飛び降りた。
「おお。それよりもあんたのドラゴン、変わっちゃいるが
「こいつはエーテル。
エーテルの体を見上げているニコの隣で、セレストは胸を張りながらそう言った。
そういえば、ボクもこの空色をしたドラゴンがどんな種類なのか知らないな。まあ、ドラゴンの種類にも獣の種類にもあまり関心はないのだけれど。ボクは学者でもなければ、商人でも無い。獣やドラゴンのことは、任務で必要な時だけ覚えればいい。
「
ふんと鼻を鳴らし、上体を反らせたニコの視線にちょっとした苛立ちを感じる。ボクたちよりも頭一つ分高いニコは、見下ろすような視線をボクたちに向けた。
「あ、ちがうって! ごめん。あんたの見立てを否定したいわけじゃ無い。こいつはちょっと生まれが特別なんだ」
慌てたように頭を下げて謝ったセレストを見て、ニコの表情が僅かに和らいだ。
あいつには、人の警戒心を緩める能力でもあるのか?
他人から嫌われやすいボクが口を挟まない方がいいだろう。あのニコってやつは気難しそうだからな。
エーテルから降りたボクは、邪魔にならないように近くの木に寄りかかりながら二人のやりとりを見守ることにした。
「こいつの親は、
「は?」
「聞いてないぞ」
ボクですら知っている神話の存在。この世界を守るもの。天気を操る巨大なドラゴン。
口を挟むつもりも、ドラゴンの種類にも関心はなかったが、
「本当だって! ウソだっていうなら、僕の家にある
セレストは、さっきボクに見せてくれた竜笛を再び取りだした。
ニコは、セレストが掌に載せている透明で、太陽の光を受けて虹色に煌めく小さな笛に息が掛かりそうなくらい顔を近付けて見つめている。
「さ、さわっていいのか?」
「大切にしてくれよ」
激しく何度も首を縦に振ったニコは、一度笛から顔を離す。それから、右手を胸元に当てて目を閉じた。
深く息を吸って、しずかに吐いてから大きな垂れ目をゆっくりと開いて、右手の人差し指でセレストが持っている竜笛の表面をそっと撫でる。
指を離したあとのニコは、直接竜笛をベタベタ触るようなことをしないで、腰を伸ばしたり、屈めたり、左右へ体を傾けたりして、色々な方向から竜笛を眺めていた。
「な、ホンモノだろ?」
「あ、ああ。ありがとう。悪いな……ついつい見とれちまった」
最初に会ったときの気難しそうな表情では無く、照れくさそうに笑ったニコが小鼻を人差し指で掻きながら頭を軽く下げる。
「加工されているから本来の手触りは失われているが、これは石でもなければ宝石でもない。生き物の角を加工したもので、色を塗られたんじゃないってこともわかる」
「これは
「いいものを見せて貰ったことには感謝する」
胸元に竜笛をしまいこんだセレストに対して、ニコは咳払いをしながら姿勢を正すと、そう言った。
「だが、せっかく来てくれたところ悪いが、俺は今
両肩を竦めてボクたちに背を向けたニコは、先端が尖った丸太で囲まれた門の方へ早足で歩いて行く。
人の事は言えないが、こいつもボクと同じように、人間と共に過ごすことがあまり得意では無いのだろう。
しばらく歩いた後に、彼は一度立ち止まってこちらを振り返った。
「とりあえず家にあがれよ。もうすぐ日暮れだ。流石に、来客を夜の樹海へ放り投げるような真似はしないさ」
ニコはそう言って口笛を吹く。エーテルとなにやらやりとりをしていたらしいヴォルトがすぐに四本の脚で駆けていき、ニコを背に乗せた。
大きな声で「お前らはこの梯子を登ってこい」と言ったニコは、ヴォルトと共にツリーハウスのテッペンへ飛び立った。
寂しそうに「ロ……」と鳴くエーテルを、セレストがなだめるのを待ってから、ボクたちは長い長い梯子を登りはじめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます